AppleのM1すごいんだけど互換性がなあ

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AppleのM1すごいんだけど互換性がなあ
Photo: Joanna Nelius/Gizmodo

Apple自社製チップM1は驚異のベンチマーク

「M1 Macに乗り換える!」と叫んでるWinの人も多いんじゃ? ARM版Windows 10をMacで走らせたらSurface Pro Xより数値が伸びたって話もありますしね。

しかしまあ、あれですよ。いくらM1が爆速で新型MacBook Air、MacBook Proがコスパ最高でも、IntelやAMDのWindowsとは比べられません。そんなこと言ったらIntel Macと比べるのだってムリがあって、 土台のアーキテクチャからして違いますからね。

M1の得意・不得意分野はプログラム次第なところがあって、Cinebenchのベンチ結果は爆速だし、実際Macに乗り換えるWinユーザーも出るとは思いますが、M1の全面勝利と断ずるのはまだ時期尚早です。Appleはなんでもそうだけど、M1も独自の世界で自己完結しているようなところがあるのですね。

Intel/AMDのWindowsとM1搭載Macをベンチ比較

M1とIntel/AMDの違いは後ほど詳しく解説するとして、まずは気になるベンチ結果から見てみましょう。ここでは、Gizmodoが全ノートPCのテストで使用するベンチマーク用ソフトに加えて、タスクごとの性能差がわかるテストもやってみました。合成ベンチだけじゃわからない部分もあるのでリアルベンチも少々。特にM1はネイティブで動作しなくて、AppleのRosetta 2(AppleシリコンM1搭載MacでもIntel Mac用プログラムを実行できるようにするもの)経由で動作するプログラムもあるので、プログラム側のコード変換がダメだと性能にモロに影響しますからね。

使ったノートPCは次の4つです。

・Apple MacBook Pro 13インチモデル:M1プロセッサ@ 3.20 GHz、8コア(大4、小4)、16GB DRAM

・MSI Prestige 14 Evo:Intel Core i7-1185G7 @ 3.00 GHz、4コア/8スレッド、Iris Xeグラボ、16GB DRAM

・Lenovo Yoga 7i 14-inch Evo:Intel Core i5-1135G7 @ 2.4 GHz、4コア/8スレッド、Iris Xeグラボ、12GB DRAM

・Lenovo IdeaPad Slim 7:AMD Ryzen 7 4800U @ 1.8-4.2 GHz、8コア/16スレッド、Radeonグラボ、16GB DRAM

合成ベンチはM1がほぼすべて圧勝という結果でした。例外はGeekbench 5 GPU性能テスト(Intel Core i7-1185G7の勝ち)、Cinebench R23マルチコアテスト(AMD Ryzen 7 4800Uの勝ち)、GFX Bench(両方とも数フレーム差でM1に勝ってる)。

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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


タスク処理時間の比較はそう単純ではない

ややこしくなるのは合成ベンチ以外の作業時間などの比較です。リアルの作業環境で比べると、M1は競合より良くも悪くもなくて、タスクによって成績がマチマチ。M1が勝てるのは、M1でネイティブで動作するプログラムと、Rosetta 2で(IntelとAMDの)x86から(M1の)ARMにコードをうまく変換できるプログラムで、そのいずれかに該当するかどうかで勝負がほぼ決まっちゃう感じなのです。

やっぱりCPUの情報処理のアプローチの差は大きく影響してきます。AppleのM1は命令数の少ないRISC(リスク:Reduced Instruction Set Computer)チップだし、IntelとAMDは複雑命令処理のCISC(シスク:Complex Instruction Set Computer)チップ。最近はCISCもRISCも互いにいいところを真似て寄せてきてはいるけど(後述)、全然違う!

