アップルが新規発注停止。インドのiPhone工場暴動で驚く3つのこと

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  • author satomi
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アップルが新規発注停止。インドのiPhone工場暴動で驚く3つのこと
不思議なことだらけ
Image: @TOIBengaluru via Twitter

「インドのイメージダウンを図るため親中SFI(インド学生連盟)が仕組んだ破壊工作」と本気で広めている人が意外と多くて2度びっくり…。

無賃残業に不満爆発の社員が、12月12日にインドのカルナータカ州にある台湾WistronのiPhone製造工場で暴動を起こしてiPhone数千台が消えた事件を受け、アップルが労使関係改善まで新規発注を見合わせることを決め、Wistronに通達を行いました。インドが国策として掲げる「Make in India」構想にとっては大打撃です。

逮捕された社員は168人に達し、国も州もイメージ回復に躍起。一般の反応を眺めると「約束通り賃金を払わない会社が悪い」という声がある一方で、「払ったのにバグで支払いが届いていなかった」という人、「派遣会社が中間搾取していた」と匿名でTV局に語る派遣社員もいるし、「どんな事情があっても暴動はいけない」と厳重処罰を求める人(州労働局長など)、「インドの平和なイメージに傷がついた」と外資が冷えつくことを何よりも心配する人(州知事、IT機器製造業者協会総裁など)までいて、ひと筋縄ではいかない様相です。

驚いたことを3つ拾ってみました。

①被害額が62億円からいきなり6億円に減る

まず一番驚いたのが被害額です。Wistronは当初約62億円以上と発表し、警察にもそう被害届を出していたのに、その後、調書の申告額が約6億円、つまり4,12,50,00,000ルピーから 41,25,00,000ルピーに下方修正されたんです。その差なんと56億円!

州労働局は「保険でカバーされるのかもしれないが詳細は確認中」と言っていますが、コラール警察は「経理の不手際で桁を1個間違えていた」と説明中。インドはゼロが多くて目が回るのはわかるんですが、これってよくあることなんでしょうか…?

州のBasavaraj S Bommai内務大臣は「警察の初動は迅速で164人が逮捕された。被害額も大幅に修正されている。海外メディアが大騒ぎするほどのことはない」とツイートしていますよ。これだけの差額が経理ミスで済まされてしまうのも結構大きなニュースだと思うのだけど…。

②賃金の支払いが滞ったのはバグのせい

もっと驚いたのが、出欠を記録するソフトウェアにバグがあって、残業や出番がまったくカウントされていない社員がいた!という調査結果です。工場は今年稼働したばかりで一気に5,000人から2倍に人員を増やす採用ラッシュの真っ最中です。デバッグが追いつかなかったとのことで、社内調査に当たったK Srinivas工場安全健康管理部部長はDeccan Heraldにこう語っています。

「出欠日数ベースで給与が支払われる派遣社員の出社状況はもともとバイオメトリクス認証で追跡していた。ところが2020年10月に出社カードと連動する新システムが導入されて、そのなかにソフトウェアのバグがあったのだ」

社員の間からは修正を望む声もあったのですが、2カ月間バグを放置してしまった。そのせいで社員数百人が予定より少なく支払われてしまった、というわけです。これにはさすがにSNSでも「それはない…」と言われてますけどね…。

③派遣会社による中間搾取があった?

一方、Akram Pasha労務委員がIndia Today TVに語ったところによれば、「給与は定期的に振り込まれており、遅れがあったとしても4日程度で、社員が言うように2~3カ月分も支払われていないことを示すデータは確認できなかった」のだそう。Wistronの工場は正社員1,343人、派遣社員8,490人で、派遣社員は周辺の村からリクルートされた18~26歳が主体です。州労働局ではWistronとあわせて契約派遣会社6社にも不備がなかったか調べていますが、4日の遅れが数カ月の遅れになっている理由の説明を求めても資料は思うように回収できていない様子です。

働いた日数分や残業代が支払われないことや、技術職と一般職で給与差がないこと、正社員と派遣社員に差があることなどに不満を抱える社員は確かにいたのですが、「トヨタの生産工場のようにストライキをすれば済むことなのに暴動に走るとは驚きだ」と言っています。トヨタ・キルロスカのビダティ工場(同じバンガロール郊外)みたいに1カ月以上もストで操業停止というのも考えものだけど、ガラスが粉々になるよりは…。

州知事は平和をアピール

BS Yediyurappa州知事はThe Economic Timesに「カルナータカ州は常に平和な州であり、このようなことは異例中の異例」だと強調し、次のように語っています。

「非常に厳粛に受け止め、Wistronと労組の両方と連携を密にとりながら、工場の早期再開を支援中だ。はなはだ悲しい出来事ではあるが1回限りの特異な事例なので、今回のことで労働者と業界が満足する労働基準策定が後退することはない。投資家のセンチメントが損なわれないように適宜対処していきたい」

ほかにもさまざまな未確認情報が飛び交っていますが、1つだけハッキリ言えるのは工場が閉鎖になって1万人が無職で年越しになりそうだということです。そうならないことを祈るばかりですね。

Source :Deccan Herald, India Today TV, The Economic Times