このでっかい氷の塊が、わたしたちが1年で失う氷の量です

  • 18,056

  • author Brian Kahn - Gizmodo US -
  • [原文]
  • R.Mitsubori
  • X
  • Facebook
  • LINE
  • はてな
  • クリップボードにコピー
  • ×
  • …
このでっかい氷の塊が、わたしたちが1年で失う氷の量です
Image: Planetary Visions via Gizmodo US

日本地図だと…スカイツリーと東京タワーは埋まる感じ?

ギズモードではこれまでも地球上の「氷」に関する問題正確には「氷の減少」について何度もご紹介してきました。実は1994年以降、毎年1.2兆トンの氷が地球上から消滅しています。つまりその分だけ溶けて水になっているわけですが、正直1.2兆トンと言われても、具体的にイメージしにくいですよね。最新の研究ではこれを「でっかい氷の塊にして、アメリカの頭上に置いてみる」という画期的な方法で表現することに成功しました。まさに「見える化」です!

自由の女神を見下ろすようにそびえる立方体の氷塊は、高さ約10キロメートル。ニューアーク空港からジャージーシティまでドスンと鎮座。マンハッタンが丸ごと日陰になってしまいました。これが、私たちが毎年失っている氷の総量。過去20年間、化石燃料を燃やし続けてきた結果です。それに比べると、金融街やミッドタウンの高層ビルなんて、ほんの爪楊枝ほど…。もちろん、氷の減少が進めば進むほど、この氷塊も大きくなっていきます。なんとも不吉な話ですが。

このCG氷塊の根拠となっているのが、1月25日に科学誌『Cryosphere』に掲載された雪氷圏の現状に関する最新研究です。イギリス中の科学者チームが「地球の氷に何が起きているのか」を調べるため、衛星による観測と気候モデルを用いて「隅々まで調査」しました。

これまでの研究は、海と陸、いずれかの氷に焦点を当てて調査したものがほとんどですが、今回の論文は気候変動によって溶けた氷の量をよりよく理解するため、海と陸の両方を対象としています

本研究の筆頭著者であり、リーズ大学で氷の調査を行うトム・スレイター氏は、「これまで地球のあちこちにある氷河や、グリーンランドと南極といった極地を覆う氷床や棚氷、北極海と南極海に漂う海氷など、個々の地域を研究するために、国際的な取り組みが広く成されてきました」とメールで述べています。「今なら、これらの研究結果を組み合わせ、地球から失われたすべての氷を調べることができる。それに必要なデータは十分得られたと感じました」。

そんなスレイター氏らの研究により、地球上で最も速いペースで消えているのは、北極の海氷だと判明しました。北極の海では、調査が開始された1994年から2017年の間に7.6兆トンもの氷が溶けているそうで、これは驚異的な数字です。次に続くのが南極の棚氷で、同じ期間に6.5兆トンの氷が消滅しました(棚氷とは、地上の氷河がそのまま海上にまで伸びたもの)。

中には壊滅的といえる事例もありました。最近では2017年、ラーセンC棚氷が崩壊し、デラウェア州と同程度の巨大氷山「A68」が分離しました。A68 は今も南洋と大西洋をさまよい続け、昨年末には野生生物保護区の多い島に接近し、絶滅危惧種を含む生態系への影響が懸念されています。

他にもさらに危惧すべき「棚氷ドラマ」が進行中です。今回の調査では氷の「領域」だけでなく、その量についても調べていますが、実は最もショッキングな「棚氷ドラマ」は、海面の下で起きているのです。

棚氷は陸を覆う氷床の氷河が伸びる形で海に突き出ています。しかし衛星および現地での観測により、温水によって棚氷が浸食され(氷河そのものも)徐々に崩壊する恐れがあることがわかったのです。もしそうなれば、海面上昇が加速し、「影響が出るのは数世紀先」などと悠長なことは言えなくなるでしょう。実際に西南極の氷が水に変われば、海面は3メートル以上、上昇してしまう可能性があります。

アラスカやヒマラヤなどの陸地にある氷河もまた、グリーンランドの氷河や氷床と同じく海面上昇の主要因であり、いずれも驚異的な速さで消滅しています。氷河や雪溶け水に依存している地域において、氷の損失は水の損失であり、深刻な懸念事項です。海氷の消失と、それが北極圏の伝統的な生活様式に与える影響もまた、同様に大きな不安を生んでいます。

徐々であっても海面上昇が加速すれば、台風やハリケーンが接近あるいは上陸した際、大災害をもたらす恐れがあります。気候変動が生んだ高潮が、台風時の高潮をさらに内陸へと押し上げることになりかねません。さらに不吉なことに、地球上では「氷の溶解」以外にもさまざまな変化が起きています

こうした事態の要因となるのは、温室効果ガスの排出によって発生した「過剰な熱」。しかしスレイター氏は、これだけの氷を溶かしたのが「発生した熱の約3%に過ぎない」といいます。「驚くほど少量のエネルギーが大量の氷を溶かし、それが環境に対して不釣り合いなほど大きな影響を与えているのです」とスレイター氏は言います。

その意味で、マンハッタンに影を落とした巨大氷塊は、人間の活動が地球に与える影響のまさに「氷山の一角」に過ぎないのです。