ジャック・マーが消えた? 去年の郭文貴の予言が怖すぎるんだけど

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ジャック・マーが消えた? 去年の郭文貴の予言が怖すぎるんだけど
Image: SPhotograph /Shutterstock.com

世界史上最高額3.8兆円のアントIPOに突如として、まったがかかって早2か月。

アント親会社アリババ・グループの創業者で、つい最近まで中国最大の富豪だったジャック・マー(馬雲)氏が昨年10月24日の中国政府批判発言を最後に公の場から姿を消し、アフリカのイベント出演もキャンセルしていることがわかって、安否が危ぶまれています。

折しも中国ではSFベストセラー小説「三体」のドラマ化権を獲得してゲーム・オブ・スローンズ制作チームとNetflix配信ドラマの準備を進めていたYooZoo(遊族網絡)のLin Qi(林奇)会長兼CEOが39歳の若さでクリスマスに不審死を遂げ、同僚の重役が毒殺容疑で逮捕されるショッキングな事件があったばかりです。その衝撃もあって「そういえばジャック・マー最近見てない」「単なる雲隠れならいいが…」「生きてるんだよな…」と欧米のメディアも少しずつ騒ぎはじめているようです。

IPO延期の火種はこの発言?

アント・グループはeコマースのアリババが2004年にはじめた決済サービス「アリペイ」から発展したフィンテック会社です。大手銀の目が届かない個人にも信用格付けやローンを提供することで急成長していたのですが、株式公開を目前に控えてジャック・マー元会長が上海の外灘金融サミットで語った内容が習近平国家主席の逆鱗に触れて、直々にIPOにストップがかかったと報じられています。

字幕付きの動画で見ると、「会長職を退いた隠居の身だし、非公式の会合なので、実務派の目で自由に語らせていただきます。与太話だと思って聞いてください」とちゃんと前置きして予防線を張っているし、別に中国政府を老人クラブと呼んでいるわけでもなくて、欧米主導の金融を老人、中国の金融を成長期の青年にたとえて金融制度改革を訴えているだけなんですけどね…。要点を拾うとこんな感じです。

欧米にないものを埋めるだけではだめだ。

欧米に追いつくという考え方をやめて、未来につなぐことを考えないといけない。


バーゼル合意はなんでもかんでもリスク減らしで、まるで「老人クラブ」。

欧米の老朽化した複雑な金融システムには合うが、中国は真逆で、金融システムがまだないのがリスク。アルツハイマーの薬をポリオの子どもに飲ませても、かえって具合が悪くなるだけだろう。


失敗してもやり直しが効くところからイノベーションは生まれる。

P2P金融が失敗したからって、ネット金融すべてを否定するのはよくない。


銀行は今も質屋の発想だ。何かというと抵当と担保を求める。

圧がすごくて全財産担保という人までいるし、逆に借りたもん勝ちで借りまくる人もいる。

10万元(約160万円)借りるときは客が銀行の顔色を見て、1000万元(約1.6億円)借りるときは客も銀行も互いの顔色を見て、10億元(約160億円)借りるときは銀行が客の顔色を見る…という力関係。

これまでの40年はこれで乗り切れたがこれからの30年は世界の金融ニーズに応えていけない。

質屋の発想をやめて、ビッグデータに基づく信用システムに切り替えていかないと。


今の金融システムは工業化時代の遺物で、上位2割への投資で下位8割の国民を支える2対8原則がベース。未来の金融システムは8対2で、零細や若者など含めた上位8割への投資で下位2割を支えるようでないと。

人や企業がお金を探す時代から、お金のほうから人や企業を探す時代になる。

ビッグデータ、クラウド、ブロックチェーンがあればそれが可能だ。


次代を担う若者のために新たな制度づくりが要る。

それはデジタル通貨を抜きには考えられない。


今はアメリカが世界各国、特にウォール街に大量のキャッシュを注ぎ込み、各国が追随している。

その末路がどうなるか一度でも考えたことがあるだろうか。

いま多くの人が騒いでいる技術的問題なんて吹き飛ぶほどの激変がやってくる。

金融改革はもはや必然。痛みを伴っても、いま誰かがやらなければ。

これを受けて国家主席はアントIPOのリスクを洗い出すよう監督官庁に命じ、 中国人民銀行をはじめ4つの金融監督局が11月2日異例の合同会議にマー氏を呼びつけます。5日に予定されていたIPOに中国証券監視委員会から待ったがかかったのは翌3日。上記の講演後わずか10日で運命がひっくり返ってしまったのでした。ご~ん。

