アプリもアクセサリもちゃんと動いちゃってます。
11月11日に発表され、別人に生まれ変わったとまで言われた新しいMacBook Air、MacBook Pro 13インチ、Mac mini。正直、びっくりです。なんせ、過去に発売したほとんどのMacBook Proよりも、ほとんどのiMacよりも高速だとわかってしまったんですから。
つまり今まで2、30万円を費やしてやっと手に入れていた性能が、10万4800円(税別、Airの場合)から手に入ってしまうのです。いったい何が起きたのでしょうか?
今さら聞けない「AppleはMacに何をしたのか」を改めて振り返りつつ、僕が新しいMacBook Airを仕事で使ってみた感想を添えてお届けします。
Appleがしたこと1:Macの心臓部分をApple製にした

今までのMacはパソコンの計算処理を担当する心臓部「CPU」にインテル社製のチップを採用していました。Appleはそれを自社製のチップ「M1」に置き換えました。これが今回Appleがやったことです。
ただ単に自社で作っただけではありません。これまで別々のパーツであることが多かった「GPU(グラフィック処理担当)」や「メモリ(処理するデータを一時的に置いておくところ)」をCPUと同じ1つのチップ内におさめました。さらに機械学習や画像処理などを専門に行なう機能も同じM1チップ内に含まれています。複数の機能を一カ所に統合して、Macに最適なチップを作ったんです。
とてもざっくり言うと、この「Macへ最適化」したことが驚くほど高性能なMacを実現できた理由です。
これはインテルのCPUを採用したままでは難しいことです。なぜならインテルはCPUを売って利益を得る会社ですから、Mac以外のパソコンにも採用されます。他のOSでも動作するニーズがありますし、Mac以外のパソコンのパーツともうまく連携して性能を発揮しなければなりません。インテルのCPUは汎用性があるぶん、Mac一筋で設計されたチップではないのです。
バッテリーがもつ、熱くならない

Macに最適化されたM1チップのメリットは、ほかにもあります。
まず、バッテリーが長くもつことです。Macに最適化されていれば、限られた電力をより効率よく使うことができます。実際に新型MacBook Airを数日仕事で使ってみたのですが、ブラウザや簡単な画像編集アプリが中心の業務であれば約3時間使っても75〜80%残っていることがほとんどです。重い処理が少ない僕のような使い方であれば、2営業日はギリギリ充電せずに使えてしまうかもしれません。
別の編集者に動画編集ソフト「DaVinci Resolve」と新型MacBook Pro 13インチで試してもらったところ、4K動画を4時間編集し続けたあとも50%バッテリーが残っていたそうです。充電せずに1営業日8時間、動画編集し続けられるってすごすぎませんか...?
さらに発熱が少ないのもM1搭載Macのメリットです。ほんとうにぜんぜん熱くなりません。今までのMacBookってキーボード全体がほんわかあったかくて、夏場は辛いものがありました。それをまったく感じません。一番熱を持つのは充電しながら使った時ですが、それでもこれまでのMacの半分くらいの発熱じゃないでしょうか。Airには冷却ファンがありませんが、まったく不安なく快適に使うことができました。
別の編集者が冷却ファンがあるMacBook Pro 13インチを試したところ、「4K動画を編集してたけど、ファンの音を一回も聞いたことがない」と言っていました。ファン...じゃあいつ回るんだい?
Appleがしたこと2:心配されていたアプリの互換性をクリアした

このM1搭載Macが発表されたあと、とても心配されていたことがあります。それは「今までのMacアプリが動かないんじゃないか」ってこと。
なぜ動かなくなるのか。それはインテルCPUとM1が違う「アーキテクチャ」であることが原因です。「アーキテクチャ」とは、ここでは英語とか中国語のように「言語」だと思ってください。インテルCPUとM1は違う言語をしゃべるのです。
今までMacに採用されていた「インテルCPU」と「インテルCPU向けアプリ」は、「x86(えっくすはちろく)」という言語(アーキテクチャ)で会話をしていました。しかし「M1チップ」と「M1チップ向けアプリ」は「ARM(あーむ)」という言語で会話をします。
なので「M1チップ」の上で「インテルCPU向けアプリ」を動かそうとすると、2人の話す言語が違います。つまり会話にならない=動作しないんです。
だから今までの「インテルCPU向けアプリ」をM1で動かすには、アプリの開発者が「ARM」で会話できるアプリに作り替えなくてはいけません。1から作り替えるのは大変なので、Appleは2つのプランを用意しました。
1つは「ユニバーサルアプリ化」。これは開発者が今までのインテルCPU向けアプリをM1向けアプリに変換するための機能です。発表会では「10分くらいで変換できた」と語っていた開発者もいました。
もう1つは「ロゼッタ2」。これはインテルCPU向けアプリが話す言語を、M1チップが理解できる言語にリアルタイムで翻訳してくれる機能です。既存のインテルCPU向けアプリに手を加えることなく、M1チップ上で動かすことができます。ただし翻訳しながら動作するので、ユニバーサルアプリほどの性能は出ないようです。
Appleはこの2つのプランで、ユーザーがスムーズにインテル搭載MacからM1搭載Macへと移行できるようにしました。
実際、動かないアプリはほとんどない
で、実際それはうまくいったのか? 少なくともM1搭載Macでギズモード編集部の仕事をする限りはかなりうまくいっています。普段使っていたアプリの中で、まったく動かないものは見当たりません。

