ザ・ノース・フェイスが石油業界とバトル中。それが他人事じゃない理由

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ザ・ノース・フェイスが石油業界とバトル中。それが他人事じゃない理由
Image: Ilya S. Savenok - Getty Images

誰かを悪者にすればいいってわけじゃない。

アウトドアブランドのThe North Face(ザ・ノース・フェイス)が、石油業界の敵になってしまいました。事の発端は2020年12月、原油・ガス採掘技術会社のInnovex Downhole SolutionsがThe North Faceに対し、社員向けクリスマスプレゼントとして自社ロゴ入りジャケットを発注したところから始まりました。

The North Faceはこの注文を、「うちのジャケットには化石燃料企業のロゴを入れたくない」という理由で拒否したそうです。そこから事態は発展、石油業界ロビー団体がThe North Faceをいじる動画を作ったり、トランプ元大統領の元アドバイザーも参戦したりとケンカが大きくなってます。

あ〜また保守とリベラルの痴話ゲンカね…と片付けるのは簡単ですが、この一件からは大事なことがふたつ読み取れます。ひとつは石油燃料業界が悪者扱いに対する反撃体勢をいかに整えているかってこと。そしてもうひとつは、石油燃料が我々の生活にぎっしり織り込まれてしまってるってことです。

石油企業がThe North Faceに公開書簡

The North Faceの注文拒否を受けて、Innovex社のAdam Anderson氏はLinkedInに公開書簡を発表しました。その中で彼は、「二酸化炭素濃度が高いと植物が喜ぶ」というありがちな主張に加え、最近流行りの「化石燃料は人類を救う」「化石燃料がなければ貧困が拡大する」という論点を推してきました。でも次の部分は、The North Faceにとっても痛いところを突いていました。

「ところで、彼ら(The North Face)のジャケットは、炭化水素からできています。

他の主張と違って、この部分は虚偽でも誇張でも拡大解釈でもなく事実です。ポリエステルやナイロン、スパンデックス(ポリウレタン)といった、The North Faceとかその手のアウトドア服にふんだんに使われている合成繊維はみんな、原油由来のプラスチックでできています

石油業界ロビー団体がThe North Faceを「表彰」

このバトルは12月当時も右翼系ニュースサイトで多少取り上げられたんですが、騒ぎはそこだけじゃ終わりませんでした。この3月、米コロラド州を拠点とする化石燃料系ロビー団体・Colorado Oil and Gas Associationが石油製品の「素晴らしい顧客賞」なるものをThe North Faceに授与するという動画を公開したんです。つまり、石油たっぷりのプラスチックをたくさん仕入れてくれてありがとう! というわけです。

Video: ColoradoOilandGas/YouTube

上の30分動画の前半では、The North Faceへの「感謝」のメッセージで占められています。彼らいわく、世界の衣服の60%は石油が原料ですが、The North Face製品の場合その割合は90%以上になると推定されます。たしかに、軽いのに丈夫で伸縮性があり、防水、防寒、しかも安価…などなど、化学繊維だからできることがたくさんあり、アウトドア服はその特性を最大限活用しています。そして流通に使われるトラックや工場の動力源もほとんどの場合、石油やガスです。

「なぜ彼らに腹を立てることがあるでしょうか? 彼らは私たちのお客様です」石油・ガス会社のAspect Energyの会長、Alex Cranberg氏は言います。「彼らは我々の製品の価値を認めていないかもしれません。でも私は、The North Faceや我々の製品を使って世界をより良くしている企業に、我々が感謝すべきだと思っています」

この動画と同じく、化石燃料業界はますます「石油製品が生活を豊かにしている」という発信を強化しています。動画の中でロビー団体のプレジデント兼CEO・Dan Haley氏は、登山やハイキング、サイクリング、カヤッキング等々のアウトドア体験は石油やガスなしでは成り立たないと強調していました。彼らはこのアプローチを今後も続けていくと思われ、The North Faceとのバトルも「Fueling Our Lives」(直訳:我々の生活の燃料になる)というキャンペーンの踏み台として利用しているのです。Haley氏はこのキャンペーンによって「コロラド州の皆さんが、毎日使う製品と原油・ガスを結び付ける」ことにつなげたいと希望を語りました。

The North Faceだけじゃない石油産業ユーザー

The North Face側の過去を振り返ると、彼らは気候変動に対する姿勢を打ち出すのが他のアウトドアブランドより遅れ気味でした。とくにCNBCが伝えているように、競合のPatagoniaは30年以上前から売上の1%を草の根の環境保護団体に寄付し続けているなど、その差は歴然です。そして石油会社からの注文拒否という判断には、未熟さも感じます。自社製品を売る相手に対し何らかのモラルを求めるなら、自分自身のサステナビリティももうちょっとしっかり裏付けておいたほうがいいです。自社の環境負荷を根本から減らそうとしているブランドもあるにはあるんですが、まだ本質的な変化は起こっていません。しかもThe North Faceの場合は全社的に取り組んでいるというよりも、PR用のとってつけた活動という感じが拭えません。だから石油業界側からの反撃はなおさら痛恨でした。

でも化石燃料業界のターゲットは、アウトドアブランドだけじゃありません。上の動画のプレゼンター役を務めているTom Pyle氏(ドナルド・トランプの政権移行チームでエネルギー政策を担当、American Energy Allianceのプレジデント)は、新型コロナウイルスのワクチンも「石油とガスなしでは不可能」だと言っています。

「おまえだって」のループを断ち切る

こうした石油業界のメッセージからは、石油が単なる動力源だけではないこと、だから余計に我々の生活から切り離すのが難しいことがわかります。彼らの指摘はまったくその通りで、The North Faceのジャケットの大半は石油からできているし、スキー旅行には石油が必要だし、ワクチンを入れる容器や注射器はプラスチックでできてるし、現代生活のほぼすべてが石油やガスを前提として動いています。そしてその現状について、個人だけでできることはほとんどありません。

でもそんな現状はナチュラルに生まれたんじゃなく、石油・ガス業界が何十年もかけて、彼らの製品を社会に織り込む努力をしてきたからなんです。彼らはその製品の欠陥を隠ぺいし、代替エネルギーを攻撃し、政治家を買収し、需要を創出してきました。最近では掘りすぎた原油を売りさばくために、さらにプラスチック生産を増やそうとする動きまであります。

我々は今、化石燃料使用に伴う膨大なコストをようやく受け入れ始めたところです。人類はこれまで、(石油産業による情報隠ぺいやロビー活動、従順すぎる政治家、とかのせいもあって)化石燃料への依存度を強めてきてしまいました。なので「自然って大事だよね」みたいな企業が石油産業を批判しても、「お前だってダメじゃん」のループになって、前向きな変化につながりません。石油産業やThe North Faceみたいな企業に責任を果たしてもらえるように働きかけること、そこが我々にかかっています。

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