テクノロジーを使って、人間には不可能な視点を獲得する。新たな音楽体験とは

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  • author 照沼健太
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テクノロジーを使って、人間には不可能な視点を獲得する。新たな音楽体験とは
Image: YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA

ガジェットの力を使って、魂の視点から世界を見る。

コムアイとオオルタイチによる、屋久島で生まれたプロジェクト“YAKUSHIMA TREASURE”。その最新ライブである「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」は、まさにそんな作品です。

遡ること2019年に、ライブハウス・LIQUIDROOMで行われたライブパフォーマンスを「新しいライブ」にアップデートした本プロジェクトの特徴は、LiDARスキャナーとKinectとフォトグラメトリを組み合わせて構築された、これまで見たことのない世界。

一体この作品はどのように作られたのでしょうか。クリエイティブディレクターを務めた菅野薫さん(Dentsu Craft Tokyo)、映像ディレクターの辻川幸一郎さん、テクニカルディレクターの西村保彦さん(Dentsu Craft Tokyo)にお話を伺いました。

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<左から>
菅野薫クリエイティブ・ディレクター。2002年電通入社。データ解析技術の研究開発業務、国内外のクライアントの商品サービス開発、広告キャンペーン企画制作など、テクノロジーと表現を専門に幅広い業務に従事。国内外の広告、デザイン、アート、さまざまな領域で受賞多数。

辻川幸一郎映像作家。日常の中でふと浮かび上がる妄想や幻覚を、子供の手遊び感覚で映像化する。CorneliusをはじめとしたMVや、CM、ショートフィルム、インスタレーションなど様々な分野にわたって国内外で活動中。記憶と感触を刺激する映像世界は高く評価されている。

西村保彦Dentsu Craft Tokyoのテクニカルディレクター。Webサイト制作からキャリアをスタートし、現在は大規模イベントやインスタレーション、スマホアプリなど様々なデジタルコンテンツのテクニカルディレクションを行う。

Dentsu Craft Tokyo各社のトップクリエイターが共創し、新しいクラフトの姿を提案する Dentsu Craft Tokyo。会社と組織、エージェンシーとプロダクション、クリエイティブとプロデュース、広告とそれ以外の枠組みを超え、中目黒に立ち上げたオフィスで各社に所属するクリエイターが共に働く、着想力×制作力×実現力が同居するクリエイティブハウス。“Human Magic”をコンセプトに掲げ、アイデアの着想から制作、実現までをコミットすると同時に、クリエイティブ業界に対しても、新たな表現、新たな制作体制、新たな人材育成の在り方を提案する。


YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA

トレーラー映像

Video: 水曜日のカンパネラ/YouTube

視聴スケジュール:2021年2月11日〜3月31日
チケット:500円(税込)
視聴リンク:https://another.yakushimatreasure.com/

コロナ禍以降の世界に問いかける、「新しいライブ」のかたち

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Image: YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA

──「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」はどのような経緯で始まったプロジェクトなのでしょうか?

菅野:もともとYAKUSHIMA TREASUREは次のステップとして屋久島でライブを行うことを考えていたのですが、コロナ禍でライブができない状況になってしまいました。そこで「文化芸術収益力強化事業」(※)の一環として「テクノロジーを使って新しい形での音楽や映像の表現、ライブパフォーマンスの視聴体験を作れないか?」とYAKUSHIMA TREASUREから僕のところに相談をいただいたのがきっかけです。

(※コロナ禍以降、多くの文化芸術団体が収益機会の減少により経営危機を迎えたことを受けて、文化庁がスタートさせた“事業構造や制作・表現等の手法改革による収益力強化の方策検討”を目的としたプロジェクト)

──企画を立てるにあたり、着想はどこから得たのでしょうか?

菅野:ご存知の通り、コロナ禍はライブエンターテインメント業界に甚大な影響を与えました。多くのミュージシャンはストリーミングプラットフォームなどのオンラインの場に活動をシフトして活路を見出そうとしています。しかし、私自身これまでビョークなどのアーティストと音楽の仕事をしてきましたが、ミュージシャンのパフォーマンスをどれだけ高画質・高音質で配信したとしても、アーティストとオーディエンスが同じ空気を吸って同じ場所を共有するリアルなライブ体験は代わりのきかない特別なもの。代替の体験を作ることはできないと感じています。そこでこのプロジェクトを企画するにあたり最初に決めたのが多分期待されていたのと真逆なんだと思いますが、「リアルなライブ体験の代替物をつくることを目的としません」ということでした。また同時に「特定の新しいテクノロジーをつかうこと自体を目的としません」とも決めました。

──「テクノロジーをつかうこと自体を目的としない」という宣言の目的とは?

