破壊と混沌のカメラ、iPhone 12 Pro

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  • author 照沼健太
破壊と混沌のカメラ、iPhone 12 Pro
Photo: Kenta Terunuma

カメラとして、iPhone 12 Proはどうなのか。

世界で一番売れているカメラはiPhoneだ」と言われ、早10年近くが経ちました。

近年、スマートフォンの影響によってカメラ販売台数は減り続けているのは間違いありません。しかし、スマホをカメラとして捉えれば、現代は歴史上もっともカメラが身近になっている時代なのです。

そんな2020年現在もっとも進んだスマホである「iPhone 12 Pro」を“カメラ”として使って感じた驚きと違和感をご紹介します。

第一印象は「人間の目のようなカメラ」

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iPhone 12 Proで写真を撮り始めて、真っ先に感じたのは「フラットな写真が撮れる」という印象。

その理由は、iPhone 12 Proのカメラ最大の特徴である「本格的なコンピュテーショナルフォトを撮れる」ことにあると考えられます。

まず、フルサイズのデジタルカメラと、iPhone 12 Proで撮影した写真を見比べてみましょう。

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フルサイズデジタルカメラで撮影。JPG撮って出し。
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iPhone 12 Proで撮影。撮って出し。

どう感じますか?

もちろんフルサイズのデジタルカメラとiPhone 12 Proでは、センサーサイズもレンズの値段も違うため、描写品質の違いはあります。しかし、それ以外に大きな違いがあるのがわかるはず。

そう、「明るいところが明るくなりすぎない」「暗いところが暗くなりすぎない」ということです。

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フルサイズデジタルカメラで撮影。JPG撮って出し。

通常のデジタル写真は、レンズを通して集めた光をセンサーが受光し、RAWデータやJPG画像を生成します。当然ながら光が多い明るい箇所は明るく写り、光が少ない箇所は暗く写ります。ちなみにフィルム写真の場合も、基本的にはセンサーがフィルムに置き換わるだけです。

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iPhone 12 Proで撮影。撮って出し。

それに対し、コンピュテーショナル・フォトは、JPG画像を生成する前に「何を撮った写真なのか」をデバイスが解析し、部分的に明るさなどを調整し、ときには合成も行ないます。これによって、いわゆる「白飛び」や「黒潰れ」といった“情報の欠損”を最小限に防いでいるのです。

デジタルカメラで写真を撮り慣れている方や、見慣れている方は、もしかしたらiPhone 12 Proで撮った写真に違和感を覚えるかもしれません。実際、僕は違和感を払拭できません。

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しかし、それは従来の「写真」と比較しての判断です。実際にこの場にいた僕自身が肉眼で見た視界に近いのは、間違いなくiPhone 12 Proで撮った写真です。

なぜなら、人の視覚は、白飛びや黒潰れを防ぐように、無意識に脳によって補正されているからです。つまり、それってコンピュテーショナルフォトそのものなんです。

見慣れた「写真」としては不自然だけど、人間の視覚としては自然。この事実をどう捉えるかで、これからの写真との向き合い方につながっていくはずです。機械学習の進歩によって違和感がないギリギリを攻めるようになるのか、それとも人類の目がコンピュテーショナルフォトに馴染むのでしょうか。

ちなみにiPhone 12 Proを使っていると、撮影した写真をiPhoneが加工する前と後を目撃することができます。撮影直後にプレビューをスクショしたのがこちら。

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それから1秒ほど待つと、写真が次のように変化します。

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明らかに変わっているのがわかります。

この前後の画質差を見る限り、iPhoneは(Live Photosをオフにしていても)ビデオとして写真を記録し、その上で“写真風”に加工しているのではないかと推察できます。

iPhone 12 Proで撮った写真は加工しやすいが、落とし穴あり

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広角カメラで撮影。

さて、そんなiPhone 12 Proで撮った写真ですが、なんとも加工しやすいです。

ハイライトを抑えたり、シャドウを持ち上げたりする必要がほとんどないフラットなデータなので、VSCOなどのフィルター乗りもいいですし、Lightroomで調整を加えても画が破綻しにくい印象です。

