200万年前に私たちの親指に起きたこと

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200万年前に私たちの親指に起きたこと
Image: Katerina Harvati, Alexandros Karakostis, Daniel Haeufle

みなさん、自分の親指についてじっくり考えたことはありますか?

親指って実は人類の進化が詰まっているものなんです。私たちの食事のバリエーションがこれだけ多いのだって親指のおかげ。そんな親指ですが、新たな研究によると200万年前に起きた歴史的な進化のなかで誕生したかもしれないそうです。

親指は見た目以上にすごく重要

親指を持つ哺乳類はたくさんいますが、人間の親指は他のどれとも同じではないのです。私たちの親指ってほかの指と対になった位置にありますよね。これ実はとても重要で、この位置に親指があるからこそ人間はしっかり物をつかみ、道具を作ることができました。

そこで科学者たちは今、人間の親指に大注目しているんです。親指の歴史を知ることで、石器の誕生、文化の発展などなど様々なことが分かるかもしれないですから。

でもそもそも、親指の歴史なんて分かるの?と思いますよね。これが分かるんですよ、大昔の手と比べることである程度は。しかし、テュービンゲン大学のKaterina Harvati教授が今回の研究で取り入れたのは、それぞれのスペックから手を評価する新しい方法。これまで明らかにされなかった親指の真実がまさに今、解き明かされようとしています。もしかすると、私たちの祖先がよりハイスペックな親指を持っていた可能性だってあるんですよ。

とここで、私たち自身の歴史についての説明を少し。ホモ・サピエンスは約30万年前に誕生しました。これって実は人類の中では遅い方で、絶滅してしまった他の人類種(ネアンデルタール人とか北京原人とか)はもっと前から存在しています。そもそも、最初の人類は280万年前、いやもしかするとそれ以前に誕生したそうですしね。

「母指対立」こそが全ての鍵

さて、新しい研究の話に戻ります。まずHarvati氏によると、今回の研究の鍵は「母指対立」。簡単に言うと、親指と他の指の指先をくっつける動作のことですね。この動作ができるからこそ、私たち人間は手先がとても器用でなんです。

本格的な研究の前に、最初にHarvati氏が調査したのは初期の人類。すると300万年以上前の石器が見つかり、アウストラロピテクスという初期の人類が母指対立を持っていた可能性があることが分かりました。しかしこれでは、研究チームが解明しようしている親指と文化的進化の関係は分からないままです。

ということで本題に入りますね。今回、分析対象となったのは現代の人間、チンパンジー、さらにネアンデルタール人、ホモ・ナレディ、アウストラロピテクスなどの更新世のヒト科に属する動物、そして南アフリカの人類化石遺跡群で発見された所属種不明の化石です。着目された点は骨、そして皮膚や脂肪、血管などの軟部組織。

研究方法ですが、Harvati氏によると「骨にある筋肉の付着痕から実際の筋肉の場所を推測した」そうです。このとき「大型類人猿は共通した筋肉や母指対立筋を持つので比較が簡単で、サンプル作りがしやすかった」みたいですね。

そして、こうして得たデータを元にそれぞれの手の仮想モデルが作り出され、そこから種ごとに手先の器用さが割り出されました。

結果として、調査した更新世の人類はすべて親指の性能が上がっていて、「生物文化の発展における親指の重要性」はより高まったと見られています。

親指のおかげで今の私たちがある

また、南アフリカで発見された200万年前の骨、そしてホモ・ナレディという人類にも似た親指の構造が見られ、親指の進化の過程がより明らかに。さらに、時期がアフリカでの道具の使用増加、文化の複雑化と同じである点も気になるところですね。

さらにさらに、Harvati氏によるとホモ種が誕生した時に親指の発達がすでに始まっていた可能性があることも分かったそうです。つまり親指がなければ、石器の発展や動物を多く食べはじめたこと、ホモ・エレクトスの出現など今の私たちを形作った大きな進化が起きていなかった可能性まであるんです。

とここで、話をアウストラロピテクスに戻しますね。

彼らの手の構造は、現在のチンパンジーに似ているそうなんです。これって少し驚きですよね。チンパンジーは器用ではありますが人類ほどでもないので。ただ、Harvati氏によると彼らが道具を使用できた可能性はきちんと残っているようです。というのも、チンパンジーもある程度であれば石器を使用できるのです。

そしてさらに驚きなのが、アウストラロピテクスこそが最初の石器を作ったかも人類かもしれないという点。ケニヤで見つかったもっとも古い石器は330万年前のものですし、ありえます。しかし、Harviti氏は「アウストラロピテクスは人間のように手先が器用だったわけではない」と述べていて「彼らの手、特に親指は道具の使用から人間に近いとされているものの、全く同じではない」そうですよ。

一方、チャタム大学のWilliams-Hatala準教授は「大きな筋肉の腱の痕跡だけから、指の詳細を推測するのは難しいのでは」と異議を唱えています。Harvati氏も「1つの筋肉に注目しすぎたかもね」とこれ認めつつ、他の指や筋肉も分析していくとのこと。

将来的に、Harvati氏はより詳しい行動様式や道具の使用について知るために、ほかの指や筋肉も分析し、ほかの種も調査対象に入れようとしています。さらに彼女は、ネアンデルタール人の手の調査も予定しており、これも面白くなりそうです...!

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