宇宙空間をさりげなく滑るブラックホールを発見

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  • author Isaac Schultz - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
宇宙空間をさりげなく滑るブラックホールを発見
この銀河のどこかにブラックホールがひそんでる… Image: Sloan Digital Sky Survey (SDSS) via Gizmodo US

地球からざっと2万3,000光年離れた銀河に、ちょっと変わったブラックホールが存在しているそうです。

ブラックホール(超大質量のやつ)といえば、銀河の中心で活発に物質を飲みこんでいるのが常。なので、銀河の中心から外れ、しかも銀河と異なる速度で宇宙空間を移動している特異なブラックホールの発見は、科学者を驚かせました。

問題のブラックホールは太陽300万個分以上の質量を持ち、秒速5万メートルで移動しているそうで、2018年に初めてアレシボ天文台とジェミニ天文台が発見しました。

「分析結果を見たときは、きっとどこかでなにかを間違えちゃったんだろうなって思ったぐらい半信半疑でした」とスミソニアン天体物理観測所に所属する天文学者、Dominic Pesceさんはメールで発見当時の状況を語っています。

ですから、再現性のある分析結果だと確信を持てるまでに、何度も研究内容を見返して当時のデータから同じ結果が得られることを確認しなおす必要がありました。

しかし、その後に得られた新しいデータからも同じ結果が導き出され、結果的にこの興味深い研究結果が強化されたことは、科学者としてホッとしましたし、喜ばしくもありました。

2018年のデータ、そしてその後の追調査もふまえたPesceさんたちの研究論文は、つい最近「The Astrophysical Journal」に掲載されたばかりです。

水メーザーの輝きがヒントに

銀河をとりまく水メーザーの輝き(今回の研究対象とはまた別の銀河です)
Image: ESA/Hubble & NASA via Gizmodo US

今回発見されたブラックホールは銀河「J0437+2456」の中心近くに位置していて、降着円盤からは水メーザーのまばゆい輝きが放たれているそうです。天文学辞典によれば、水メーザーとは水分子の励起状態が反転分布するときに放射される「波長約1.35 cm、振動数22 GHz」のマイクロ波領域の電波。この波長を2018年に捉えたのがアレシボの電波望遠鏡、そしてジェミニの光学赤外線望遠鏡でした。

そこで、Pesceさん率いる研究者チームは10個の超大質量ブラックホールをとりまく水メーザーを調べました。するとJ0437+2456の中心にあるブラックホールだけ変わった動きをしていることを発見したそうです。J0437+2456が宇宙空間を音もなく滑るように移動していると同時に、ブラックホールもまた移動しています。ところが、ブラックホールの移動速度のほうがまわりをとりまく水メーザーの水分子よりもちょっとだけ遅いことがわかったそうなのです。

不安定なブラックホール

この速度の違いには、いくつかの理由が考えられるそうです。

まずひとつに、このブラックホールが元は小さいブラックホールがふたつ融合したものである可能性が指摘されています。そのような衝突後、ブラックホールは少々不安定になってしまうのだとか。

もうひとつは、このブラックホールがもともとJ0437+2456以外の銀河に存在していて、その銀河がJ0437+2456を飲み込みつつある可能性。

Pesceさんたちの論文で紹介されている(そしておそらくこの三択においてもっともエキサイティングな)可能性は、じつはこのブラックホールが連星の一部であり、マイクロ波によって可視化された片割れにすぎないことです。

今後も注意深くブラックホールの動きを追っていけば、やがて明らかになる軌跡によってどの説明が一番しっくりくるかが判明するそうです。ただし、確証を得られるまでには何万年、何億年もの観測データが必要になってくるそうなので、現実的ではなさそう…。しかも、アレシボ天文台が崩壊してしまった今となっては、鍵となるデータ源が絶たれてしまったに等しく、天文学者、宇宙論研究者、宇宙物理学者を一様に悩ませています。

「電波望遠鏡として最高の感度を誇っていたアレシボを失ったことは、まさに悲劇です。私たちも銀河の速度を計算するのに集めたデータは全てアレシボから取得しており、今後同じようなデータを取得できないのは悔やまれてなりません。アレシボの損失から、私たちの分野全体がまだショック状態から立ち直れていません」とPesceさんは話しています。

Reference: The Astrophysical Journal, 天文学辞典

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