エネルギー錬金術は「超伝導+核融合」で:『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』最終回ガジェット解説

  • author 西谷茂リチャード
エネルギー錬金術は「超伝導+核融合」で:『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』最終回ガジェット解説
©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

Gadget:UNLIMITED!

作中のテクノロジー監修やガジェット考案など、ギズモードがガジェットコーディネートしたTVアニメ『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』最終話放送から早1ヶ月半。シリーズをご視聴いただいたみなさま、本当に本当にありがとうございました!

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

さて、最終話では神戸大助(かんべ だいすけ)が刑事になってまで捜し求めた真相=「母親殺しの犯人」が明らかになり、すべての発端となったナゾ物質=「アドリウムの扱い」が争点となりました。母親・小百合の殺害を命令したのは祖母の喜久子で、実行したのは執事の服部。老いた喜久子を逮捕する意味があるのか……そしてアドリウムの情報を世界に開示するべきか否か……。結果だけいうと:喜久子は逮捕され、アドリウムの情報は公開されました。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥

ガジェット解説シリーズ最終回では、アドリウムとその使い方をご紹介していきます。アドリウムは本作のために作り上げた架空の物質で、室温超伝導という特徴を持っています。一言でいうと、一切のムダなく電気を流せる物質。作中ではそんなアドリウムを使って核融合炉を載せた船を作っていました。核融合炉は、いま世界中で開発競争が進んでいる超絶エコな次世代の発電機です。もし作ることができれば、今後数億年はエネルギーに困ることはないシロモノといわれています。どちらとも、実現できればノーベル物理学賞モノのイノベーションです。

そんな次の時代を切り開くキーテクノロジーなので、普及すれば現代の多くの社会問題が解決できますし、作った者は社会奉仕にもお金儲けにも使えます。いまあるニーズを満たすだけでなく、いずれは人間の居住空間を海洋&宇宙へと広げるためにも使われることでしょう。

人類の未来を左右すると言っても過言ではない最先端テクノロジー。今後10〜30年以内に実現する可能性ありなので、この際にぜひ知っていってください。

凄まじい未来が待っています!

『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』のBlu-ray/DVD 1巻〜2巻は現在販売中(3巻は12月9日発売)。第2巻にはなんと、ギズモード・ジャパンのインタビューも含んだ設定資料集が付属しています。

世界の通貨=エネルギー

気候変動、水不足、食糧危機などなど、現代社会には問題が山積みです。しかしこれらの問題の多くは、たった1つのイノベーションで解決をスピードアップできます。個人的な問題の多くが無尽蔵のお金で解決/緩和できるように、社会的な問題の多くは無尽蔵のクリーンエネルギーがあれば解決/緩和できるんです。

たとえば気候変動の原因であるCO2は、クリーンエネルギーで動く二酸化炭素回収設備をブン回せば大気から回収できます。人口増加によって悪化する水不足も、エネルギーを使って海水/排水を淡水化する設備を動かせば緩和できます。食糧危機も、エネルギーを消費する垂直農法や暖房付きビニールハウスで対応できます。要するに、エネルギー問題が解決できれば多くの社会問題が芋づる式に解消できるんです。

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Image: Shutterstock

しかしエネルギー問題の解決は容易ではありません。石炭・石油・天然ガスなどを燃やす方法はCO2を排出してしまいますし、ソーラーや風力発電は天気に左右されて不安定です。地熱・バイオマス・潮力発電は実用的な立地が限られていて、水力=ダムや原子力発電は環境/社会への影響が大きい……。人類はいまだに理想的な発電方法を開拓できていないんです。CO2を排出せず、発電量が安定してコントロールでき、どこでも使えて、周りへの影響がすくない。そんな夢のようなエネルギー源は存在するわけもなく……と思ったらありました。

太陽です。これまで46億年も輝いてきた太陽は、これからさらに50億年も輝き続けると言われています。使っている燃料は水素で、宇宙に存在する原子の74%を占める、もっとも「普遍 & 無尽蔵」に近い物質。排出するのは主にヘリウムとエネルギーで、CO2は出ません。エネルギーの出力も基本的にすごく安定しています。

もし太陽を地上に再現することができれば、完璧なクリーンエネルギー源となってくれそうですよね。

それを可能にしてくれるのが核融合炉です。

地上の星

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥
作中に登場するのはSuperconductive Adollium Magneto-Inertial Fusion Reactor Mk-II。すなわち磁気ピストン式の核融合炉です。水を沸かしてタービンを回さずとも発電できるはず。