CISCとRISC、土台からして違う

第一、M1のアーキテクチャではクロックサイクルが必ずしも最重視されません。RISCで使うのは、1回のクロックサイクル(電子パルス)で実行できる単純な命令だけ。一見効率の悪い情報処理手法に見えますが、コードが正しく組まれているプログラムであれば、コマンド実行にかかる時間はCISCとそう違いません。つまりハードよりソフトウェアの出来、不出来が性能の決め手になるんですね。さらに、RISCチップは一時データ(キャッシュ)の保存に容量をそれほど食わないので、SoC(System on a Chip)用には最適な候補です。

AppleのM1はCPU、GPU、DRAMがみな同じIC上に固まっているので省スペースですし、相互の情報伝達も効率的に行なえるので、処理スピードはアップして、レイテンシはダウン。消費電力も低く抑えられるという特長があります。

そんなRISCアーキテクチャにも弱点はあって、たとえば、同じタスクをこなすのにCISCチップより長いコードが要るので、命令保存先のDRAMに依存性が高く、また、複雑なコードの変換と実行にも負担がかかります。

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Image: Apple

これがCISCチップなら、もっと短いコードでまったく同じ情報を処理できるので、命令を一時保存するDRAMもそれほど必要としませんし、複雑な命令(「AならBを実行」といった文章の指示)も効率よく処理できます。

無論、CISC側にも弱点はあって、複雑指示の保存先のハードウェア(トランジスタ)に依存性が高いので、チップ自体のサイズがRISCチップよりどうしてもデカくなってしまうし、ひとつの命令を処理するのにクロックサイクルが数回かかるので、クロックスピードの遅いチップ(今の基準でいうなら3.5GHz未満)ではプログラムの立ち上がりが遅かったり、ゲームのシーン読み込みに時間がかかるといったことが起こります。これはいただけませんよね。

RISCは随分長いこと一般のPC市場には食い込めていませんでした。最大のネックは対応ソフトがなかったことです。IBMが発表したのは1970年代後半なのですが、Apple Power Macintoshの時代になってもまだ新奇なアーキテクチャと思われていて採用に前向きな企業は皆無。手のひらサイズのiPod、スマホ、スマウォが全部RISC搭載で登場して、やっと日の目を見ることになったのであって、RISC採用のAppleパソコンなんて30年前には考えられないことだったし、10年前でも想像もつかないことでした。やっと時代が追いついてきた感じですよね。

境目は薄れてはいるけれど…

ノードの小型化が進むにつれ、CISCとRISCの境目は徐々に薄れてはいます。ノードが小型になればチップに詰めるトランジスタの数は増えます。AppleのM1は5nmプロセスとAMD(7nm)やIntel(10nmと14nm)より小型なので、トランジスタは160億個も積めてます。RISCもこれだけどっさりトランジスタを積めば、DRAMにはそんなに依存しなくていいし、CISCみたいな複雑命令処理も可能。CISC側もCISC側で処理速度が格段に上がって、クロックサイクル1回で命令を複数実行できるようになっています。

とはいえ違いは厳然としてあります。AppleのM1はスレッドを使わないけど、IntelとAMDは使いますしね(スレッドを使うと1コアで2つのタスクを同時処理できる…というか、厳密に言うと、スレッドで高速にタスク切り替えができるので、あたかも同時処理のように見える、という意味ですが)。M1はARMのbig.LITTLE処理型のファミリーだから、負荷の大小でコアがわかれています。MacBook ProのM1を例にとると、電力食いタスク用のbigコア4基と、性能より省電優先のLITTLEコア4基という構成。IntelとAMDのチップにはそんな区別はありません。

とはいえ、合成ベンチの数値を見ても、決定打とは呼べないなと感じます。これで性能差らしきものの感触を掴んだりはしますが(特にゲーム)、一般のPCユーザーが切実に知りたいのは数値より現実の「ファイル変換スピード」とか「プログラム起動にかかる時間」でしょ。そっちはAppleシリコンの場合、ソフトウェアの対応状況がどうしてもネックになるんです。

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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


これはWordをPDFに変換したり、Blenderで3D画像をレンダリングしたり、動画を転送したりといったありがちなタスクで比べたベンチマーク結果なんですけど、見てのとおり、AppleシリコンはIntelやAMDより良くも悪くもない感じ。単に得手不得手が違うだけなんですね。