菅野:僕たちは技術ありきではなく、「新しいライブパフォーマンスの体験の仕方を作る」目的から、それを実現するのに必要なテクノロジーを選びたかったのです。

──本プロジェクトの企画において「新しいライブ」とはどのようなものだと考えられたのでしょう?

菅野:オーディエンスがアーティストと同じ場所を共有しながら、眼と耳でパフォーマンスを知覚するのが「既存のライブ」だとします。となると「新しいライブ」とは、新しいメディアテクノロジーを通して、人間には物理的に不可能な視点を獲得し体験するものではないかと考えました。 ここでいう視点とは、時間、光、対象物の捉え方、記録と再生の仕方、視点の置き方。そのため一番最初の構想企画書の中には、LiDARスキャナーなどの候補となるテクノロジーは記載していましたが、具体的な制作にあたっては詳細をDentsu Craft Tokyoの西村くんをはじめとしたテクニカルディレクターたちと相談して実験を重ねながら何をつかうのかを検討することにしました。

粗い映像は、魂が見る世界に似ているのかもしれない

──具体的にはどのようなテクノロジーを使って「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」は制作されたのでしょうか?

西村:具体的にはLiDARを使った3Dスキャン、写真を元にしたフォトグラメトリ、Kinectを使ったボリュメトリックキャプチャを使っています。それぞれの技術に向き不向きがありますので、“会場”であるガジュマルの森の空間全体はLiDARスキャンで、アーティストが歌う舞台である“舟”は写真を使ったフォトグラメトリで、そしてアーティスト自身はKinectを使ってボリュメトリックキャプチャで撮影しています。

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作品を構成するデータについて

──いろんなテクノロジーを試していたそうですが、その中でもLiDARやKinectを採用したポイントとは?

西村:菅野さんのお話にもありましたが、技術優先ではなく「アーティストや楽曲の世界観に合ったものはどれか?」という観点で選びました。事前に屋久島と雰囲気が近い森でテクニカルテストを行い、LiDARやKinectの他にも360度カメラやドローンなどさまざまな撮影方法を試しました。それらの映像を見比べながら、辻川監督と相談して「新しいライブ」の表現には3Dスキャンが良いと判断したわけです。

辻川:僕は普段こうした新しいテクノロジーを使って撮影することはあまりないのですが、最初にいろんな技術を使った映像を見せていただいた中で、3Dスキャナーの絵がどこか詩的で今回のプロジェクトに最適だと感じました。事前にYAKUSHIMA TREASUREのマネージャーさんから、今回の2曲は沖縄の「魂を送る儀式」をモチーフとした曲だと聞いていたので、3Dスキャナーによる粗い絵がまるで“魂が見ている世界”のように感じられたんです。

──本プロジェクトは通常の映像作品とは大きく異なりますが、辻川監督はどのようにアプローチされましたか?

辻川:基本的にディレクターという仕事は、数ある選択肢の中から方向性(direction)を決めて物事をシンプルにしていく仕事です。特に今回みたいな話の場合、アーティストさんはもちろんですが、菅野さんのようなクリエイティブディレクターも、西村さんのような技術班も、みんながいろんなことを考えています。だから僕はできるだけシンプルに道筋を立てられるように“整理”することを心がけました。

──具体的には、どんな方向性を選んでいったのでしょうか?

辻川:「通常の映像撮影では絶対できないこと」を狙っていきたいと思いました。例えば、浮遊する魂の視界のようにふんわりした動きのカメラワークです。時にはカメラが人物と重なってしまったり、通り抜けてしまったりもするのですが、光学ではそうした視点を作るのは絶対に不可能です。

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ポイントクラウドと呼ばれる、3次元の位置と色を持ったデータを収録

──カメラワークはもちろんですが、3Dスキャンによる点描が生む独特のルックも印象的です。

辻川:「魂」というモチーフを入れ込むことで、3Dスキャンによるテクスチャーの粗さそれ自体を表現に落とし込むことができました。今後3Dスキャナーが進化していくと、おそらく光学カメラでの撮影と同じようなクオリティーが実現するはずですので、「現時点での3Dスキャン映像は“過渡期の産物”であり、数年後にはエラーのように見えてしまうのではないか?」と技術検証の時点で感じていました。しかし、魂の視点という解釈を入れ、粗くても魅力的な絵にできるように、各ドットの隙間を愛しながらライティングを施しました。そうしていくと、3Dスキャンによる点描がまるで印象派の絵画のように詩的な表現だと感じられるようになりました。とはいえ、すべてを点描にしてしまうと見せたいものが浮かび上がってこなくなるので、画面の粗密には気を配りました。

──4Kや8Kカメラに代表されるように、映像関連のテクノロジーは基本的に高解像度かつ高精細に向かっていますが、その一方でフィルム風やVHS風などのルックを持った映像作品も増えてきています。辻川監督は「解像度」についてどのように考えていますか?

