「プーチン宮殿」暴露でデモ拡大。毒殺を免れたナワリヌイ氏、ロシアに帰国も空港で即逮捕

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「プーチン宮殿」暴露でデモ拡大。毒殺を免れたナワリヌイ氏、ロシアに帰国も空港で即逮捕
Illustration: Elena Scotti (Photos: Getty Images, Shutterstock)

ロシア全土で怒りの雪玉が舞う!

毒殺されかけてドイツの病院で奇跡的に助かった反体制派指導者アレクセイ・ナワリヌイ氏。1月17日に帰国するなり空港で逮捕されましたが、ナリワヌイ氏のチームも負けてはいません。高速ゴムボートで忍者のように接近し、ドローンで空撮した黒海の“プーチン宮殿”の動画を世界に初公開してデモの決起を呼びかけ、ロシア全土に「デカっ…!」「どんだけためこんでんだよ!」「 怪盗プーチンめ!」と怒りが拡大。2週連続の抗議集会で5,000人以上が逮捕され、ついには米国務長官がナワリヌイ氏とデモ参加者の釈放を求める事態に発展しています。

“プーチン宮殿”の再生回数が1億回突破

プーチン大統領は「自分の宮殿ではない」と25日の学生ビデオ会議で否定し、「元柔道仲間の実業家ルカディ・ローテンベルクがオーナーだ」と言っていますが、映像はYouTubeで1億回再生され、日本でも紹介されました。チームは「警察とFSB(元KGB)を巻くためにSIMカードと携帯を何度も取り替えた」と言っていて、まるで007です。映像では旧ソ時代からの汚職の証拠が次から次へと出てきて、とても創作には思えません。少し触りのところを翻訳しておきますね。

Video: Алексей Навальный

(冒頭のところだけ少し翻訳)

2020年8月、ウラジーミル・プーチン大統領の命令でナワリヌイ氏は旧ソ化学兵器の神経剤ノビチョクの毒を盛られた。氏は一命をとりとめて帰国したが空港で逮捕され、2021年1月18日に違法逮捕の司法判断を受けマトロスカヤ・ティシナ刑務所送りとなった。長年国民の権利のために戦ってきた氏のために立ち上がろう。デモ決起は23日14:00。


(ナワリヌイ氏)集中治療室で闘病中、プーチンの暗部を暴露してはどうかという案が仲間内で提案されて決定した。恐怖に屈しない姿勢を示すのが目的だ。今回の毒殺を命じたのはウラジーミル・プーチンだ。

この映像は汚職調査の結果であると同時に、心の軌跡をたどる旅でもある。旧ソの一介の役人がマッドマンになり果てる。金と贅沢にとりつかれ、金銀財宝を守るためなら国を滅ぼし、人を殺すことすら厭わない。そうなるまでに何があったのか。その答えを求めて、すべてがはじまったドレスデンの街を訪ねてみた。


ドレスデン

この何の変哲もない建物で最初の汚職のスキームは生まれた。それやがてロシア史上最大の汚職となって国中の富が吸い上げられていった。それを率いたプーチンは当時33歳。今は世界一高い宮殿を建てるまでになったが、当時はこんな質素な家に住んでいた。

1985年、プーチンはドレスデンに赴任した。元は敏腕スパイと豪語しているが、役職はただのKGB職員だ。住居も機密ではなく、旧東独駐在KGB職員として公務で表に顔を出していた。敵陣に侵入した武勇伝も後付けのプロパガンダであって、党の会議に出て勲章を贈るのが仕事だ。今の彼らの仕事とたいして変わらない。1987年11月21日には勲章も授与されたが、それと同じものは現在ネットで3ユーロ(約380円)で売られている。長い演説、スライドを眺めてマルクスとレーニンを讃え、強い酒を飲む日々だったが、それから2年足らずの後、ベルリンの壁が崩壊。東独はKGB、シュタージとともに跡形もなく消えた。

トランスネフチ社ニコライ・トカレフ社長、 ロステック社セルゲイ・チェメゾフ社長は両名ともシュタージ出身で、 トカレフ社長とプーチンはシュタージ職員IDの番号も隣り合わせ。シュタージの電話帳にはトカレフ社長とチェメゾフ社長が同じ電話番号で載っており、職場の席が隣だったことがわかる。