最初に比べたのはMicrosoft Officeです。802ページのWord文書、1万行以上あるExcelの表計算ファイル、200ページのパワポ資料をそれぞれPDFに変換してみました。平均でMacBookはほかのノートより10~20秒遅めでしたが、Excelは圧勝で、これだけ大量のファイルを競合の2~4分の1の1分ちょいでPDFに変換できました。

でもBlender、Handbrake、Adobe Premiere ProはどれもRosetta 2経由なので勝ち負け半々で、BlenderのCPUとGPUのレンダリングテストはどちらもMacBook ProがIntelに楽勝でしたが、 AMDにはスピードで負けてるし、Premiereで45秒の4K動画をMP4からHEVCに変換する作業ではMacが大苦戦。Handbrakeで勝てたのはIntel Core i5に対してだけ。

ところが、同じHandbrakeでもM1仕様のHandbrakeベータ版を使ってコード変換テストをやると、半分の時間しかかからないの。いきなり13.6分から7.8分になるんですよね(グラフに「ベータ」と注記されたベンチ結果です)。M1用に最適化された、ネイティブで動作するプログラムでは、IntelとAMDなんか目じゃないスピードが出るという話は本当みたいです。

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ミリ秒数がかからないほど高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


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ハイスコア=高性能
Graphic: Joanna Nelius/Gizmodo


ゲームのベンチ結果はもっと単純で、GeekbenchとGFXの結果と目立った違いはありません。『Civilization VI』と 『Shadow of the Tomb Raider』はやはりRosetta 2経由でテストしましたけど、CPU性能を計測する『Civilization VI』のAIテストでは、Intel i7(MSI Prestige 14 Evo)がMacBook Proに僅差で勝っています。GFXのベンチは、 『Shadow of the Tomb Raider』で自分が計測したリアルのFPSより数値が誇張されてるように感じますが、ゲームごとにフレームレートが違うのは今回に限った話ではないかもしれませんね。上のスコアは、低解像度設定の(またはMac並みの)1,080pで比べたものです。IntelのIris XeがMacBook Proの統合型GPUより性能は上だけど、その差わずか数フレーム。AMDとCore i5についてはMacBook Proの圧勝でした。

最新MacBook Proをゲーム目当てで買う人はあまりいないと思いますが、M1ではソフトウェアがARM-RISCに対応済みかどうかが本当に重要で、それによって処理が違ってくるってことですね。読み込みやレンダリング、変換のスピードは速ければ速いほどタスクは早く終わらせることができます。たとえ30秒の差でもないがしろにはできませんよね。読み込みバーをボーッと眺めて楽しい人なんていませんもん。

M1のノートといえば、バッテリー持ちも忘れちゃならないセールスポイントです。動画視聴テストではM1 MacBook Airは14時間、MacBook Proはもっと長い18時間ももちました。今年発売のIntel搭載13インチMacBook Pro(8時間10分)に比べたら大躍進です。M1ってめちゃ省電

主要ソフトウェアがM1に対応するまでは「待ち」かな

Apple最新のコンピュータはRosetta 2が搭載になっていて、IntelやAMDの対応プログラムも自動的にM1で実行できる言語に変換されます。でも問題はRosetta 2で動かないアプリもあること。Appleシリコン上でネイティブに動作するプログラムはまだ少なくて、動作するプログラムもまだ発展途上といった感じです。たとえばAdobeもAppleシリコン対応のPhotoshopとLightroomはベータ版しかリリースしてなくて、機能をフルに使うこともできないし、Premiere Proネイティブ対応版もまだ開発中の状況です。

AppleのRISCプロセッサをずっと悩ませていた問題が霧散したわけではないんだな、とベンチで改めて感じました。RISC受け入れの土壌は急速に整っていますし、人気ソフトのM1対応版の開発に意欲を燃やすデベロッパーも増えているので、M1は当分安泰そうですけど、差し迫ってMacが要る理由がない限り、大手デベロッパーがARM版を正式に出して作業効率がもっと格段にアップするまで様子見でもいいかなと個人的には思います。

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