約3,000年ぶり。オーストラリア本土にアイツが帰ってきた!

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  • author Brian Kahn - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
約3,000年ぶり。オーストラリア本土にアイツが帰ってきた!
Photo: Aussie Ark via Gizmodo US

故郷の大地で吠える。

今ではオーストラリアのタスマニア島にしか棲息していないタスマニアデビルが、3,000年の時を経てオーストラリア本土の自然(保護区域)に再導入される試みが始まりました。狙いは2つあって、ひとつめはもちろん絶滅寸前まで追いやられているタスマニアデビルの個体を増やすこと。もうひとつは、オーストラリア本土で野生化したネコの被害を食い止めることだそうです。

タフなデビル

タスマニアデビル、別名「フクロクマ」は、は体長およそ60cmにして世界最大の肉食有袋類。気性が荒く、真っ黒なうえに奇妙な鳴き声を発し、強靭なアゴで獲物の骨まで噛み砕いてしまうことから「デビル」なんてあだ名がついたようです。日本では現在多摩動物公園で2匹のタスマニアデビルが飼育されてますね。

好戦的な気質は過酷な生存競争を生き抜くため。タスマニアデビルは多産で、一度になんと20匹から40匹の豆粒大の子どもを産むそうなんですが、母親のお腹の袋には乳首が4つしかないために(なぜ?)、生まれて早々に母乳を巡って壮絶な兄弟同士の戦いが繰り広げられるのだとか…。

かつてはオーストラリア本土にも棲息していたタスマニアデビルですが、いなくなってしまった理由は定かでありません。オーストラリア先住民の乱獲を原因とする説や、そもそも数千年前にヒトがディンゴ(野犬)を持ちこんだときから災難が始まったとする説も。いずれにせよ、今ではタスマニア島にしか棲息しておらず、そこでも年々個体数が減り続けて絶滅の危機に陥っています

彼らのピンチを救うべく、オーストラリア南東部に位置するサンクチュアリ内に26匹のタスマニアデビルを再棲息させる試みが始まりました。陣頭指揮を取るオーストラリアの絶滅危惧種保護団体、Aussie Arkによれば、サンクチュアリの面積はおよそ4平方kmで、柵で囲いこまれているため周辺の自然環境には直接影響しないそう。リリースされたタスマニアデビルにはそれぞれ発信機付きの首輪がはめられ、敷地内には無数のカメラが設置されているので、科学者チームが今後彼らの奮闘ぶりを陰ながら見守っていけるそうです。

ネコの脅威

かつてオーストラリアには独自の進化を遂げた生物が数多く棲息していました。しかし、近年における絶滅率は世界でも類をみない深刻さです。気候変動による気温上昇に加え、凄惨な山火事が30億匹の動物が命を奪うという正視に耐えない悲劇も起きています。さらに追い討ちをかけているのが森林伐採ですが、もし絶滅危惧種であるタスマニアデビルがオーストラリアの森に再棲息するようになれば、森林を保護する条例が発足しやすくなるかもしれないそう。

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Photo: Aussie Ark via Gizmodo US

さらに、もしタスマニアデビルがオーストラリア本土に定着してくれたら、野生化したネコの被害を食い止められるかもしれないとの期待が高まっています。

猫はもともとヨーロッパ人にペットとして連れてこられたのですが、野生化を経て現在ではオーストラリアの生態系に深刻な被害をもたらしているそうです。2018年に発表されたある研究論文によれば、1日だけでおよそ180万匹もの爬虫類がなぶり殺されているとか…!年間でみると、被害は実に3億1600万羽の鳥類、そして8億匹の小型哺乳類にも及ぶ憂慮すべき事態です。同じく侵入生物種であるキツネの被害も相まって、オーストラリアの生態系はもはやガタガタ…。

そこで、なんとか在来種を守ろうといろんな方法が試されてきました。野生の在来種にネコを怖がるようにトレーニングを施すのも方法のひとつでしたが、それよりももっと効果的なのは、タスマニアデビルにネコを狩らせること。駆除まではいかずとも、生態系のバランスを整えられるのではないかと期待されています。

Aussie Arkの責任者、Tim Faulknerさんによれば、タスマニアデビルはオーストラリアの生態系における「レギュレーター」の役割を担っているのだそう。

タスマニアデビルは捕食動物でありながら、同時に清掃(死肉も食し、骨や毛まできれいに平らげる)動物でもあるんです。オーストラリアの在来種、特に小型哺乳類や有袋類とは共存関係にあります。


ヨーロッパ人がオーストラリアに移り住んでから、すでに40種の小型哺乳類が絶滅に追いやられました。これは世界のほかの地域すべてで絶滅した種の数に匹敵し、オーストラリアがいかに地球上でもっとも絶滅率が高いかがわかります。これはほとんどが侵入生物種であるネコとキツネによる被害です。タスマニアデビルがオーストラリア本土に再棲息すれば、ネコとキツネを捕食し、ひいては在来種の保全に役立ってくれると考えています。

致死率100%の癌

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Photo: Aussie Ark via Gizmodo US

オーストラリア本土で順調に暮らしていくことができれば、もちろんタスマニアデビルにとっても大きなメリットが。

近年、タスマニア島では顔面腫瘍ができる感染性の癌がタスマニアデビルの個体数を大幅に減少させています。オーストラリア本土に連れてこられた26匹はみな感染フリーで、近親交配の心配がない個体ばかり。ということは、今後たとえタスマニア島のタスマニアデビルが癌により絶滅してしまっても、本土にいる個体がバックアップの遺伝子プールとなりうるのです。

タスマニア島で、癌の蔓延によりタスマニアデビルの個体数が80〜90%も減少した地域では、逆にネコの個体数が増加したこともわかっています。このことについてFaulknerさんは、「バランスの取れたタスマニアデビルの個体数が、ネコが繁殖しすぎないように制御する働きを担っていたことがはっきりとわかりました」と米Gizmodoに話しています。

再棲息の成功例は多数

タスマニアデビルに限らず、世界各地でこうした再棲息の試みが行なわれています。

25年前にアメリカのイエローストーン国立公園内に再導入されたハイイロオオカミは、増えすぎたアメリカアカシカ(“エルク”とも)のバランスを整えるのに功を奏しました。同じくイリノイ州では、かつてアメリカ中部に広がっていた大草原を取り戻すためにバイソンの再棲息が行なわれつつあるそうです。

オオカミもバイソンも、一度消えてから再導入されるまでの期間が比較的短いケースでした。それに比べて今回のタスマニアデビルには3,000年のブランクがありますが、Faulknerさんに言わせれば「生態学的にはほんの一瞬」なのだそう。タスマニアデビルの参上により、今は失われてしまったオーストラリアのかつての生態系についても学べる機会になりそうとのことです。

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