IPOを延期した理由について上海証券取引所は「フィンテック規制を取り巻く環境の変化などの諸問題」がアントから報告されたからだと発表しましたけど、アメリカの有識者からは「アントが強大になり過ぎることを警戒した」との見方が示されており、現にそれを裏付けるかのように中国政府は独禁法違反の疑いで年末アリババの調査に乗り出し、アントについても従前の決済サービスに業態を戻すよう再編を命じています。

イベント出演キャンセル

11月にはアフリカでジャック・マー財団主催ビジネスプランコンテスト『Africa's Business Heroes』の最終選考も予定されていましたが、マー氏はそちらにもけっきょく姿は見せませんでした。このイベントは賞金1億5000万円以上を競うリアリティTVスタイルのビジコンです。例年なら最終選考にはマー氏も顔を出してプレゼンを直接聞いて講評を行なうんですが、今回は「スケジュールの都合」(アリババ広報)で別の幹部に交代に…。放映も3月に延期になってしまいました。PR動画にも主役のマー氏の姿はありません。

ツイートも全くなしのつぶて

マー氏のTwitter公式アカウントも10月10日を最後に更新は止まっています。本当にどこに消えてしまったんでしょうね…。アントの上海&香港ダブル上場絡みでは、個人投資家による応募額が過去最高の3兆ドルに達したことも明らかになっています。中国本土と香港の銀行が短期低利ローンで個人投資家に投資マネーを貸し付けたことでバブルに拍車がかかりました。そちらは無利子で返金されるみたいなので、IPO延期で大損こいた個人投資家から逃げているって線も考えにくそうです。

2019年の不吉な予言

上場がバブル気味だったから当局が危ないと判断して、行政指導を受けながら最終調整に追われているだけなのかもしれませんけどね。安否が騒がれる背景には、中国から米国に亡命した実業家のGuo Wengui(郭文貴)氏が投資メディアのインタビューでカイル・バス氏へ2019年に語った、こんな縁起でもない予言があります。

KB:ジャック・マーは1年後どうなってると思いますか?

GW:ふたつしかない。中国の億万長者の運命はみなふたつ。刑務所か死。

KB:刑務所送りになるか殺されるか、ふたつにひとつだということですか?

GW:そう。殺しは殺すって意味ね。ジャック・マーっていうとアリババの話ばかり注目されるけど、個人で金融会社持ってるでしょ。

KB:アント・フィナンシャル。中国の金融システムではかなりの大手ですよね。

GW:オーマイガーそこが大問題なのよ。

KB:銀行に反旗翻してますからね。

GW:だいぶ儲かってるしね。マシーン。造幣マシーンよ。アリババは嘘、ズル、アメリカまんまとひっかけた(史上最高の2.4兆円調達を果たした2004年のNY上場の話と思われる)。全部デタラメ。全部本当なわけないと思う。でもこのフィンテックは絶好調。本当に儲かってるんだよね。

KB:アント・フィナンシャルですね。

GW:アント。いくらだからわかる? 1兆ドルだよ。

KB:1兆ドル。

GW:全部どりよ。歴史を見てごらん。1927~1942年のドイツ。ヒットラーが台頭した。あれと同じ。新興会社全部横取りで国を支配して、ファミリーに株式の持分を配るんだ。あれと同じ手法だね。それがこれまでのジャック・マーね。ジャック(字幕はタイポ)のファミリー企業がお金を持っていて、会社を生むのは全部中国の起業家連中。人のお腹で子づくりよ。それじゃだめなんで、赤ちゃん取り戻さないとって話になる。「それはあんたのものじゃないよ、ジャック・マー。手放すんだ。さもないと1週間で刑務所。もう1週間で殺すからな」ってね。

英語が片言だけど、なんだろう、このリアリティは…。

Sources: Yahoo!Finance, FT, Reuters