ひとことで言えば、太陽で行なわれているエネルギー生成のメカニズムを地上に再現するガジェットです。太陽のコアでは水素プラズマが超高温・超高圧な状態で閉じ込められていて、水素同士が融合してはヘリウム+エネルギーに変換されています。水素が融合するときに、質量の一部が大量のエネルギーに変換されるんです(アインシュタインが導き出した「E=mc^2」の通りに)。なので核融合炉がすべきことは(方式はいろいろありますが)、水素を激アツに加熱してギュッと閉じ込めることです。

ただしここでいう「激アツ」は数億度にものぼるため、基本的に金属やセラミックスなど、物質でできた容器では耐えられません。そこで使われるのが(ほかにもやり方ありますが)、超強力な磁場です。プラズマが磁場の影響を受けることを活用して、物凄いパワフルな電磁石で水素プラズマを閉じ込めてしまうという仕組みです。つまり、触れられないなら浮かせてしまえという魂胆。

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Image: Shutterstock

しかし電磁石で強力な磁場を発生させるには大電流を流す必要があります。一般的な電線を巻いて作った電磁石は電流を流すと発熱してしまうので、大電流を流そうものなら電磁石を溶かしてしまうほどの熱が発生するでしょう。なんだったら気化・プラズマ化してしまうかもしれません。極めて危険。

となると、電流を流しても発熱しない、すなわち一切無駄なく電気を流せる物質が必要ですが、そんな夢のような物質あるわけもなく……。

と思ったらありました、超伝導物質

理想の電線

実際すでにいくつかの超伝導物質が発見→実用化されていて、たとえば世界最大級の核融合実証炉=ITER(2035年稼働予定)の建造にはニオブスズ製の超伝導磁石が使われています。超伝導電線で作った電磁石は、非常に強い磁場を安定して発生させられるスグレモノです。しかし問題はニオブスズが超伝導の特性を発揮する温度……。なんとマイナス260度ぐらいまで冷却されていないと超伝導性が失われてしまうんです。

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Image: 西谷茂リチャード
NIMS一般公開2019で見かけた、超伝導ケーブル素材の断面。

つまり核融合炉は、数億度のプラズマをマイナス数百度以下の電磁石で閉じ込めているということ。これは宇宙史上最大と言われるほどの温度差といえるレベルで、そこまで激しい温度差を保つには相応のエネルギーがかかるため、核融合で発電する(投入するエネルギーより取り出せるエネルギーの方が多い状態に持っていく)のが難しくなっています。

そこでSPARCなどの新しい核融合炉は、より高い温度でも超伝導になる物質を採用することで、実用化までの道のりを短縮しました。もし室温でも超伝導になる物質が見つかれば、もっと早く核融合炉を実現できると思われます。

いざ、本作の架空物質=アドリウムの出番です(詳しくは記事下)。アドリウムは室温超伝導という特質をもった物質で、室温でも超伝導性を発揮できるというスグレものになります(物理学者に渡したら3日は研究室から出てこないでしょう)。これを使えば特殊な冷却装置なしに超伝導磁石が作れるので、アドリウムがあれば相当早い段階で核融合炉が組めるはずです。

すなわち、世界に先駆けて無尽蔵のエネルギーを手にすることができるわけです。

Energy:UNLIMITED

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥(第10話より)

そうなると逆にエネルギーをどう使うかで迷ってしまいそうなものですが、神戸家のビジョンは定まっていたみたいですね。作中に登場した巨大な船はただの貨物船ではなく、アドリウム核融合炉とそれが生み出す無尽蔵のエネルギーの使い道を研究する調査船でした。具体的には、無尽蔵なエネルギーにものを言わせて海水から清水、有機物、二重・三重水素、金属などの資源の抽出を試みる研究です。実は海水には色々なものが溶け出ているので、エネルギーさえあれば金なんかの貴金属も取り出せちゃいます。

つまり……海水から燃料も建材も抽出可能で、エネルギーが無尽蔵にあるので垂直農法などで食糧も自給自足できて、メンテナンスも船内で完結できるようになるということ。ともなればもう陸に寄って補給する必要がないので、人類の海住まいは案外こうやって加速するんじゃないかなと思っています。そして洋上都市で培われた完結型のエコシステムは陸の都市のサステナブル化にも活用され、さらには宇宙ホテルや火星コロニーの実現にも貢献し、人類の活動範囲がどんどん広がっていく……なんて未来が待ち受けているはずです。

