ダークマターを求めて。物理学者が探る小さな古いブラックホール

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  • author Isaac Schultz - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
ダークマターを求めて。物理学者が探る小さな古いブラックホール
アンドロメダ銀河を望む。 Image: NASA/JPL-Caltech/UCLA via Gizmodo US

見えないけど、存在しているはずのもの。

2014年11月23日の夜。ハワイ島のマウナ・ケアに設置された望遠鏡が、ブラックホールの姿を捉えようと宇宙のかなたを探っていました。夜空に向かって首をもたげること7時間。その間に一度だけ、250万光年離れたアンドロメダ銀河の星の前を地球規模の天体が横切ったのを見逃しませんでした。その晩撮影された計188枚の画像のうち、1枚だけはまるで自明の光に照らされたかのような明るさを帯び、大発見を物語っていたのです。

「地球と、アンドロメダ銀河の星と、その間にあるブラックホールが一直線に並ぶとき、後方の星が放つ光がブラックホールの重力によって曲げられます。地球に向かって進んでくる光だけではありません。重力レンズ効果なしでは地球には到達していなかった光も、曲げられた結果こちらに向かってくるようになるのです」とAlexander Kusenkoさんは説明してくれました。Kusenkoさんはカリフォルニア大学ロサンゼルス校とカブリ数物連携宇宙研究機構に所属している宇宙物理学者です。「その結果、うしろにある星が一瞬だけ明るく輝くんです。ちょっと直感的にわかりにくいんですけどね」

まさに、見えないはずのブラックホールの姿を間接的に捉えた瞬間でした。

Kusenkoさんはこの発見について詳細に記した学術論文の筆頭著者です。論文は2020年10月に『Journal Physical Review Letters』に掲載されました。論文で研究者たちが述べている仮説はこうです。この宇宙を満たしている謎めいた「暗黒物質」は、ひょっとしたら原始ブラックホールの存在によって説明できるのではないか?

原始ブラックホールとは

そもそもブラックホールとは、あまりにも重力が強大なために光さえ吸い込んでしまう天体です。その中でも「原始ブラックホール」と呼ばれるものは比較的小さく、宇宙が誕生して間もない頃にはすでに存在していたと考えられていたものの、つい最近、2019年までは、観測例すらない理論上の産物でした。

原始ブラックホールを理解するための考え方として、宇宙の密度に誕生当初からゆらぎがあったと想定します。すると、はじめはごくわずかなゆらぎであったとしても、宇宙が急激に膨張するにしたがってゆらぎがより顕著になり、質量の分布に偏りが生じた結果ブラックホールが誕生したのではないか、と推察できます。

すなわち、原始ブラックホールとは質量のふきだまりのようなもの。「星が誕生する前の原始のプラズマをスプーンですくってみたとしたら、それはほぼブラックホールでしょう」とKusenkoさん。「ちょっと圧縮しただけで、光は逃れられないようになりますから。」

マウナ・ケア山頂のすばる望遠鏡(一番左)
Image: Sasquatch/Wikimedia Commons via Gizmodo US

これらの原始ブラックホールは外側から見れば一定の大きさを保っているものの、内部から見れば無限に膨張していると考えられ、まるでわたしたちの宇宙の縮図のよう。そして、アインシュタインの一般相対性理論と照合すると、ある特定の質量を持っているとされます。このような原始ブラックホールが私たちの宇宙に無数に存在しているという考え方は、すなわち私たちの宇宙に小さな宇宙が無数に内在しているという考えとも結びつきます。もちろん、誰にも確認できない以上は理論上の存在でしかないのですが。

宇宙の中の小宇宙

ビッグバン直後、次々と誕生する宇宙たち
Image: Kavli Institute for the Physics and Mathematics of the Universe via Gizmodo US

そして、ここがKusenkoさんたち研究者が注目した問題でもありました。もし私たちの宇宙のなかに無数の小さな宇宙──これは原始ブラックホールと等しいのですが──が存在しているとして、どうやったら見つけ出せるのでしょうか?

光をも逃さないブラックホールは、原則として直接「見る」ことはできません。でもこの宇宙のおよそ27%は「見る」ことができない謎の暗黒物質で満たされている。ということは、もし「見る」ことができない原始ブラックホールが暗黒物質の正体だったとしたら?

見えないものの影

そこで、Kusenkoさんたちはブラックホールを探すことにしました。頼りにしたのはマウナ・ケアの頂上にあるすばる望遠鏡と、すばる望遠鏡用のデジタルカメラ・Hyper Suprime-Cam(HSC)。国立天文台によれば、高感度CCD光センサーを搭載し合計約8億7000万画素を有するHSCは、「一度に広い天域を撮影することできる」そうで、アンドロメダ銀河の全景を数分おきに写すことが可能なのだそうです。こうしてKusenkoさんたちが根気よくアンドロメダ銀河を観測している中で、 初めて原始ブラックホールらしき影を捉えることに成功したのが2014年の冬でした。

この発見は長時間の努力により裏付けられたものでした。重力レンズ効果を生み出したのは果たしてどの星だったのかを、1万5000個以上の恒星の候補から選び出す作業はたいへんな苦労を要したそうです。

今後さらに原始ブラックホール(と思わしき天体)が見つかれば、Kusenkoさんたちが仮説を立てたとおり、この宇宙にはたくさんの小さな原始ブラックホールが存在していて、それらが暗黒物質を形成している可能性がより高くなります。

というのは、どの銀河を観測しても、質量に見合わない余剰の重力が働いていることが明らかだからです。恒星、惑星、小惑星などをすべて足しても足りないほどの重力を生み出しているもの──わたしたちが便宜上「暗黒物質」と呼んでいるものは、やはり原始ブラックホールのように小さな見えない天体なのではないだろうか?

答えを出すために、Kusenkoさんたちは2020年の終わりにマウナ・ケアにて2度目の観測を行ったそうです。また膨大なデータから原始ブラックホールの姿を探し出す作業が始まり、今年の終わりぐらいには結果が出るとのこと。果たして、原始ブラックホールは見つかるのでしょうか。

Reference: Journal Physical Review Letters, すばる望遠鏡, 国立天文台

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