ニュースアプリとの健康的な付き合い方

  • author Brent Rose - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
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ニュースアプリとの健康的な付き合い方

僕には悪いクセがあります。

もしかしたらあなたにも思い当たる節があるかもしれません。僕は世界で何が起こっているかを全部知り尽くしたい欲求があります。その欲求自体は悪くないんですが、それが簡単に暴走して不健康な強迫観念に捕らわれ、ニュースアプリやニュースサイトを更新しまくっているうちにストレスが溜まったり、落ち込んだり、怒りを感じたり、不安になったり、それらすべてが混ざり合ったような最悪な状態に陥ってしまうんです。もしあなたもこれに似たようなことを経験しているのなら、シンプルな解決策がありますよ。ニュース地獄に落ちることなく世情に明るい人間でいられます。

「ニュースを見るな」とは言いません。最近親戚からよく「ニュースを見るたびに嫌な気持ちになるから、もう見ないことにしたの」とか言われますが、そうなんですよね。嫌なニュースを見て嫌な気持ちになるのは人間として当たり前のリアクション。でも、だからってニュースから完全に目を背けるわけにはいきません。

これを読んでほしい人

もうひとつ言っておくならば、これから提案することがすべての人に適しているってわけではないです(報道関係者など、職業柄どうしてもニュースから逃げられない人種もいますから)。スタンフォード大学の神経心理学者で研究員のKelly MacNiven氏は、「これ自体が問題なのではなくて、あなたにとって問題かどうかです」と言ってますし。

もちろんすでにバランスの取れたメディア消費習慣を身に付けている人も多いと思います。ですから、このコラムはメディア消費がもはや衝動的、強迫観念的、反復的、しかも非効率的で、こんな悪循環を断ち切りたいと思っている人、もしくはニュースを追いかけるのに疲れてしまってちょっとお休みしたい人に読んでほしいです。

ニュースに縛られないためのルール

ルールはものすごく簡単です。ニュースサイトをチェックできるのは1日2回まで。あと、就寝時間に近くなったらダメです。

たったそれだけ。どうです、簡単でしょ? このルールを僕的に解釈すると、まず1回目はだいたい朝ごはんを食べながらチェックして、午後にもう1回、仕事が終わってからか晩ごはんの前にチェックします。どちらの場合もニュースを読むのに上限45分間のタイムリミットを設けています。

なぜか? 何かとんでもない事件が起こっていない限りは、数分おきに更新ボタンを押さなくてはならないほど目まぐるしいペースで新着ニュースが届いていることなんてまずありませんし、ストレスを溜め込んでしまうだけ損だからです。1日2度ニュースサイトをチェックしておけば十分情報が入ってきます。それに常に悲惨なニュースに心を乱され続けない分、平常心を保てるんです。

科学的な根拠

ここで重要なのは、強迫観念に駆られた行動の連鎖を止めることです。

脳内の神経回路はある意味水路のようなもので、どちらも一番抵抗が少ない道筋を通りたいがために以前通ったことのある回路をたどりがちです。すると水が同じところを何度も通れば通るほど溝は深くえぐられていきますから、回数が重なるたびにほかの水路に逸れていく可能性は低くなっていきます。これと同じことが神経回路でも起こり得るので、一度習慣が深く根付いてしまうと、いくら自分にとって悪影響しかなくてストレスの原因になっていたとしても、ハマる一方でなかなか抜け出せなくなるのです。ですから「1日2度チェック」のスケジュールを維持することにより、水がいつもの水路を通ってしまわないように逸らす意味合いがあります。

「そのたとえは習慣形成の成り立ちを説明するのにぴったりだと思います」とスタンフォード大のMacNiven氏。「水がどこを流れていくかは私たちの意思で変えられます。習慣形成は環境的なもの、性的なものなど外部要因がきっかけになっていることが多いので、悪習慣を変えるためには、何が外部から作用して内部のトリガーを引いているのかを明らかにすることが鍵となります。たぶんあなたの生活環境の中の何かが習慣行動を誘発しているので、それを明らかにするのが第一のステップですね」。

多くの場合、それはスマートフォンです。僕もスマホが鳴ると自動的に通知をチェックします。友だちからのメッセージだったとしても、その隣にある新着ニュースの通知が目に入ってしまった途端、無意識のうちにニュースサイトへと飛んでしまっていたらもうドツボにハマったも同然

ニュースサイトやニュースアプリの多くはユーザーがどんな記事を好む傾向にあるかを分析し、提供するアルゴリズムを走らせているとMacNiven氏は指摘しています。恐れや不安、怒りなどのマイナスな感情からついポチってしまっているのなら、アルゴリズムは恐れや怒りを感じさせるニュースをもっと探し出してきます。この負のフィードバックループから抜け出すには、ニュースアプリからの通知を一時的にでもオフにするのが効果的かもしれません。

ヘブの学習則

MacNiven氏と、この記事のために話を伺ったもうひとりの専門家で臨床心理学者・著者のCarla Marie Manley氏は、どちらも「ヘブの学習則(Hebbian Learning)」についても言及しています。

