電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2020」、リアルとオンラインのハイブリッド開催が示した新たなライブ体験の可能性

  • author Jun Fukunaga
電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2020」、リアルとオンラインのハイブリッド開催が示した新たなライブ体験の可能性
Image: MUTEK.jp 2020

12月9日(水)〜13日(日)の5日間にわたって開催された、電子音楽とデジタルアートの祭典「MUTEK.JP 2020

最先端の電子音楽やメディアアートに加え、カンファレンスやワークショップも楽しめるこのイベントも今回で初開催から5回目を迎えましたが、今年はコロナ禍の影響を受けたことでも開催を決心するまでにはさまざまな懸念や想いがあったと言います。

しかし、コロナ禍の今だからこそ、新鋭気鋭のアーティストコミュニティのサポート、日本の文化芸術振興のため、新しい発想と表現を追求する音楽/デジタルアート/メディア芸術の革新的コンテンツプログラムを安心安全に届けたいと考えた運営側の判断により、今年はリアルとオンラインを組み合わせたハイブリッドなフェスティバルとして開催されました。

昨年は、渋谷ストリーム ホール、LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)やLIQUIDROOMなど新旧の渋谷のランドマーク的ベニューが会場になりましたが、先述のコロナ禍の影響を受け、今回は最先端ライブパフォーマンスを体験できるリアルイベントは、新型コロナウイルス感染拡大防止対策の会場ガイドラインに基づき、各日150名の限定人数で渋谷ストリーム ホールのみで実施されました。


12月10日(木)〜12日(土)にかけて行われたリアルイベントでは、革新的かつ先進的なオーディオビジュアル・パフォーマンスに焦点を当てた「A/Visions」、エレクトロニックミュージック、デジタルアート、テクノロジーの交差点を探求した実験的ライブパフォーマンスを紹介する「Nocturne」という2つのプログラムを開催。

アンドロイドロボットのオルタ3と能楽師によるプロジェクト「傀儡神楽 ALTER the android KAGURA」、オープンリール式テープレコーダーを巧みに操るOpen Reel Ensemble、インプロのレジェンドとして知られるJim O’Rourkeと彼の長年のコラボレーターEiko Ishibashiの2人による貴重なコラボライブ、シンガーソングライターのMaika Loubtéによる普段の彼女のイメージとはまたひと味違ったエクスペリメンタル・ライブセットなど多彩な12組のオーディオビジュアルパフォーマンスが披露されました。

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傀儡神楽 ALTER the android KAGURA

2016年にMUTEK.JPがスタートして以来、毎年足を運んでいる筆者からすると、例年披露されるライブパフォーマンスは”電子音楽とデジタルアートの祭典”らしいアーティーさを感じさせるのはもちろんのこと、そこに身体的にも響くリズムやグルーヴを感じるものも多く、ライブハウスやクラブのようにパフォーマンスに合わせて身体を動かしながら楽しめる印象があります。一方、今年のリアルライブでは、先述のように感染拡大防止対策の観点から会場では着席必須になっていたため、披露されるパフォーマンス自体もその形にあわせて、椅子に座りながらでも楽しめることを念頭に置いたものになっていたように感じました。

その点で言えば、KafukaとプログラマーのKezzadrixによるオーディオビジュアルライブは、その状況を逆手に取り、ダンサブルなビートを響かせつつも、渋谷ストリーム ホールの会場内をモチーフにした映像を使うことで、着席しながらもパフォーマンスに没入できる工夫が凝らされたものになっていました。

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Kafuka&Kezzadrix

また、真鍋大度は今年のSónar+Dで発表したレクチャーパフォーマンス作品「morphchore」のアップデートバージョンを披露。「頭の中でイメージしただけで、ダンスや振り付けができるとしたら、どんなのものができるのだろうか?」という想定のもとで制作されたこのパフォーマンスでは、ダンサーの脳波を読み取って、それをもとにバーチャルモデルを踊らせる様子が披露されました。