まずユニバーサルアプリ化されたApple純正アプリは当然のように軽快に動きます。Safariの表示は爆速です。前から速かったですが、さらに速くなっている気がします。写真アプリはiPhoneのようにスムーズに写真の一覧を表示してくれます(今までのMacの写真アプリ、遅かったですよね?)。先ほどの動画編集アプリ「DaVinci Resolve」もユニバーサルアプリ化が済んでいますが、使った編集者によると「MacBook Pro 15インチとまったく同じ編集ができる」とのこと。

そしてロゼッタ2で動作するアプリについて。今までMacで使っていたアプリのほとんどはユニバーサルアプリ化されておらず、ロゼッタ2上で使うことになります。ただしロゼッタ2だからといって特別な操作は必要なく、いつも通りただアプリを立ち上げるだけです。

試しに、プライベートで音声編集に使っている「Adobe Audition」をMacBook Airで使ってみたところ、エフェクトの処理や書き出しのスピードが我が家のiMac(2019)とまったく同じでした。ロゼッタ2ではM1の性能をフルに使えないとはいえ、M1の性能に余裕がありすぎるからか、充分すぎる仕事をしちゃってます。
試した中でいちばん不安定だったロゼッタ2アプリは、Chromeです。一見きちんと動作しているように見えるのですが、ページの表示は普段使っているインテル搭載のMacより遅いし、2時間に1回くらいの頻度でクラッシュします。しかしM1 Macを試用している他の編集者の話を聞くと、クラッシュするほど不安定ではないとのこと。もしかすると僕が使っている拡張機能が悪さをしているかもしれません。いずれにせよ、Chromeがないと仕事にならないって人は、まだ購入を見送った方が安全だと思います。
2020年11月18日 追記:M1向けGoogle Chromeが間もなくリリースされるようです! ロゼッタ2を使わず動くChromeのパフォーマンスに期待ですね。

ちなみに、M1 MacではiPhoneやiPadのアプリも動きます。iPhoneやiPadに搭載されているチップはM1チップと同じアーキテクチャだからです。これについてはあまり試せていませんが、ニュース系のアプリなど一部のiPhoneアプリはMacにインストールすることができました。特に便利だったのはGIF編集アプリの「GIFトースター」。Macアプリも含めていろいろ試した中で一番使いやすかったので、記事用にGIFを作るときはわざわざiPhoneで作業していたんです。それがMacでも動くんだから便利に決まってます。
Appleがしたこと3:iPhoneの体験をMacに

Macに最適化した専用チップM1を独自に開発し、高性能なMacを生み出したApple。これは最適化された自社チップで動くiPhoneやiPadでやってきたことと同じです。Appleが作ろうとしているのは、iPhoneのように一瞬でアプリが立ち上がり、ブラウザのタブをたくさん開いても平気なほどパワフルで、熱くならず、バッテリーが長もちするMacなのかもしれません。
僕は、これまでのMacがすぐにアツアツのファンぶんぶん丸になってしまうことにうんざりしていました。そしてiPadで仕事をすることを夢見るようになったんです。高速なのに省電力でクールなマシンが薄くて軽いボディで動いていることに、未来を感じたからです。僕にとってはiPad OSがmacOSのように進化することが未来だと思っていたのですが、今回のM1チップはその逆。MacがiPadにぐーんと近づいてきました。
iPadがMacになるのが先か、MacがiPadになるのが先か。
どっちでも僕はうれしいのですが、今はM1 Macに心が傾いています。...だからiPadより軽い、せめて1kgを切るM1 Macが欲しいなぁ!
今回試用したモデル
M1搭載 MacBook Air 13インチ (Late 2020)
M1 CPU:8Core / GPU:7Core / RAM:8GB / SSD:256GB / Gold
Photo: amito