人の想像力を軽く超えていく。
地球の表面面積の約70%は海。その海面面積の約80%は水深200メートル以上の深海です。
深い深い海の底には、なんだかよくわからないけど無性に美しい生物たちがたくさんうごめいています。まるで地球外生命体のようないでたちをしたこれらの生物たちは、夢なのか、はたまた悪夢なのか。
「現実」の定義をくつがえすような異質な生物たちの姿を、じっくりとご鑑賞ください。
暗黒の海をたゆたう妖しい光

ぶっとんだSci-Fi映画に出てきそうなこちらのUFO…いえ、クラゲの一種は、深海にしか棲息していない「ヒドロクラゲ(hydromedusa)」です。2016年に米国海洋大気庁の探査船、Okeanos Explorerがマリアナ海峡の近くで発見しました。

深海には、ほかにもこんなのや…

…こんなのが、まるで宇宙船さながらの輝きを放ちながら漆黒の海の中をたゆたっています。光でエサをおびき寄せているんでしょうか。
ロティサリーチキンの逆襲

「首をちょん切られて丸焼きにされた鶏の亡霊」とキャプションをつけたら、それなりに説得力がありそうな1枚。
こちらは「ユメナマコ(Enypniastes eximia)」という深海生物で、海洋研究開発機構によれば体長は最大で25cmに達するとか。リアルチキンよりやや小さめですね。オーストラリア南極局作成の動画もあるので、ぜひどうぞ。
海底を幽霊さながら浮遊し、よりエサに富んだ場所まで移動するのだとか。ナマコって泳げるんだ…。
繊細なベール

ブライダルベールみたい…と一時うっとりしましたが、米ギズモードのDvorsky記者が同じ画像を見て連想したのは「くしゃみ」。悲しいまでに飛沫が飛びまくってますね。
実際は「クシクラゲ」の一種だそうで、有櫛動物(ゆうしつどうぶつ)ともいわれ、現在地球上に存在している生物の中でもとりわけ古い種なのだとか。上の個体はサモア沖のマルル海山近くで米国海洋大気庁が観測しました。

こちらもクシクラゲの一種。よく見ると触手が七色に光っているのが神秘的です。
なんて大きなお口なんでしょう

未知との遭遇。こんな姿をした宇宙人、いたらヤバい。
「ヒドロ虫(hydroid)」となんだか名前までヤバそうですが、クラゲの親戚なんだそうです。クラゲと違って岩場に付着し、触覚のように発達した口でエサを捕まえます。サモア諸島とクック諸島の境界に位置するレオソ海山で観測された個体。
スッケスケ

なんとこちらもナマコ。ゼラチン質の外皮はほぼ透明で、体内が完全に丸見えです。
とぐろを巻いたヘビのように見える部分は海底の砂がいっぱい詰まった消化器官なのだそうです。太平洋の底で暮らす生物にとって、もはや「砂が口に入ってジャリジャリする」という嫌悪感は皆無のようです。
なぜかとてもグロい

おや、ヒトデの一種かな?と初見で何気なく思うも、まじまじと見つめれば見つめるほど得体の知れないおぞましさに襲われました。多数のムカデが融合したような…タコとテレビアンテナが合体したような……? 不吉な予感しかしません。
米国海洋大気庁によれば、この「ウデボソヒトデ(brisingid sea star)」は既出のヒドロ虫と同じくレオソ海山で観測されたそうです。
深海のダンゴムシ

ダイオウグソクムシ。一時期日本でもブームでしたね。
化石から丸ごと抜け出してきた、とでも言わんばかりの太古の息吹きを感じさせるフォルム。ダンゴムシの遠い親戚なのだとか。甲殻類の一種です。
ダイオウグソクムシは深海巨大症の一例でもあります。深海で生活する動物種が浅いところに棲む近縁の動物よりも大きくなる傾向のこと( Weblioより抜粋)で、緩慢な新陳代謝が成せる技。少ない食料資源、高い圧力、低い温度への適応などによるものと考えられているそうです。
2019年の実験では、深海に投げ込まれたアリゲーターの死骸に無数のダイオウグソクムシが食らいつく壮絶なシーンが確認されています。
深海を飛翔するダンボタコ

大きな耳を羽ばたかせて空に舞うゾウ「ダンボ」の異名を取ったこのタコは、2014年にメキシコ湾内で発見されました。その後、2019年にインド洋でふたたび確認されたダンボタコの様子もこちらからどうぞ。正式には「ジュウモンジダコ(Grimpoteuthis sp.)」というそうです。
このダンボタコ、上の画像では画面奥へと逃げているところ。足を体近くにちぢこめて、ダンボの耳に相当する2枚のヒレで水をかいて進んでいる姿勢が確認されたのはこれが初めてだったとか。
見るからに柔らかそうな質感、微妙なグラデーション、薄絹を何枚も重ねたようなひだひだ。美しい、と素直に思います。
生きるための線

アニメーターやイラストレーターにとって、生きた線は必須。でもこちらの生物(はい、生物です!)にとって、線は生きるための必須です。
このらせんを描くなが〜い線は、たくさんの刺胞動物(しほうどうぶつ)が集まって形成しているいわば「生命線」。合体して、協力し合うことで効率的にエサを確保し、生命を維持しているそうです。詳しくはこちらの記事をどうぞ。
むざりん?

海底にもクモはいるんですね。こちらのウミグモは海洋節足生物の一種で、水深1,495メートルの地点で観測されたそうです。普段なら滅多にお目にかかれない…というかお目にかかりたくない?…世界の住人です。
それにしては既視感があるなと思ったら、アレだ、鬼舞辻無惨の背中についてるアレに似てるんだ!
パチンコ式

ふだんはこんなにブサイクじゃないんです。
ふだんはシュッとした普通のサメっぽい流線型なんですが、ひとたび顎が飛び出るとこんなエイリアンな姿に。
「ミツクリザメ(学名:Mitsukurina owstoni、英名:Goblin shark)」は稀で、その生態はまだまだわからないことが多いそうなのですが、沖縄美ら島財団総合研究センターによれば
ミツクリザメはごく短時間の間に、顎を大きく前方に射出し、獲物を捕らえることが明らかとなりました。顎の突出速度は秒速3メートルと、現時点で魚類のなかで最速です。さらに、突出距離も全長の9%とサメ類の中で最大であることが分かりました。研究グループはこの行動を「slingshot feeding (パチンコ式摂餌)」と名付けています
とのこと。
ちなみに「ミツクリ」は東大の箕作教授のお名前を冠しているそうです。
自然の繊細なガラス細工

美しい。ただひたすら美しく、そして儚い。
ガラス海綿類(六放海綿綱、hexactinellidとも)に属し、骨格がシリカで形成されているリアルガラス細工です。ハワイから西へ1,500kmほど行ったところになるジョンストン島近くで観測されたそう。下のほうが赤く光っているのはカメラのせいかな、それとも自ら発光しているのかな…?
深海にはもっと美しい、もっと意表を突く光景がまだまだたくさん隠されているのでしょう。そして哀しいかな、いまだ見ぬ深海の神秘さえもおびやかす海洋汚染の脅威に解決の糸口は見えていません。地球上で主導権を握った人類には、こんなにもたくさんの生物の命の重さが託されています。
Reference: Weblio, 沖縄美ら島財団総合研究センター