プーチン原則

プーチンの人生の掟はドレスデン駐在時代に確立された。

①言行不一致。言ってることとやってることは別に食い違ってもいい

②汚職は信頼の礎。長年ともに盗みと不正に参加した人間が味方

③金はありすぎて困ることはない

サンクトペテルブルグ市長室

東独で大した働きもしなかったプーチンは1990年代はじめ、レニングラード大学のぱっとしない仕事に配属された。そこでは大学時代の旧友ニコライ・エゴロフも働いていた。あまり知られていないが、エゴロフは70年代に同じ職場で働いた仲間であり、プーチンがもっとも信頼する腹心だ。1991年に市長室の仕事をプーチンにすすめたのもエゴロフ。これがプーチンの未来を永久に変える転機となった。


輸出入認可でマフィアに便宜を図る利権

「ソビエト崩壊は世紀の失策だった」とエリツィン政治、民主主義者、周囲の人間を外国の手先と批判し、TVで「社会と軍備が崩壊しコーカサスのは流血の惨事を招いた」と語って人気はうなぎのぼり。

やがて輸出入認可の仕事で汚職に手を染め、ペーパーカンパニーを仲間と設立して架空の輸入代金を振り込むなどの不正を働くようになる。

特に不正の温床となったのが港だ。ここはマフィアのドン、イリヤ・トラベーが支配していた。闇の仕事に市長室からお墨付きを与えるのがプーチンの役回り。たとえば港の石油ターミナルも表向きはトラベーが会長だが、残りの株を牛耳るのは犯罪組織Tambovのドン、ゲンナジー・ペトロフ。石油会社プロムネフチのアレクサンドル・デューコフ社長(当時の石油ターミナルGM)も、プーチンはこうした犯罪組織に便利を図っていたと言っている。


石油の輸出を一手に商う石油商社グンヴォルに幼なじみの名義で出資

海外に石油を供給し、ロシア産石油輸出会社グンヴォルで富豪になったのがゲンナジー・ティムチェンコ、のちのプーチンの“黒い金庫番”だ。プーチンはTVで「ティムチェンコなんてロシア人くさい名前の人とは距離を置きたいよ」とにこやかに語る、その陰でグンヴォルの利権が動きはじめていた。

プーチンが大統領になった頃、ロシアでは大手石油会社5社中4社が直接輸出するのではなく、スイスのグンヴォル社を経由して輸出するシステムになっていた。こうして間に割り込むことで、労せずティムチェンコのもとには巨万の富がなだれ込んだ。

プーチンはこのグンヴォルに投資もしていた(米財務省調べ)。だれの名義かは長年謎だったが、2016年の報道で、同じ村出身の幼なじみのピョートル・コルビンの名義と判明している。「賄賂が茶封筒で届くってこと?」―そうだ! 市長室との癒着の実態については、90年代サンクトペテルブルグの犯罪に加担したMaxim Freidzonが証言している。何か困ったことがあれば国際委員会にきてプレゼンする。するとプーチンがいくらキックバックが必要か紙に書く。100万円、200万円といった小さな額だが、これを「登録」と称して秘書のAlex Millerに渡すのだ。Alex Millerのことは今さら紹介するまでもないだろう。20年近くも“国宝”ガスプロムのトップに君臨した男だ。(後略)

アメリカ人のフリをして逮捕を逃れる?

デモ蜂起の呼びかけはTikTokでも「#23января(1月23日の意)」のハッシュタグで1500万回以上再生されました。たとえば60万回以上再生されたのは、アメリカ人になり切って警察を煙に巻く英会話ワンポイントレッスン。次のような例文をアメリカ訛りで発音するためのコツを女の子が懇切丁寧に紹介しています。

・I left my passport at my hotel(ホテルにパスポート忘れてきました)

・You are violating my human rights!(これ立派な人権侵害行為!)