辻川:まず、すべてが見えたとしても、観る人はそんなに嬉しくないんですよね。そうした「映像の美しさ」の観点で言うと、重要なのは解像度ではなく光だと思います。そして、すべてをあますことなく撮影して情報量を増やすことよりも、見せたいところを選んで綺麗に切り取って情報量を減らしてあげることが重要です。レンズを通した絵が美しいのは、被写体に照明が当たってそれ以外が暗くなっていたり、背景がボケたりして、光学的に情報が取捨選択されてシンプルな状態になっているからです。

西村:本作においても、情報の取捨選択は重要なポイントとなりました。撮影場所であるガジュマルの森は、細かい枝や木の根っこが縦横無尽に走っていて非常に情報量が多く、単純にスキャンしただけではわけがわからなくなってしまう問題があったのです。そのため、目で見て間引くところと強調するところを分けて、監督のディレクションのもと手作業でデータの整理をしました。

──今回の制作プロセスを見ると、点描データとして空間とパフォーマンスをまるごと撮影・スキャンした後に、ポストプロダクションとしてカメラワークを定めており、ある意味で二つの撮影工程があるのも特徴の一つだと思います。

西村:今回映像部分の制作にはゲームエンジンのUnityを使用し、スキャンしたデータを3D空間で再構築しました。リアルタイムにライティングやカメラワークを反映する事ができたので、監督とエンジニアで、何度も試行錯誤しながら進めていく事ができました。

辻川:カメラワークについては最後まで迷いましたね。ワンショットの“決め”で制作するのか、それとも何個もカメラアングルを用意して見る人がインタラクティブに選択する形式にするか、最終的にできあがったものを観ながら自分たちが描きたい世界に近いという理由からワンショットを選びました。

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映像部分の制作にはゲームエンジンのUnityを利用し、タイムラインベースで編集している

ライブというよりも“祭祀”。それが「ANOTHER LIVE」

──そうして作られた作品のタイトルの一部には「ANOTHER LIVE」と付けられています。この「ANOTHER」にはどのような意図が込められているのでしょうか?

菅野:これは最初から決まっていたタイトルではなく、制作の最後の最後に僕がコピーライティングしたものです。「あの世」って英語でなんて言うかいろんな訳し方がありますが、「ANOTHER WORLD」と言っているのをどっかで読んで、そこから着想しました。「ANOTHER」には「もうひとつの、また別の」といった意味があり、「LIVE」という言葉もライブパフォーマンスのほか、生きる行為自体も指すので、いろいろな意味を複合的に込めています。

沖縄久高島の輪廻転生の死生観から着想された楽曲コンセプトはもちろん、従来のリアルなライブ体験やストリーミング配信とも異なる 「新しいライブ」、高解像度へ向かう映像の正当進化ともまた違う道筋など、本プロジェクトに通底している「新しいパースペクティブ(視点)の獲得」という方向性を「ANOTHER」と「LIVE」の掛け算で表現しました。

辻川:コムアイさんとオオルタイチさんとお話しする中で、彼女たちが「人々の魂を送り出す儀式」の話をされているのが印象的で、僕らは「ライブを“祭祀”として設定しよう」と考え、その上で全体の世界観やストーリーや場所を作っていったのです。その中で僕らには「これをなんて呼べばいいんだろう」という疑問がありました。そこに菅野さんが「ANOTHER LIVE」という言葉を出してくれて、みんなの意識がビシッと繋がり、スッキリしましたね。

──「新しいライブ」の形を作ることを目的としていた本プロジェクトですが、資料によるとアーティストの意向で本番の演奏も一回限りだったそうですね。

辻川:最初はコムアイさんから楽曲のストーリーについての詳細な説明を受け、世界観を緻密に構築していたのですが、ある段階で「やっぱり、これはライブだから」と、一回限りで撮影する方向に舵を切りました。それが結果的にとても良かったですね。あのまま作っていったら、作り物の映像作品っぽくなったと思います。本作を「祭祀」に落とし込めたのは、いろんなことを捨てて、シンプルな方向性に持っていけたのが大きかったです。


リアルライブでもなければ、配信ライブでもない、これまでにないライブ「ANOTHER LIVE」を提案する「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」。その全貌は、2月11日からこちらのサイトで公開されています。

今後リアルライブがどうなるのかはまだわかりません。しかし、配信ライブでは表現しきれないものがあるのも事実。おそらくこうした「新しいライブ」のかたちを模索する動きは、これからさらに加速するのではないでしょうか。

まずは、リアルライブとも配信ライブともMVともまた違う、この「YAKUSHIMA TREASURE ANOTHER LIVE from YAKUSHIMA」をぜひ体験してみてください。

Source: YAKUSHIMA TREASURE