軍事クーデター下のミャンマー市民が、映画『ハンガー・ゲーム』の3本指サインで無言の抗議

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軍事クーデター下のミャンマー市民が、映画『ハンガー・ゲーム』の3本指サインで無言の抗議
Image: STR/AFP via Gizmodo US

これは「知らない」で済ませちゃいけない。

2月1日、ミャンマーで軍事クーデターが発生したというニュースが世界中を駆け巡りました。与党・国民民主連盟(NLD)を率いるアウンサンスーチー国家顧問が拘束され、軍が国家権力の掌握を宣言。一度は手にしたはずの「民主化」を暴力で奪われた市民の様子が心配される中、1枚の写真が公開されました。

これはクーデターの2日後にヤンゴン総合病院で撮影された医療スタッフの集合写真。一見普通の写真ですが、実は全員がピースではなく、抗議行動のシンボルである「3本指サイン」を掲げています。

『ハンガー・ゲーム』に登場する「抵抗のしるし」

この3本指サイン、ジェニファー・ローレンス主演の映画『ハンガー・ゲーム』シリーズをご存知の方にはおなじみのポーズのはず。人気小説が原作の『ハンガー・ゲーム』は、架空世界「パネム」(独裁国家となった近未来のアメリカ)で、市民が権威主義的な支配階級に立ち向かうというストーリー。その中で「抵抗のしるし」として使われているのが、この3本指サインなのです。

ヤンゴン総合病院での集合写真にこのサインが使われたのは、もちろん偶然ではありません。ディストピアSF小説から生まれた3本指サインは、過去10年間にわたって民主化運動の象徴として東南アジア全体に広がっているのです。

タイでは3本指サイン禁止になったことも

抗議行動の中で3本指サインが使われ始めたのは7年前のこと。2014年5月、ミャンマーの南東にあるタイで軍事クーデターが起きた後、抗議者らがこぞってこれを使用するようになりました。これが人気映画に登場する「抗議のサイン」だと知ったタイの与党軍事政権は、翌6月に3本指サインを禁止しました。

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Image: Hunger Games via Gizmodo US

シリーズ3作目の『ハンガー・ゲーム FINAL:レジスタンス』が公開された2014年11月には、民主主義を支持する学生がタイの映画館を訪れ、高らかに3本指サインを掲げたところ、覆面警察に連行され拘束される事態になりました。

この事件を受け、タイの一部の映画館は「政治的な意図を疑われたくない」として『ハンガー・ゲーム』の新作公開を中止。しかし学生たちは立ち上がり、逮捕を覚悟した上で多くの抗議者が映画館に足を運ぶようになりました。

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Image: Christophe Archambault/AFP via Gizmodo US
2014年11月、3本指サインを掲げながら映画館から連行されるタイの学生。

制作側のハリウッドは「興奮するが心配」

一方、この映画を制作したハリウッドの関係者からは、海外の民主化運動に3本指サインが使われることに興奮を覚えつつ、事態の成り行きを案じているとの声が挙がりました。

ハンガー・ゲームシリーズ(2作目以降)でメガホンを取ったフランシス・ローレンス監督は2014年、オーストラリアの日刊紙『The Sydney Morning Herald』のインタビューに対し、「映画の中で起きたことが、人々にとって自由や抗議のシンボルになるというのはわくわくします」と語っています。「ただ、自分の映画と同じことをした人が逮捕されてしまうのは、心が痛みます」。

香港の民主化運動でも3本指サインがアイコンに

3本指サインは、その後タイから香港へと広がります。2014年11月に『ハンガー・ゲーム』の新作が公開されたころ、香港では「雨傘革命」という学生運動が盛り上がりを見せていました。民主化を求めたデモ隊が、警官の催涙ガスから身を守るため、そして個人を特定されないよう監視カメラから顔を隠すため、傘を盾として使ったことから、この呼び名がついています。

1997年にイギリスから中国に返還されて以来、「一国二制度」の原則を敷いてきた香港ですが、近年は中国本国の関与が強まっており、香港市民の間では不満(と不安)が高まっていました。そんな中、抗議者たちは連帯感を示すアイコンとして3本指サインを掲げたのです。

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Image: Philippe Lopez (Getty Images) via Gizmodo US
香港の民主化運動支持者。

そして今、3本指サインはミャンマーへと広まっています。民主的な選挙で選出された国家顧問のアウンサンスーチー氏ら、政府高官を拘束した軍事クーデターへの抵抗の象徴になっているのです。3日の報道によると、軍事政権はスーチー氏を反逆罪で裁判にかける恐れがあるといい、それはつまり死刑を受ける可能性もあります。

大衆文化のキャラやポーズは、抗議運動の「シンボル」になりやすい?

映画などの大衆文化が、世界各地の抗議運動に「モチーフ」や「シンボル」として使われることは珍しくありません。ミャンマーでの抵抗運動もまた、その最新例のひとつ。2010年代初頭のアメリカでは、匿名ハッカー集団「アノニマス」や「ウォール街・オキュパイ(占拠)運動」の参加者が、2005年の映画『Vフォー・ヴェンデッタ』に登場するガイ・フォークスのマスクをかぶっていたことが話題になりました。

いずれも反企業的な抗議活動だったにもかかわらず、マスクが大量に売れたことでメディア大手のワーナーメディアが大儲けしたといいますから、なんとも皮肉なものです。

2011年、あるコスチューム販売会社は『New York Times』紙に「我々は年間で10万枚以上こうしたマスクを販売しています。今のところこれが一番売れたマスクです」と話しています。

2019年に起きた香港の対中デモでは、右翼によって人種差別の象徴とされた漫画キャラクター「カエルのペペ」が民主化運動のマスコットとして使われました。

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Image: Lauren DeCicca (Getty Images) via Gizmodo US
2020年、タイでは抗議者らが3本指サイン型クッキーを販売。

決して無視できない声なき主張

与党NLD政権は、「ミャンマーの人々にどんな未来が待っているのか誰にもわからないが、少なくとも来年までは軍が政権を掌握するだろう」と述べています。ですから、ミャンマーはもちろん、タイや香港の人々が『ハンガー・ゲーム』の3本指サインを掲げていたら、それは偶然でもなんでもなく命がけの声なき主張です。

彼らが望むのは自由。彼らの3本の指は、それが今失われていることを私たちに伝えているのです。

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