・ I’m gonna call my lawyer(弁護士呼びますよ)

あと人気なのは、足取りを消して捜査を逃れるコツ。

・携帯は家に置いてくほうがいいよ。

・靴は疲れないものに。いつでも逃げられるように。

ロシア政府は削除に躍起

ロシア通信・情報技術・マスコミ監督庁Roskomnadzor(RKN)は削除要請に全力を挙げており、「TikTokは38%、FacebookのInstagramは17%、YouTubeは50%の削除要請に応じた」と発表しています。「違法」なデモから未成年者を守るというのが削除要請理由

でも武装や暴力を伴わないデモは違法ではありませんよね。みなトイレブラシ(宮殿で9万円近いトイレブラシが使われているのに怒ってる)や青い下着(ナワリヌイ氏の青のボクサ―パンツに毒が仕込まれたことに怒ってる)を振り回して、雪玉を警察にぶつけるぐらいのことしかしていません。もっと手荒なこともできるはずなのにグッと堪えていて、身につまされる思いです。

米Gizmodoの取材に対し、FacebookとYouTubeは「削除には応じていない」と言っていたので(TikTokは返答待ち)、何を根拠に17%、50%といっているのかRKNにも確認中です。

なりすまし電話で毒を盛った職員から手口を取材するナワリヌイ氏

1月17日夜にロシアに帰国したナワリヌイ氏。2020年8月下旬に盛られた毒は旧ソ時代の化学兵器ノビチョク系で、こんな恐ろしいもの入手できるのは軍部か政府だけです。

投与の状況は不明でしたが、Bellingcatと露The Insider、米CNN、独Der Spiegelが共同で携帯電話のメタデータとフライトデータを合同調査した結果、毒が投与されたのと同じ時間帯にナワリヌイ氏の近辺にFSBの化学兵器担当職員がいたことが判明。ナワリヌイ氏本人が国家安全保障局のトップになりすまして電話をかけて、毒を盛ったときの状況をくわしく聞き出していますよ(すごい神経だ…)。

Video: Rappler

ナワリヌイ氏はロシア国内移動中の機内でこん睡状態に陥って救急搬送されました。「なんで失敗したのだ」と一喝すると、化学兵器担当のFSB職員は「いろいろな不確定要素がありますからねえ」とはぐらかし、「あの機内の時間がもう少し長かったら確実に死んでました」といっています。

「毒はちゃんと盛ったんだよな?」という質問には「指定された場所には運輸警察長が届けたので、そこで受け取って痕跡が残らないようにする処置を施しました」回答。「何に一番毒を含ませたの?」という質問には「青の下着のパンツです。性器付近に重点的に毒を仕込めと言われたので指示通りにしました」と言ってます。ゾゾゾゾ~~。

獄中が「ナワリヌイ宮殿」に

ナワリヌイ氏は帰国と同時に拘留され、モスクワの泣く子も黙るMatrosskaya Tishina刑務所に収監されました。「恐れるものなど何もない。あるとすればそれは己の恐怖心だけだ」という言葉を残して。総工費14億ドル(約1446億円)の「プーチン宮殿」にあやかって、同刑務所には「ナワリヌイ宮殿」のあだ名がつきました。

その頃、プーチン大統領は青い海パンで神現祭の氷水スイミング

1月28日には逮捕撤回請求が拒否されたけど、氏はウェブで証言台に立ち「これは司法判断ですらない。国を20年間食い物にしてきた勢力による口封じであり、ここにいる裁判官は奴隷のように諾々と従っているだけだ」と語りました。失速する気配すらありません。

RKNはネットの言論弾圧で有名だけど、「時が味方するなら対応もできるが、今回は事情が異なる。さすがのRKNも追いつかないのではないか」と「ザ・レッド・ウェブ」共著者のAndrei Soldatov氏は観測しています。いくら弾圧しようとしてもTikTokでは毎時数百万件の勢いで拡散していますもんね。ノビチョク使用は国際法違反なのだからもっと海外諸国が声をあげないといけないのだけど…、内政だけでは何も変わらないだろうし、また毒を盛られそうで心配。

「目にケロシンかけて全部燃やしちゃえ。ロシア中が見てる」(反体制派の若者の間で流行ってる曲)