色違いピカチュウ?
ウサギっぽいけど実はネズミの仲間の「トビウサギ」。アフリカ南部に生息している野生動物で、日本ではペットとして飼われることもあるぐらい愛くるしい姿なんですが、毛色はいたって地味です。
ところが、この地味な薄茶色が紫外線に照らされると、なんとド派手な赤・オレンジ・ピンク色に一変することがわかったそうです。最近の研究で明らかになったこのトビウサギの華麗なる変貌は、まだ哺乳類では数少ない生体発光の一例なのだとか。
稀なケース
生体発光とは、生物が太陽光から吸収した紫外線をカラフルな輝きとして放つ現象で、これまで魚類・両生類・爬虫類・鳥類、そして極小のクマムシなどに確認されていました。生体発光する哺乳類はまだ確認された例が少なく、有袋類のオポッサム、齧歯類のアメリカモモンガと、単孔類のカモノハシは光ることがわかっていたそうです。
そして今回『Scientific Reports』誌上で発表された新しい研究論文では、世界で初めてトビウサギの生体発光が報告されました。アフリカ大陸で進化した哺乳類、かつ有胎盤類の生体発光が確認された例は初めてだそうです。
トビウサギは夜行性および薄明活動性(夕方から夜にかけてアクティブ)で、食べるものを探して一晩に数キロメートル移動するほどの行動派。そんな生活をするトビウサギにとって、なぜ闇の中で光ると有利なのか、なぜそのように進化したのかはまだわかっていません。
闇夜に光る動物たち

トビウサギの生体発光性を発見したのは、論文の筆頭著者である米ノースランド大学准教授のErik Olsonさん。シカゴにあるフィールド自然史博物館でアメリカモモンガの生体発光について調べていたことがきっかけだったそうです。2018年4月と2019年11月に行われた調査から、もしかしたら生体発光は夜行性・薄明活動性の哺乳類に多く見られるのかも?という仮説に思い当たったそうです。ちなみに、同じ調査を発端としてカモノハシの生体発光性を発見したのもOlson教授率いる研究チームでした。
この仮説を試すために、Olson教授らは4カ国からトビウサギの標本を14体取り寄せ、さらに動物園で飼育されている生体を6匹お借りして生体発光を行うかどうか分析したそうです。分析の対象となったのはヒガシアフリカトビウサギ(Pedetes surdaster)とミナミアフリカトビウサギ(Pedetes capensis)の2種でした。
まだら模様の謎
果たしてトビウサギの茶色い毛並みに紫外線を照らしてみると、写真のような暖色系のまだら模様が浮かび上がりました。まだらに光るのは珍しいそうで、主に頭部、脚、後四半部と尾に顕著でした。研究者いわく、発光が特に「ファンキーで色鮮やか」な部分から検出された波長のピークは500から650nmだったそうです。
この華麗なる発光はトビウサギの毛に含まれる「ポルフィリン」という有機化合物のおかげ。ポルフィリンによる生体発光は海生無脊椎動物や鳥類、またニューギニアヤリガタリクウズムシにも見られるそうです。
トビウサギの場合、生体発光はオス・メスの両方に見られたことから、この特徴がおそらく性別には関係していないと考えられるそうです。では、なぜこのように光るようになったのでしょうか? その謎は解けていませんが、いくつかの可能性はあるそうです。
天敵から身を守る手段?
Olson教授、そして同じくノースランド大学准教授のPaula Spaeth Anichさんは、論文で以下のように説明しています。
今回の発見は、生体発光が夜行性・薄明活動性の哺乳類にとって生態学的に有利だと考える我々の仮説を支持する結果となりました。生体発光性は哺乳類にもこれまで考えられていたより広い範囲で見られるのかもしれません。
さらに
トビウサギは主に単独で生活し、草原などの開けた場所で食糧を採取することが多いため、集団や隠れ場所に守られていない分だけ天敵の目に晒されるリスクが大きくなります。
このような状況下で、トビウサギのまだらな生体発光はなんらかのカモフラージュとして機能しているのかもしれません。これは天敵がどれぐらい紫外線に敏感なのかにもよりますが。
さらなる研究で、トビウサギがなぜ光るのか、そしてなぜまだら模様なのかを解明されることが望まれます。ほかの種の哺乳類が知られずに生体発光している可能性も大です。
人間の目には見えないけど、動物たちの目から見る動物世界はレイブパーティーさながらの極彩色が広がっているのかもしれません。
Reference: Yahoo!きっず, Nature, De Gruyter, Scientific Reports