音楽家・くるり岸田繁に聞く「映像化する」音楽の行方と、加速する現代社会と「未来」との付き合い方

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  • author Jay Kogami
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音楽家・くるり岸田繁に聞く「映像化する」音楽の行方と、加速する現代社会と「未来」との付き合い方
左から、岸田繁(くるり)、齋藤迅(Lyric Speakerクリエイティブ・ディレクター)

コロナ禍の影響もあり、YouTubeや音楽サブスクリプションでの音楽視聴がさらに浸透しました。急速に進化していく中で、「音楽を聴く」という文化は、どのように変容しているのかを、バンド「くるり」で、ほとんどの作詞・作曲を手掛ける音楽家、岸田繁さんにぶつけてみました。多様なジャンルを横断して、実験的な創作活動を続けてきた岸田さん。特任准教授、クラシック音楽の作曲家の顔も持ち、ポピュラー音楽、音楽教育、芸術の視点から、現代の音楽世界との関係を見つめてきた稀有な音楽家です。

今回は岸田繁さんと、音楽と同期して歌詞をモーショングラフィックで描く次世代のスピーカー「Lyric Speaker」を開発するクリエイティブ・ディレクターの齋藤迅さんと共に、現代の音楽視聴の形と、加速するテクノロジーとの付き合い方についてを聞きました。

「耳だけで聴く音楽が逆に新鮮」と言う、映像で音楽を聴くYouTube世代

JAY:いまの10代や20代には、音楽サブスクも浸透してきていると思いますが、同時に音楽をYouTubeをメインに聴いている人も多いと思います。そういうYouTubeメインでの視聴の人々は、音楽からどういうイメージを受けていくっていうことになるんでしょう?

岸田:今、京都精華大学のポピュラーカルチャー学部で教えてるんですけど、例えば20歳くらいの学生とかは、音楽はYouTubeで聴くもんやと思ってる人が多いですね。そうやって育ってきたのかなと思います。で、音楽だけ聴かせたら「映像がないのが新鮮」だと言ってました。

JAY:映像がないのが新鮮?

岸田:はい、まあ面白いなと思いましたけどね。「ふーんそうなんや」と。ラジオとか聴かせたらすごく不思議がっていました。うちの子供たちもそうかもしれません。やっぱりYouTubeを見てるから。音楽があったら映像も欲しいなと思ってる感じがありますね。なんとなく。

JAY:音楽は映像とともに聴くもの、という感覚が若い世代にはあるってことなんですかね? 音楽は、映像ありきがスタンダードというか。

岸田:まあそういう事なんじゃないですかね。

JAY:視覚的に音楽と向き合うのがデフォルトになりつつある時代という話があるかもですが、音楽再生と同時に歌詞をビジュアライズするリリックスピーカーを開発された斉藤さんは、映像ありきの音楽の流れについては、いかが感じていますか?

斉藤:僕もTikTokやYouTubeなど、視覚的な音楽体験というのは、トレンドにあると思います。リリックスピーカー も音とビジュアルが一体化する生理的な気持ち良さは、シズルとして追求してきています。でも、音楽を映像と一緒に楽しむのはいまのスタンダードになって来ているかもしれませんけど、それと同時に、音楽を聴いて浮かぶ情景とかって、目で見る映像以上のときもありますよね。ふっと昔のことを思い出したり、ある感覚が蘇ったり。

脳内に情景を浮かび上がらせる、歌詞が持つ「映像喚起力」

JAY:いまの斉藤さんの話にも繋がりますが、岸田さんは最近歌詞で何か今までとは全く違う想いとか、歌詞を聴いてもしくは歌詞を見てこう感じるといったような体験ってなにかありました?

岸田:ポピュラー音楽って、なんていうんでしょうね。例えば井上陽水さんの『少年時代』。その、「夏が過ぎ、風あざみ、誰の憧れに彷徨う」って聴いた感じすごくいいじゃないですか。言葉が美しいし、風景が浮かぶし。「風あざみ」って考えたら何みたいな感じですけど。だからそう考えたら陽水さんの声とか作られた音楽自体の性能っていうか、あの録音物自体の効能っていうか、それがちゃんと言葉とかに作用して人に届いてるみたいなのって、やっぱりポップスっていいなって思うんですよね。

あと、中島みゆきさんの『ホームにて』って曲があって。すごくいい歌詞で。その歌詞の中の主人公にいろいろあったんやろなみたいな。何がいろいろあったかは語られてはいないんですけど。その街から田舎へ帰る人々のことと、ちょっとした風景が描かれているだけなんですけど、すごくグッと来ましたね。

僕が好きな歌詞っていうのは映像的っていうか、あんまり説明していない方がいいかな。オールドスクールな歌詞のほうが好きですね。

斎藤:そういう映像的な歌詞には、どんな魅力があるんですか?