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Image: Shutterstock
太陽のエネルギーを捉えるために建造されるであろうダイソン・スォームのイメージ図。その材料として水星が解体されるだろうとも言われています。

文明の発展度をエネルギー消費量で1〜3にタイプ分けする尺度=カルダシェフ・スケールに当てはめて考えると、我々人類は実はタイプ1にも満たない省エネな発展途上文明です。タイプ1になるには毎秒約280kgの水素を核融合炉に突っ込むなどして、現在の1,000倍以上多くエネルギーを消費していなければなりません。タイプ2になるには、近隣最大の核融合炉=太陽が生むエネルギーのすべてを使うレベル。タイプ3ともなれば天の川銀河すべてです。

途方もない未来のようにも思えますが、SFのような世界観も長い目で見ればいまある世界の延長線上。農耕から始まった人類文明は、核融合を期に銀河文明への大きな一歩を踏み出すんです。

ではちゃんと使える核融合炉はいつできるのか? 先述の新しい核融合炉SPARCは「10年以内に稼働」できるそうです。

ということで、本作のリアリティーライン「10年以内に作れそうなガジェット」もクリア。これにてガジェットコーディネート完了です! 最後までありがとうございました!!

Adollium

先述の通りアドリウムは架空の「室温超伝導物質」です。

冷やさずとも100%の効率で電気を流せる魔法のようなマテリアルで、現実世界ではまだ実用化に至っていないシロモノです。作中では核融合炉、広域ワイヤレス送電、通信妨害(指向性EMP兵器)、プラズマ銃などに使われていました。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥(第9話より)
ヴォルテクスガンは核融合炉の研究で培ったプラズマ制御技術の兵器転用で生まれた装備。

とはいえ冷却して使うタイプの超伝導物質であれば現実世界でも使われ始めていて、たとえばMRI検査リニアモーターカーなどが有名どころ。ただしこれは、冷却にかかるコストを乗り越えられるような大きなリターンがある場合だったため、超伝導物質を使っても採算が取れて実現できたことです。そうそう手軽に手を出せる物質ではありません。

しかしこれが室温超伝導となると話が変わります。冷却コストが一切なくなって、様々な分野で使えるようになるんです。もしアドリウムのような物質が普及したら、以下のようなモノたちが作られると言われています:

・地球スケールの巨大な電力網の構築
・安くて性能のいい量子コンピューター
・電車とかいろいろ浮いている未来都市
・超安全な体内埋め込みガジェット

Video: Thoisoi2 - Chemical Experiments!/YouTube

こりゃあもうワクワクが止まりませんね。しかも実にタイムリーなことに、つい先月(2020年10月)掲載された論文にて史上初の室温超伝導物質(ただし超高圧下)が発表されたんです。超伝導を発見してから約109年……人類はとうとう摂氏15度で超伝導性を発揮する物質を発見しました。ここまでくれば、アドリウムのような物質が見つかるまで時間の問題でしょう。

ちなみにアドリウムの英字綴りは「Adollium」で。これは作中の「架空の国=ポリアドル(Polyadoll)で採れる鉱石が主原料」という設定から来ています。でもそれだけではもったいないので、アドリウムの化学特性もここから導き出しました。

ヒントとなったのはツイストロニクスTwistronics)。原子1個分の厚さしかない1次元物質を重ねてツイスト=ズラすと、電気特性がガラッと変わることに着目した研究分野です。2018年には、炭素の1次元物質であるグラフェンで超伝導性が認められて大いに注目されました。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥(第7話より)
組成式にある「M」はシリセンに添加する金属元素を表しています。添加元素によっては超伝導以外の特性も発揮できるかも…? あと、簡略記号は物理で電気抵抗を示す記号「Ω」の両端をバツにしたものです。抵抗にバツで無抵抗……安直だ。

この発想をお借りして、アドリウムを「角度をズラしながら重ねられたシリコンとリチウムの層構造」=「Angled and Doped Li-Silicene Layers」としました。そしてズラしながら層を重ね続ける物質といえばDNAの2重螺旋なので、アドリウムもDNAにならってとぐろを巻くナノワイヤーとしました。DNAが巻かれる様子を見ていただけば、なんとなくイメージが湧くかと思います。

Video: WEHImovies/YouTube

「海ぶどう」は、巻きに巻かれた超伝導ナノワイヤ=アドリウムだったというわけです。

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©筒井康隆・新潮社/伊藤智彦・神戸財閥(第6話より)
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