車載データは捜査の手がかりの宝庫。音声コマンドの声で迷宮入りの殺人事件が解決

  • author satomi
車載データは捜査の手がかりの宝庫。音声コマンドの声で迷宮入りの殺人事件が解決
Image: Kalamazoo District Court, Kalamazoo County Sheriff’s Office

故人の無念が通じたのでしょうか。

米ミシガン州のとうもろこし畑で自動車整備士のRonald Frenchさん(当時71)が遺体となって発見されたのは2017年6月のことでした。遺体は死後3週間が経過しており首、足、顔にはコードを巻き付けた跡がありました。車で引き回されたのか背中はズタズタで、頭蓋骨が一部陥没するほどのダメージを受けていました。

デジタル車両鑑識で3年越しの捜査が実る

誰がこんなことを…。懸命の捜査も虚しく、犯人につながる手がかりが得られないまま3年の年月が過ぎ、誰もが迷宮入りとあきらめたそのときのこと。担当刑事が新手の「digital vehicle forensics(デジタル車両鑑識)」の評判を聞きつけて、もう一度、被害者の車(2016年型シボレー・シルバラード、行方不明になる前に盗まれていた)を車載システムの角度から洗ってみたら、犯行時刻にハンズフリーの音声コマンドでEminemの楽曲をかける犯人の声がばっちり残っていたんです。これで車仲間のJoshua Wessel容疑者が浮上して昨年7月に急転直下の逮捕となりました。当人は精神鑑定後、Zoom裁判に出廷。刑が確定すると最大で終身刑となります。

今の車はこんなことまでわかる

車、恐るべしですね。もともと車はアリバイ崩しの隠れ兵器だったけど、最近はテレマティクスシステムが進化して航空機のブラックボックス顔負けです。インフォテイメントのログも足取り調査ではチェックが欠かせません。

車載システムでは、具体的には以下のようなことがわかってしまいます。

【テレマティクスに保存される情報】

・走行時刻

・走行ルート(ターンバイターンの経路案内の履歴)

・スピード、加速、減速の履歴

・どのドアがいつ開いて、いつ閉まったか

・ライトをつけた時刻と場所、ライトを消した時刻と場所

・シートベルト装着記録

【インフォテイメントに保存される情報】

・自宅住所、勤務先住所など、保存した場所やよく行く場所のGPS位置情報

・自宅の電話番号

・通話ログ

・連絡先

・SMS

・メール

・写真・動画

・Web閲覧履歴

・音声コマンドの声

・SNSフィード

・車載システムにUSBやBluetoothでつないだスマホの使用データ

・ガレージドア開閉パスワード

…なかなか想像以上です。これだけわかればシートベルトとドアの開閉記録で単独の犯行か、助手席や後部座席に共犯者がいたかもわかります。

「車は“タイヤ付きスマホ”といわれるが、その比じゃない。GPSもカメラも加速度計もついている。乗る人の体重までわかる。車に比べたらスマホなんておもちゃだ」とPrivacy4Cars創業者のAndrea Amico さんはNBCに語っています(Privacy4Carsは個人向けに車から個人情報を完全消去できる無料アプリを配布して、レンタカー会社やディーラー向けに有料サービスを提供する会社)。

パスワード認証しなくても入れてしまう

車載システムはパスワードがなくても入れるものが多いので、スマホほどガードは固くありません。令状をとればかなりのことがわかるのがポイントです。スマホにアクセスできなくても、スマホが車載システムにシンクしてれば車が突破口になるんですね。

メリーランド州のBerla Corp.が2013年にローンチした車載システム鑑識&捜査用ツールは当初80モデルだったのが、今は1万4000モデル以上に対応範囲が拡大し、遺体発見、犯人逮捕、無実の人の釈放に大活躍。ミシガン州ではデジタル特別捜査班が5年前に導入し、現在は全4署で定期的に車載システムを洗い出しています。パソコンやスマホなら下取りに出す前にパスワードや銀行口座の情報などのデータは全部消するけど、車でそれをやる人はまだ少ないので、簡単に足がつくんでしょうね。

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Image: Shutterstock

中古車を調べてみたら…

もちろんプライバシー的には危険信号バチバチです。ホワイトハッカーの@greentheonlyさんは去年5月にTesla車のコンポーネントをeBayで買ったら、前のオーナー(4人分)のデータ(自宅・勤務先住所、Wi-Fiパスワード、スマホから入力したカレンダーの日程、同期したスマホの通話ログと連絡先、SpotifyやNetflixの利用履歴のクッキーなど)がTeslaに消去されずに残っていました。「インフォテイメントを交換したら、車内でログインした全アカウントが危ないという想定でパスワードを変えたほうがいいよ」と世のオーナーにTwitterで注意を呼びかけるとともに、メーカーやディーラーにも再販前にデータの完全消去を徹底するよう働きかけています。72のディーラーを覆面調査したらなんと88%が前のオーナーの住所や電話番号が車に残っていたらしくて、これまた想像以上ですわ。

ここではTeslaがニュースになったけど、eBayにはフォード、GM、ベンツ、BMWの車載システムもあるし、「Teslaだけの問題じゃない。インフォテイメントはどれもそう。スクリーンがついている車はほぼ全部そうだと疑ってかかるべき」とDJS AssociatesのJustin Schorr社長はCNNに話しています(DJS Associatesは事故状況を車載データで再現するのが専門のデジタル鑑識企業)。

中古車もレンタカーも要注意

よく車庫でエンジンかけると子どもがスマホで聴いてる楽曲が流れてきて、帰ってきて車を入れるときにも流れてきたりしますが、パスワもなしにペアリングされる状態のまま中古に出したら…と思うとゾッとします。ID盗難なんて一発でやられちゃいそうだ…。自宅住所とガレージのパスコードまで抜かれたら堂々と空き巣に入れちゃうし。

車を売るときには車載データを完全削除または初期化すること(Web Cartopの日本語手順はこちら)。面倒ならアプリで消してもいいですよね。また、レンタカーにスマホはペアリングしないほうが身のためです。使ったら消去。立つ鳥跡を濁さずで。

Sources: NBC, InsideEVs, CNN, Web Cartop

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