『TENET テネット』は、複雑で混乱する映画です(ただしノーラン監督を除く)

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  • author Germain Lussier - io9
  • [原文]
  • 中川真知子
『TENET テネット』は、複雑で混乱する映画です(ただしノーラン監督を除く)
Image: Warner Bros.

無茶苦茶格好いいことは間違いない。

みなさんはもう映画『TENET テネット』を鑑賞したでしょうか? 私は公開直後に観に行きましたが、まぁ、正直よくわかりませんでした。でも、面白かったのとロバート・パッティンソンが正統派イケメンで洒落にならないほどかっこう良かったことは覚えています。

そんな『TENET』をio9のGermain Lussier記者が鑑賞し、レビューを書いていますよ。


素晴らしいアイディアを思いついたのに、うまく説明できない経験はありませんか? 言葉が喉元まで出かかっているのに、うまく表現する単語が見つからない…。それが、『TENET』です。

『TENET』は、大胆で革新的なコンセプトの映画を得意とするクリストファー・ノーラン監督の最新作です。ノーラン監督は、ストーリーが逆行したり、人の心に侵入したり、宇宙に行ったりする映画を作ってきました。今作の『TENET』は、そのすべての要素を組み合わせ、「もし物理学のルールをひっくり返す技術があったなら? 」「時間の逆行を可能にする技術が開発されたなら? 」「その技術にお金を払う人がいたとしたら? 」「それを止めることはできるのか? 」などの、物理的なIFをトッピングした作品です。

こうやって書くと簡単そうに聞こえますね。「いいね! なんだかわかったような気がするよ。多分。」そんな感想すら出てくるでしょう。そして、その感想こそ、まさしく『TENET』を鑑賞した後に感じるものなのです。分かったか分からなかったか、とても曖昧な感覚で劇場を後にするのです。

難しいストーリーを実現するためのご都合主義なあれこれ

しかし、本作の主役、ジョン・デヴィッド・ワシントン演じる「名もなき男」は、複雑な技術の仕組みを直ぐに理解し、それを阻止する任務を次々とこなしていきます。彼は忠実で、スーツをスタイリッシュに着こなし、任務を遂行するために必要人物を知っていて、最大限に謎に包まれています。

「名もなき男」は、ゲームさながらに、人に会い、与えられたミッションを次々とこなします。最終目的はグローバル・アルマゲドン(第三次世界大戦よりも酷いらしい)を止めること。ただ、このグローバル・アルマゲドン云々の描かれ方は曖昧で、時として映画の流れからずれているようにも感じます。

「名もなき男」はミッションをこなすために、(正統派イケメンと)リバースバンジージャンプを決め、10億ドルのボートレースをします。それはそれで絵的にインパクトもあり、見ていて面白いです。見応えも十分。しかし、飛行機を金庫室に突っ込ませる等のミッションを見ているうちに、「はて、なんで名もなき男はこんなことをしているのだろう? 」「これはアルマゲドンにどう影響しているんだっけ? 」という疑問が頭をかすめます。ただ、そんな疑問は絵的格好良さと、畳み掛けるような展開に押されて「ま、いっか」となります。

空っぽの登場人物たち

小難しい情報が次々と明かされ、その後にド派手なアクション。アクションはどれも素晴らしい上に、時間の逆行というアイディアまでが加味されています。断続的に人が後ろ向きに動き、車が逆回転し、話が巻き戻る…。ひとつの画面内で時間が順行、逆行している様を見るのは圧巻です。

ただ、この時間の逆行は本作の目玉でありながら、物語が進むにつれ登場回数が減っていきます。登場人物らが時間の逆行のことを知れば知るほど、それが当たり前になっていくからかもしれません。フィナーレは、順行と逆行の時間の挟み撃ち作戦ですが、そこに行き着くまでは、技術よりもキャラクターに比重が置かれていたような気がします。

もし登場人物が親しみやすかったら、キャラクターの感情に焦点が当てられていてもすんなりと物語に入り込むことができたでしょう。しかし、悲しいかな、本作の登場人物は揃いも揃ってミステリアスです。主人公にいたっては「名もなき男」で、彼が世界を救いたいと思っているということ以外ほとんどわかっていません。なので、彼が目的を達成しようと必死になっていても、観客はそこまで感情移入することができません。ノーラン監督が、彼に「名もなき男(Protagonist)」と名付けたのには、芸術的意図だけではなく、観客に自分の視点でこの冒険を楽しんで欲しいという気持ちもあったのでしょうが、「名もなき男」という名付けは、キャラクターが空っぽであることの裏付けのようにも感じられてしまいます。

これはロバート・パッティンソン演じるニールというキャラクターにも言えるでしょう。ニールは、一貫して信頼するに足らない曖昧なキャラクターのように描かれています。誰のもとで働いているのか、なぜ手伝っているのか。彼に関するほとんどが秘密のヴェールで覆われています。

エリザベス・デビック演じるキャットには、暴力が支配する息苦しい結婚生活から抜け出して息子を救い出すという目的があるので、ニールよりはキャラクターアーク(ざっくりいうと、作中で描かれるキャラクターの変化)があります。だたそんな設定も虚しく、息子とのシーンから彼女の感情を読み取るのは難しく、そこに親子らしい関係があるようには見えません。彼女と「名もなき男」の間にロマンスの可能性も感じられましたが、結局進展はありませんでした。

ちなみに、今回、キャットはスクリーン場に頻繁に登場しましたが、だからと言って「ノーラン監督は女性を描くのが下手」という汚名を返上したことにはならないでしょう。

ただ、ひとつ言っておきたいのは、ジョン・デヴィッド・ワシントンも、ロバート・パッティンソンも、エリザベス・デビックも、才能に恵まれた俳優です。『ブラック・クランズマン』や『グッド・タイム』、『ロスト・マネー 偽りの報酬』では、とてもいい演技をしていました。

『TENET』では、彼らも観客同様に混乱していて、パフォーマンスを存分に発揮できずにセットドレッシング化してしまっています。物語の鍵を握る、セイター役のケネス・ブラナーをはじめ、マイケル・ケインやアーロン・テイラー=ジョンソン、クレマンス・ポエジー、ヒメーシュ・パテルといった面子も登場しますが、出てくる尺はどれも短く、映画に与えるインパクトは決して高くありません。

『TENET』を理解しているのはノーラン監督だけ

かなり乱暴にいうなら、『TENET』は、力を持ちすぎた監督が、監督の頭の中でのみ理解できるストーリーを映像化した作品です。『メメント』や『インセプション』のように、アイディアを明確に説明しながら実行し、ちょっと欠けた部分のあるキャラクターが壁にぶつかりながらも対処していくという、人間味や親しみやすさは失われてしまっています。

とはいえ、たとえ難解だとしても『TENET』のコンセプトは映画界のグランド・スラムに違いありません。時間を逆行させる機械なんて、格好いいに決まっています。でも、無茶苦茶格好良くて芸術的なコンセプトが原因で、全てが置いてきぼりになっているような気がしないでもありません、観客も含めて。


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