ヘブ則をざっくり説明すると「ニューロンAの発火がニューロンBを発火させるとふたつのニューロンの結合が強まる(脳科学辞典より抜粋)」こと。Manley氏の説明によれば

私たちの脳は私たちの行動のすべてを常に学習しています。そしてある行動が繰り返されれば繰り返されるほどに、それがポジティプかネガティブかは関係なしに将来反復しやすい傾向になります。この傾向は人間の原初的な衝動からきているもので、太古の人間が常に危険察知のために学習し続け、戦うか逃げるかの判断を下すために必要なものだったのです。

このことから、ニュースアプリとの健康的な付き合い方を「ダイエット」に例えることもできます。食べ物と同じように、情報を入手する上で大切になってくるのは量だけでなく質も関わってくるからです。 Manley氏は、ニュースを仕入れてくる際には意識的にクオリティーの高い情報源を選ぶよう推奨しています。あと、紙媒体の新聞を読むこともおすすめだそうです。紙の方が目にやさしいですし、常に更新して新しい情報をチカチカ光るバナーで勧めてきたりしませんからね。

テレビやオンライン動画について注意すべき点も教えてくれました。「試聴することで、ただニュースを消費しているだけでなく、しゃべっている人の表情や声のトーンまでも消費していると自覚してください。怒りに声を荒げる人たちを視聴していたとしたら、私たちの脳はこれを戦いだと受け取って身の危険を感じるので、脳内の闘争・逃走反応が刺激されます」。

この闘争・逃走反応が、アドレナリンやコルチゾールなどのいわゆる「ストレスホルモン」の分泌を促します。アドレナリンは心拍数を上昇させるので、寝つきにくくなります。余剰のコルチゾールは体にとっていろいろと良くない作用があり、Mayo Clinicによれば「複雑な警報システムのような働きをし、気分・意欲・恐れなどを司る脳の部分と交信」するそうです。よっぽどの理由がない限りは、夜寝る前にニュースサイトをチェックしない方がいいのはこのためです

闘争・逃走反応を刺激する外的トリガーに晒されている時間を意識的に制限し、できる限りクオリティーの高い情報源を選んで情報を取得すれば、それだけストレスホルモンの分泌を促す要因を減らせます。情報の蛇口を閉めてしまえば、もっと楽に呼吸ができるようになるかもしれません。すでに持っている情報をゆっくりと処理したり、自分をケアして、他人と繋がり、回復できるかもしれません。

いざルールを導入してみる

かくいう僕は、先週は全然ダメでした。自分で作ったルールを破りまくって、余計にストレスを感じてずっと落ち込んでいたせいで生産性ゼロでした。この記事の入稿が遅くなったのもそういうわけです。自分で作ったルールを守れないとよくわかりました。それでもルールを守るためにすべきことは、ちょっとわかったような気がします。

SNSのアプリをスマートフォンから消すのも手かもしれません。あと、集中力を高めるためのアプリもあって、起動中は指定したアプリやウェフサイトの閲覧をブロックしてくれたりします。友だちを誘って一緒にルールを導入してみるのも良さそうです。ニュースを閲覧してそれについて話し合う時間をあらかじめ設定しておけば、なお良し。コロナ禍で精神衛生面の低下が顕著なこのご時世ですから、この「誰かと体験を共有する」という点は特に大事だと思います。

MacNiven氏いわく、「ドゥームスクローリング(doomscrolling=ネガティブなオンラインニュースばかりを消費する行為)は新しいことではありません。私たちはいつの時代にもネガティブニュースに興味津々でした。ただ、今の世の中の情勢と重なり、最悪の事態と化しています。悪いニュースがあまりにも多く、人と人との有機的なつながりによって得られる情報は極端に限られ、普段なら友だちと一緒に過ごすことでストレスを発散していたところをそれも制限されてしまって、もはやソーシャルメディアとニュースアプリにしかアクセスが残されていないのは問題です」。

最後にもうひとつ。電話でManley氏がこのように話してくれました。「ドゥームスクローリングをしている時、能動的な行動を取らないことで、ネガティブな情報を入手し、それをネガティブなまま受け入れて、ネガティブなことに対して無力であることを脳が学習してしまっています」。

まさにその通りだと思います。無力感は不安を煽り、その不安な気持ちを埋めるためにニュースサイトに情報を求めるのはさらに状況を悪化させてしまいます。だから、その負の連鎖を断ち切るためには何ができるかをまず考えてみてください。寄付をしたり、政治家に陳情したり、声なき人の声を広げてあげてください。アクションを起こすことで、それがたとえとても小さかったとしても、あなたをネガティブニュースから解放して、無力感を打ち消してくれるはずです。

要約すると、確かな情報を求め、できる範囲でアクションを起こし、より健康的で持続可能な習慣を身につけることで、ニュースアプリとの付き合い方を向上できそうです。

Reference: 脳科学辞典