化石燃料産業の終わりのはじまり。今年の動向が今後10年間の気候変動を左右することになりそう

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  • author Brian Kahn - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
化石燃料産業の終わりのはじまり。今年の動向が今後10年間の気候変動を左右することになりそう
Image: Stephen Chernin/Gettyimages

本気でやばい。気候変動。

世界の平均気温は産業革命前と比べてすでに約1.0℃上昇しています。このまま温暖化が進めば、早くて2030年には+1.5℃に達してしまうことはIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が2018年に報告しているとおりです。

温暖化が進んだら、地球はどうなるのか。地球環境研究センターによれば、豪雨と洪水が多発する地域と、逆に干ばつと雨不足に悩まされる地域が激増します。北極圏の氷が溶けて海面が上昇し、島しょや沿岸部の低地は水面下に沈みます。海洋酸性度が上昇すると同時に海洋酸素濃度が低下し、絶滅の危機に瀕する生物も出てきます。そして気温が上昇すればするほどこれらの状況は悪化して、地球は地球上の生物すべてにとって過酷すぎる環境へと豹変してしまうのです…。

気温の上昇をなんとか+1.5℃までに抑えこむことができれば、生物の大量絶滅は免れ、洪水や干ばつで家を追われる人の数も数百万人単位で縮小します。そのためには、2030年までに化石油の消費を37%、ガスを25%削減し、その後も継続的に減らしていかなければなりません。それでも温室効果ガスによる温暖化は数百年にわたって持続するとも言われているので、すぐには気候変動を食い止められないでしょう。

この先の10年間で確実に石油とガスへの依存を減らしていかないと、マジで温暖化が取り返しのつかないところまで進んでしまうのです。

ビッグオイルの業績に影

地球温暖化を食い止めるには、化石燃料に頼らない社会のあり方を模索し始めなければなりません。そういう意味で、2020年は化石燃料産業の終わりのはじまりの年でした

いわゆる「ビッグオイル(石油大手)」を含め、化石燃料産業は2020年に大打撃を受けました。新型コロナウイルスの蔓延により経済活動が停滞して需要が冷えこんだせいもありましたし、環境活動家たちの圧力も相当なものでした。

ホワイトハウスにもうトランプの姿はありません。バイデン大統領は就任したその日のうちにカナダから米中西部まで原油を運ぶ予定だった「キーストーンXLパイプライン」の建設認可を取り消して、アメリカがパリ協定へ復帰する意向も早々に表明しました。ほかにも様々な世界情勢が重なり、2021年も依然として石油とガスの供給の先細りが続きそうです

産業革命が起きたのは160年前。以来、ビッグオイルは世界経済の奥深くまで触手をのばし、利益を得てきました。しかし、そんな状況もここ10年間で徐々に変わりつつあります。名だたるビッグオイルの株価は暴落し、株主へのリターンは減少する一方です。

理由はいくつかあって、再生エネルギーがどんどん低価格化してきているのと同時に、気候科学否定派団体への寄付が明るみに出たこともダメージとなりました。グレタ・トゥーンベリのような存在感の強い環境活動家たちが声高にビッグオイルの闇を摘発し続けたのも効果的でした。

そこへ新型コロナの災厄がふりかかりました。Fossil Free Mediaのディレクターを務めるJamie Henn氏いわく、「いつ崩れ落ちてもおかしくない砂上の楼閣のようだったビッグオイルの存在を、新型コロナウイルスを運ぶ毒々しい風が一気に吹き飛ばしてくれたようだった」とか。

コロナが逆風に

石油大手各社は2020年を通して赤字を出し続け、それより規模が小さい会社はあえなく倒産しました。石油燃料の生産も需要も記録的な落ち込みを見せており、今後もコロナ以前の水準までの回復は見込めなさそうです。

エネルギー経済・財務分析研究所(IEEFA: Institute for Energy Economics and Financial Analysis)の金融アナリスト、Clark Williams-Derry氏に今後も石油燃料の需要は減少の一途をたどることになりそうか聞いてみたところ、「今後再生エネルギーがもっと豊富に、もっと安く手に入るようになって、電気自動車を推進する動きが世界各国に広まっていけば、おそらく2007-2009年の不況後のような需要の回復は見られないと直感的には思う。でも、世界はいつも私を驚かせて(ついでに失望させて)くれるから、わからないけどね」と語ってくれました。

たしかに、コロナ禍さえ終息して政治も経済も平常運転に戻れば、石油燃料の需要もいきおいよく回復してくるかもしれません。ですから、本当の意味で石油時代に終止符を打つためには、根本的に新しい思考に基づいた戦略が必要となってくるでしょう。炭素税のような過去の政策では、温暖化を食い止められるほど膨大な量の温室効果ガス削減は無理です。一刻の猶予も許されない今、段階的に排出量を減らしていくような政策では到底追いつかないのです。

温暖化対策、一体どうすればいいの?!と焦りが募るばかりですが、ここからは荒療治ではありながらも今私たちが直面している危機的状況を乗り切るために効果がありそうなソリューションをいくつかご紹介していきます。

石油燃料拡散防止条約

「私たちにはとにかく時間がないんです。温暖化を食い止めるために必要なのは斬新なアイディアと国際協力。個人の力で太刀打ちできるものではありませんから」と話すのはカナダのNPO、STANDの国際ディレクターを務めるTzeporah Bermanさん。