岸田:やっぱりその、風景が浮かぶとか、映像喚起力があるというか。駅とかに貼ってある、いいちこの広告みたいなのが好きなんです。なんかあれって、なんも言ってないじゃないですか。でもあそこに、言葉にはなってないけどいろんな何かがあるみたいな、なんかあの感覚が結構好きで。さっきの陽水さんの話じゃないですけど。普通の言葉なんやけどそれを音楽に合わせて歌ってるだけで、なんか真っ青な世界になったりとか。なんかそういうちょっと言葉がマジカルに転がっていくようなのが、自分の中では映像的な感覚です。

斉藤:すごいわかります。音楽って、実際に映像がついてなくても、脳内で映像を作り上げながら楽しんでいるような部分もありますよね。ちなみに、僕が作っている、「Lyric Speaker」っていう再生中の曲の歌詞をモーショングラフィックで見せるスピーカーがあるんですが、それが最近、AWAに搭載されたんです。そしたら、10代のユーザーの8割ぐらいが、その歌詞がモーショングラフィックで見る「Lyric Dive(リリックダイブ)」ってモードで音楽を聴いているんです(※)。YouTubeで育った世代は、音楽を映像付きの世界観で楽しみたいというのがさっき話でしたが、歌詞だけでも歌詞をトリガーとして脳内で映像化して楽しんでいる、そんな情景があるのかなと思いました。小説などの文字カルチャーや、漫画やアニメといった2次元のカルチャーもそうですが、受け手に解釈の余地があるアートフォームが、10代の感覚ともマッチしたのかなと思いました。また、これは、いちリスナーとしての意見ですが、聴いている中で物語が脳内で広がっていくような、映像喚起力の高い楽曲は最近ヒットしているような感覚がありますね。

※AWA学生プランを利用しているユーザーの1か月あたりのLyric Dive利用率

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Image: AWA
Video: AWA公式 YouTube / YouTube

JAY:「Lyric Dive」のデモを見て、岸田さんはどう思いました?

岸田:斉藤さんのリリックスピーカーは、歌詞が飛んでくるって感覚というか、音と言葉が一体化してる感じがするんですよね。単なる読み物ではない感覚っていうのが自分の中ではあって。音楽を目で見たような感じで、言葉が飛んできて消えていくような感覚っていうのかな。

例えば、水を一滴、ポタッと水面に落としたときに、音と共に水面に広がっていく波紋の様子やったりとか、渋谷のスクランブル交差点で信号が青になった瞬間に、人々が一斉にわーっという音と共に動き出すのを、ビルの上から俯瞰して見ている感じとか。なんかその音と動きのシンクロした面白さみたいなのが、自然界の動きのあるものに似てる感じがして。そういう文字が動いてるっていうのはある種、不思議な気持ちになりますよね。

「過去」と「未来」の両方を見渡し、「今」をクリエイションする

JAY:音楽制作も音楽体験も、ますます、テクノロジーによる変化が加速していく今、私たちはテクノロジーとどう共存していくべきなのでしょうか?

岸田:例えばスマートフォンというデバイスを一回触ったら、次には、昔から自然界にある土を一回触るとか、そうして「過去」と「未来」の行為を交互に体験していった方がいい気がします。アマゾンで一回買い物したら、次は必ず一回、近所の豆腐屋で買い物するみたいに、新しい行為と古い行為を混ぜていったほうがいいと思いますね。で、その混ぜていく中でおのずと取捨選択をして、「ああ、私はこうなんや」みたいな、自分が探している何かに対する、ひとつの答えに辿り着くのかもしれません。時間軸上に「過去」「現在」「未来」と並んでいて、「現在」の場所から「過去」と「未来」の双方向が見えるっていうことだとしたら、片方だけを見るというのはアンバランスになってしまう。「過去」と「未来」を分散させることなく両方バランスよく見ながら取り入れていく事がいいんじゃないのかなと思ってます。

斉藤:確かにそうですね。人間はどうしても過去のカルチャーを神聖化したり、逆に、過剰に未来志向になっちゃったりします。でも、たとえば、アコギの弾き語りといったオーセンティックな音楽性のアーティストが、TikTokという最新のプラットフォームでヒットするような、未来的な感覚と歴史的な感覚の融合したところに、魅力的な「今」があるように感じます。また、僕の中では、岸田さんて、元々すごくフィジカルなバンドサウンドが魅力の「東京」でデビューされた方のイメージが強かったんですね。それがサードアルバムの『TEAM ROCK』から突如テクノやダンスミュージックの要素を取り入れて、デジタルサウンドとフィジカルなバンドサウンドを巧みに融合していく流れのオリジネーターっていうイメージを強く持っています。だからすごく今の話って腹落ちするというか、常にフィジカルなものとデジタルなものの間を揺らいできた歴史は、一貫されているなと感動しました。

岸田:人間ができないような高度な演算をコンピューターにさせて、何かを作り出したりするなど、音楽を作るうえではすごく役に立つ部分もあります。ただ、それを使って何かを産み出しているのは、根本的に自然物としての人間が持つ力っていうんですかね、人智を超えた、まだ科学が解明していない、人間が気づいていない未知の人間の力みたいなものが、何かを作らせてるところっていうのは大きいと思うんです。だから、そこにちゃんと立ち返りながら最新技術と付き合っていけるといいのかなっていう風に思ってます、今のところ。

JAY:いまの「テクノロジーでは言い表せない部分を大切にする」、というのは、さっきのLyric Diveの「言葉が自然界の物質のように動いている」ということに生理的な魅力を感じている話と、つながるものを感じました。今日はありがとうございました。

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