不可解なことばかり。三体ドラマ化を進めるYoozoo林奇会長クリスマス毒殺事件

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  • author satomi
不可解なことばかり。三体ドラマ化を進めるYoozoo林奇会長クリスマス毒殺事件
リン・チー会長(左)とシュ・ヤオ容疑者(右)

「この森では、地獄とは他者のことだ」 (「三位 暗黒森林」)

世界的ベストセラー『三体』を中国版「スターウォーズ」にする大きな夢を掲げて、Netflix配信ドラマの制作を進めていたYoozoo Games(游族ゲームズ)のリン・チー(林奇、Lin Qi)会長兼CEO(当時39)が、先月半ばに毒を盛られてICUに運ばれ、クリスマスの25日に亡くなった事件。

ジャック・マー雲隠れの記事でも少し触れましたが、上海警察は「同社重役の許某」の身柄を拘束し、第一容疑者として取り調べを進めています。現地の報道では「許」姓のつく重役はそう多くはなく、おそらく三位の版権管理と映画化を担当していたYoozoo子会社「三体宇宙」のシュ・ヤオ(許垚、Xu Yao)CEO(39)ではないかと見られています。

リン・チー会長とは?

リン・チー会長は2004年にゲーム会社のYoozooを創業し、「レッド:プライドオブエデン」、「ゲーム・オブ・スローンズ - 冬来たるなどのヒット作を世に出していた若手実業家です。総資産68億人民元(約1,081億円)で、ついたあだ名は”ビリオネア・ミレニアル”。

上海市公安局の発表によると、先月16日夕、体調不良を訴えて入院後、毒を盛られていたことがわかって病院から警察に翌日通報が回り、現場検証と聞き込みの結果、容疑者特定と相成ったとのことです。

自社制作映画「三体」は酷評の嵐でとん挫

田舎の発電所技師・劉慈欣(リウ・ツーシン)が片手間に書いた小説『三体(The Three-Body Problem)』は、文革、怪現象、地球外生命体とのコンタクト、ナノテク、人工知能、異星VRゲームといったエンタメ要素満載のSF三部作です。Gizmodoでも10月のAmazonプライムデーで紹介し、並居る人気ガジェットを抑えて売上トップに輝いたのが記憶に新しいところ。

Yoozooは『三体』がまだ無名だったときに映画・ドラマ化の全権利を抑え、2015年に制作予算約30億円をかけて映画化に乗り出します。ただ中国国内の評判が芳しくなくて、予告編を公開したきり劇場公開には至っていません。リン会長はその後、「技術的な問題」を理由に制作の無期延期を決め、ポストプロダクションチーム(上の動画では「総勢600人で1年かかる」と紹介している)とVFXチームを解散させています。

Netflixオリジナルで英語版ドラマ化が決定した矢先の悲劇

ゲームが大手に押されて赤字に転落するのと入れ替わりに、『三体』の方は中国系アメリカ人作家の劉宇昆(ケン・リュウ)による英訳版が2015年のヒューゴー賞に輝いたことで海外での人気に火がつきます。アニメ、ネットビデオ、広告に引っ張りだこになって、英語版ドラマの制作には世界のAmazonとNetflixが名乗りをあげ、Amazonは10億ドル(約1,027億円)積んだとの噂も飛び交いました。

こうして2年に渡る交渉の末にNetflixとの契約が決まり、昨年9月、英語版ドラマシリーズ制作の共同発表にやっと漕ぎ着けます。制作チームには原作者(今では国宝級のSF作家)と英訳者、「ゲーム・オブ・スローンズ」 制作のデイヴィッド・ベニオフとD・B・ワイス、「スターウォーズ」監督という錚々たるメンバーが加わり、リン会長もブラビらと肩を並べてエグゼクティブプロデューサーとして参画。ゆくゆくは「スターウォーズ」のようなフランチャイズ展開を視野に含めていたのですが、結局ドラマを見ることなくこの世を去ってしまったことになります。

訃報を伝える中国の経済誌「財新」

ふぐ毒テトロドトキシン

毒を盛ったのは「プーアル塾茶か投薬」との報道が目立ちますが、倒れた日に食べたブルーベリーかもしれず、特定には至っていません。診断にあたったZhou医師は「神経を麻痺させるふぐ毒のテトロドトキシン」が盛られていた可能性が高いと各メディアに語っています。ほかにもさまざまな毒の混合物だとか、海外から大量に取り寄せて、少しずつ盛って粗方使い切っていたといった未確認情報もあります。

動機は?

気になる動機については「投資の失敗で出た損失の返済を会長に求められていた」、「三位宇宙の代表の座をリン会長に奪われていた」、「会長に怒鳴られていた」、「リストラを前提に大幅減給されていた」といった噂が目立ちます。米CNBCは近い筋の話として「給与をめぐるトラブルのほかにも、映画化のことで衝突があったようだ」と伝えています。Netflixはノーコメント。

メイドイン中国でハリウッド級のSF超大作を映像化できたら、こんなに素晴らしいことはないのですが、先立つものがないなかで同い年のふたりが明暗を別けた悲劇なんでしょうか。全容解明が待たれます。

Sources: NYT, CNBC

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