Bermanさんは石油燃料拡散防止条約の運営委員です。1970年の核拡散防止条約をもとに発案されたもので、石油とガスに依存する産業の拡散に歯止めをかけ、石油燃料の生産を徐々に縮小していって、石油燃料産業に携わるワーカーたちが脱炭素化、もしくは低炭素化につながる新たな職に就けるよう支援していくのがねらい。要するに、地球が温暖化によってメチャクチャにされないよう、国際的な努力をつなげていこう!という試みです。

世界各国のリーダーたちが温室効果ガスの排出をいついつまでに何%削減すると公言してはいるものの、実際そのうちの何人が約束を果たせるかどうかは別の話。デンマークは世界に先駆けて石油とガスの生産を2050年までに停止すると発表しましたが、他国からの同様な意気込みはまだ聞こえてきません。石油燃料拡散防止条約が発効すれば、世界中の国々が足並みをそろえ、フェアなやり方で石油生産を停止できるかもしれません。

カナダのバンクーバーはすでに石油燃料拡散防止条約を締結しています。ニューヨーク、ロサンゼルスを含むいくつかの都市も締結を検討中です。特に後者の場合は街中に小規模の油井や採掘施設が混在しており、近隣住民の健康がおびやかされて社会問題となっているだけに、石油燃料拡散防止条約を締結することでほかの都市や国々にも大きな影響を与えそうです。

世界は脱プラスチックへ

石油とガスの需要が滞る中、プラスチック生産へと舵を切る石油燃料産業が増えていますが、あいにくプラスチック製品に対する規制もどんどん厳しくなってきているのが現状です。EUのプラスチック規制をはじめ、アメリカでも今後バイデン大統領がどんな政策を打ち出してくるのか注目されていますし、中国の第14次5カ年計画にも厳しいプラスチック規制が盛り込まれるとされているとCarbon Trackerのエネルギーストラテジスト・Kingsmill Bondさんは指摘しています。

Bondさんによれば、「特に中国は輸入した石油でプラスチックを生産している以上、今後プラスチック需要を減らすためにアグレッシブな政策を打ち出してくる可能性が非常に高い」そう。プラスチックはお先真っ暗です。プラスチックに頼ろうとしている石油燃料産業も、ピンチに追い込まれそうです。

投資マネーが逃げていく

そもそも石油燃料の採掘を止めるために一番効果的な方法は投資撤退すること。アラスカの北極圏野生生物保護区内の油田開発はこれが原因で停滞しました。資金提供しないよう全米の銀行にボイコットを呼びかけた反対運動が功を奏した結果でした。石油会社の株価が暴落し続け、株主へのリターンが減少し続けている以上は、投資家にとってもあまりいい話ではなかったのも事実です。

「このまま株価が低ければ、投資家もお金を入れるのをためらうでしょう」と金融アナリストのWilliams-Derry氏は分析しています。「そうなると、石油で稼ぎたい人は自身のキャッシュフローに制限されるため、石油とガスの生産量は減少するでしょう」。

ところが生産量の減少は転じて価格の高騰化につながる恐れもあり、油田開発者の利益が増えることにもなりかねません。これを防ぐためには、政府がメタン排出量にもっと厳しい規制をかけたり、石油生産そのものを減らしていく取り組みが不可欠です。

それと同時に、草の根レベルの反対運動も新たな油田開発を止めるためには効果的です。STANDのBermanさんいわく、「遅延は願ったりです。政府の介入、遅延、デモ運動──そのすべては世論を動かし、開発者側のコストを増大させるのに役立ちます。プロジェクトが停滞している間にも、この油田開発ってほんとうに必要?と世論が懐疑的になってくる。そうなってくれば、遅延は私たちの味方です」。

2021年も引き続き油田開発事業に融資している銀行に経済的な圧力をかけていくことも、企業や自治体に脱炭素化を呼びかけていくことが要となってきそうです。去年はニューヨーク州の年金基金が完全に脱炭素化を宣言したのは記憶にも新しいところ。化石燃料産業への「ダイベストメント」は個人レベルから実行できるので、まずは自分ができることを探してみるのもいいかもしれません。

個人レベルでアクションを起こせ

個人のレベルで起こせるアクションには「グリーントローリング#greentrolling)」もあります。

気候変動に詳しいエッセイストのMary Heglarさんが考案したグリーントローリングは、SNS上で石油会社と、石油会社が使っているPR会社等が発信している虚偽の情報を告発する草の根運動です。企業や組織が環境に配慮していると見せかけるために嘘を垂れ流す行為、いわゆる「グリーンウォッシング」を「パトロール」しているわけですね。

2020年に発足したClean Creativesは、PRのプロが集まってグリーンウォッシングしているPR会社を内部告発し続けています。Clean Creativesの創立者でもある既出のJamie Hennさんは、発足の理由について「石油燃料産業の不正について声を上げても、向こうは大金を投じて大がかりなグリーンウォッシングを仕掛けてくる状況に辟易していました。虚偽の情報にいちいち反論していたのではらちが開かないので、相手の情報発信力そのものをターゲットに定めることで、より効果的に気候変動についてメッセージを発信できるようにしたかったのです」と語っています。

草の根レベル、民間レベル、そして行政レベルで動きはじめた脱炭素化に向けての大きなうねり。2021年からの10年間でどれだけ温室効果ガスの排出を削減できるかによって、地球の行く末が自ずと決まってきます。

「石油燃料産業の最期にさしかかっています」とBermanさん。「依然として彼らは開発を進められるだけ進めていこうとするでしょう。私たちの仕事は、彼らを市場から締め出して、デモ運動などによって現場から締め出して、最終的には法的な取り締まりによって活動を全面的に停止させることです。」

Reference: BBC News, 地球環境研究センター, NO! 化石燃料

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