パフォーマンスの前半では、脳波や脳のスキャン画像のほか、インプット用のバーチャルモデルやそのデータをトレースしながら動くアウトプット用のバーチャルモデルの映像が、アンビエントミュージックにあわせて会場内のスクリーンに映し出されましたが、後半では、イーブンビートのテクノやグリッチで複雑なビートにあわせて機敏に動くバーチャルモデルの姿も。

さらにパフォーマンスが進むにつれて、バーチャルモデルはブレイクダンス的な動きからリアルではありえないほど身体をグネグネとくねらせながら回転するなど摩訶不思議な動きを披露し、見ていたギズモードスタッフ曰く、“フランシス・ベーコンの絵から出てきたような”奇妙な映像に観客の目が奪われました。

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Daito Manabe

一方、オンラインイベントでは、渋谷ストリーム ホールで行われるリアルイベントの配信だけでなく、開催17回目を迎える「MUTEK.MX」(メキシコ)とのコラボによって、2つの都市で同時開催される「MUTEK」や、ノルウェーのInsomnia FestivalやEkko Festival、イタリアのClubToClub Festival、韓国のB39/PRECTXE FestivalといったMUTEKパートナーとのコラボプログラム、デジタルアート作品を展示するインタラクティブギャラリー、レクチャー、トーク、マスタークラスが行われるDigi Lab、MUTEKのアーカイブ音源を公開したリスニングルームを楽しむことができました。

特に海外フェスとのコラボ開催に関しては、例えば、今後、5Gテクノロジーの発展によって、今よりもさらに多数同時接続や超高速、超低遅延が可能になれば、世界各地のMUTEKがリアルとオンラインのハイヴリッドで一気に同時開催されたり、その際に海外にいるアーティストがテレイグジスタンスによって、よりリッチなリモートパフォーマンスを東京で披露するなど、自分が今いる場所で体験できることがアップデートされる可能性を感じさせてくれました。

また、今回は配信プラットフォームもサードパーティのものではなく、MUTEK独自に設計されたものが採用されており、コンテンツを視聴するユーザーは、プラットフォーム内でライブパフォーマンスが行われるバーチャルステージ、インタラクティブギャラリー、レクチャー/トーク/マスタークラスが行われるDigi Lab、過去のMUTEK音源のアーカイブという4つのカテゴリー毎に振り分けられたチャンネルを切り替えながら楽しめる仕様になっていました。こういったチャンネル切り替えによって生まれるイベント内のコンテンツの周遊性は、実際のフェスで複数ステージを行き来することの追体験的な要素であり、過去に体験した日本科学未来館内を動き回りながらライブパフォーマンスやレクチャーを楽しんだ際の記憶に通じるものでした。

加えて、リアルライブの醍醐味を現場で味わいつつ、オンラインではライブストリーミングだけでなくアーカイブも楽しめることは、今回のようなハイブリッド開催ならではの魅力です。オンラインライブでは、よく再現性や場所に捉われないことがメリットとして挙げられますが、今回、筆者はまさに東京でリアルのライブパフォーマンスを楽しみ、オンラインではその感動をアーカイブでもう一度味わいつつ、いつかは行ってみたい海外の「MUTEK」の雰囲気を楽しむことができました。

コロナ禍によって、イベント業界は確かに大きな影響を受けましたが、テクノロジーを活用することでそんな逆境も跳ね返すこともできる。そのことを見事に体現し、かつ、コロナ禍以降のライブエンタメにおけるニューノーマルとしての“リアルとオンラインのハイブリッド”イベントの可能性を示したのが今年のMUTEK.JPだったように思います。

なお、今年のMUTEK.JPのアーカイブは、2021年1月1日まで視聴可能になっています。ぜひ、この機会にリアルで楽しんだコンテンツをオンラインでもう一度視聴する、見逃したコンテンツを改めてチェックするなどして、お楽しみください。

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