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超広角カメラで撮影。

動画撮影でいうところのLog撮影したデータをカラーグレーディングするような感覚でしょうか。JPGにもかかわらずRAW現像であるかのように柔軟に調整できるのです。

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望遠カメラで撮影。


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とくに最近Lightroomに3カラーホイールのカラーグレーディング機能が搭載されたので、iPhoneで撮ってiPhone内で加工するだけで良い感じの写真が作れます(余談ですが、インスタグラムの普及以降、写真家でなくとも写真を加工して使うのが当たり前になっている現代、リテラシー高すぎないですか?)。

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キツめのシャープも、モノクロではいい感じ。

さて、そんな使い勝手のいいiPhone 12 Proの写真ですが、いくつか気になることがあります。主なポイントは次の通り。

・シャープネスがキツめ

・超広角カメラで撮れる写真はよく見ると嘘っぽい

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超広角。一見美しい写真ですが、ちょっとでも大きく表示するとめちゃくちゃです。

超広角カメラは一見すごく良い写真が撮れるのですが、ちょっとでも暗くなるとディテールがめちゃくちゃになってしまいます。また、どのカメラで撮った写真だとしても、大きな画面で確認すると、ディテールが荒々しいです。

それと通じるのですが、iPhone 12 Proでもっとも気になるポイントがこれ。

・iPhone以外のデバイスで見ると写真の印象が大きく変わってしまう。

iPhone 12 Pro上で調整に満足できたとしても、iPad ProやMacで見た途端にディテールが非常に厳しいことになっていたり、色が飽和していたりと、ガタガタになってしまうのです。

おそらく、iPhone 12 Proで撮る写真は今のところiPhoneの有機ELディスプレイに最適化されているのではないでしょうか(iPhone Xで見ても大きな印象は変わりません)。

iPhoneの画面というパラダイムシフトをどう考えるか

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iPhoneのディスプレイで写真を見ると、美しく見えすぎる」という問題は、何もiPhone 12 Proが初めてではありません。

遡れば、ハイエンドなデジタル一眼レフやミラーレスカメラについている背面ディスプレイもそうです。撮影直後に背面液晶で写真を確認して満足したのに、MacやPCの画面で見てガッカリした経験、多くないですか? さらに近年は、Macで調整した写真をiPhoneで表示した際も「あれ、こんな綺麗だっけ?」と思うことも多々ありました。

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ポートレートモードがハマると、ボケがなだらかで美しい。LiDARの威力を感じます。

しかし、問題はここから。

従来は信頼性の高いモニターで破綻ないように調整し、その後さまざまな視聴環境で問題が起きない平均点を探るのが一つの正解でした。あるいは、印刷など最終のアウトプットに合わせるかどうかですね。

ただし、現代の平均的な視聴環境って、iPhoneの画面なんですよね。

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コンピュテーショナルフォトが効果的なのは、料理写真ではないかと。

つまり、iPhone上で綺麗に見えていればそれが正解とも言えるんです。

みんながハイエンドカメラの背面液晶を持っているようなものなんですから。

iPhone 12 Proが写真の未来であることは間違いなし

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「スマホでここまで撮れるとは」と驚く一方、拡大するとやはり厳しさは残る。

以上のように、iPhone 12 Proは「カメラ」どころか「写真」の概念そのものに揺さぶりをかける、相当アグレッシブなプロダクトだと感じます。

圧倒的な手軽さと、写真を見慣れた人ほど感じる絶妙な違和感と可能性。そして、根こそぎ写真視聴環境を変えてしまう暴力的な販売台数。

これらが渾然一体となった、変革期のカオスそのものではないでしょうか。

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さらには、2020年末に搭載されるというApple独自のRAWデータ形式「Apple ProRaw」によって、“コンピュテーショナルフォト度合い”を手動である程度調整できるようになったとき、どんな可能性が広がるのか。

良くも悪くも、このカメラを使っておくことは、写真の未来の一端を垣間見ることそのものになりそうです。

Photo: Kenta Terunuma

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