アメリカ東海岸で広がりつつある「ゴーストフォレスト」

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  • author Dharna Noor - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
アメリカ東海岸で広がりつつある「ゴーストフォレスト」

気候変動の脅威が、目に見えるかたちでひたひたと押し迫ってきています。

ラトガーズ大学が最近発表した研究レポートは、海面が上昇するにつれてアメリカ東海岸沿いの土壌が海水に浸かり、塩害によって森林もろとも枯死する実態を明らかにしています。

変わり果てた姿となった樹木がなおも林立する光景は、まさに「ゴーストフォレスト(幽霊の森)」と形容したくなるおぞましさ。しかも、私たちの生活に確実に悪影響を及ぼしているというのです。

死んでいく森

気候変動が海水位を上昇させ、高波や津波による洪水被害を拡大させていることに、もはや疑いの余地はありません。これにより、人、インフラ設備、そして生態系がリスクにさらされています。そのリスクが可視化された例でもとりわけ不気味なのが「ゴーストフォレスト」で、今その被害が拡大しつつあるそうです。

ゴーストフォレストとは、土壌が海水に浸かり、塩水に耐性を持たない樹木が次々と枯れていく現象です。死んだ樹木はやがて葉や枝を落としますが、幹だけは日光にさらされて色あせるか、あるいは真っ黒に腐食するかの経緯をたどった後に乾燥し、何十年でも立ち続けます。いずれは塩性の湿地に適応した植物が侵入してきてゴーストフォレストの林床を覆い尽くします。しかし、失われた生態系がもとどおりになることはありません。

「ゴーストフォレストには、その名のとおり幽霊みたいな、おどろおどろしい外観がつきものです」とラトガーズ大学のリモートセンシング・空間分析センターを率いるRichard Lathrop Jr.さんはメールで説明してくれました。Lathropさんが共著者を務めた研究レポートでは、ゴーストフォレスト化がどのように進行するのか、またなぜ増えているのかを解明するために、文献調査に加えて森林管理学や生物学の専門家への聞き取り調査も実施し、さらにシンポジウムの開催を通じて多くの科学者から意見を収集しました。

内陸へ広がる塩害

Photo: Jennifer S. Walker/Rutgers University–New Brunswick via Gizmodo US

その結果、ゴーストフォレスト化を招く最大の要因は気候変動に伴う海水位の上昇と、それによって大波や高潮に浸かる土壌面積が増えていることだとわかりました。大波と高潮の被害が年々増してきているアメリカ東海岸では、南はバージニア州、北はマサチューセッツ州まで広がる海岸林のゴーストフォレスト化が進んでいることもわかりました。

また、海岸林と塩性湿地帯との境目がじわじわと内陸に動いてきていることも判明しました。たとえばバージニア州にあるチェサピーク湾では、1年で0.5メートルほどの変動があり、これが過去100年間に渡って続いてきていたことがわかったそうです。さらに、この変動は一律ではなく、チェサピーク内でも年間で最大6メートルも内陸に動いている地域もあったというのです。

「これと同じことが東海岸とガルフコースト(メキシコ湾沿いのテキサス、ルイジアナ、ミシシッピ、アラバマ、フロリダ州)のいたるところで起こっていて、特に低くなだらかな沿岸部では顕著です」とLathropさんは説明しています。

失われつつある貯蔵庫

気候変動の影響がゴーストフォレスト化を促しているだけではありません。このままゴースト化が進んで森林面積が減少すれば、気候変動そのものを悪化させる負のフィードバックループを生み出しかねません。

アメリカ東海岸のバージニア州からメイン州にかけて見られる天然林は、年間を通して光合成を行える針葉樹を多く擁しているため、現在重要な炭素吸収源となっています。森林土壌だけでも炭素を吸収するものの、水に浸かってしまうとその効果は半減してしまいます。

炭素の隔離と貯蔵は健康な海岸林がもたらすメリットのひとつです」とゴーストフォレストを研究しているノースカロライナ州立大学のLindsey Smartさんは説明しています。「しかし、海岸林が湿地に変容していく過程で、この炭素を隔離する機能が失われてしまいます。そうなると炭素の一部は大気に放出され、また残りは別の炭素プールへと移動していきます。」

ゴーストフォレスト化が生態系にもたらす悪影響はこれに尽きません。ラトガーズ大学の研究によれば、海岸林には希少な鳥類や植物が多く生息しているそうです。言い換えてみれば、森林は生物多様性の宝庫。さらに、これらの森林の土壌は雨水を貯蔵する役割も担っており、森林よりも内陸に住んでいる人たちを洪水の被害から守っていることもわかったのです。

積極的な土地利用計画法がカギ

では、これ以上海岸林がゴーストフォレスト化しないためには、どのような対策が必要なのでしょうか。

土地利用の綿密なプランニングこそが鍵になると研究者たちは考えているそうです。具体的には、海岸林を開発による伐採から守るためのゾーニングが必要になってきますし(そもそも洪水被害を考えるとそんな場所を開発すること自体が得策ではありません)、場合によっては国が保護することも必要になってくるでしょう。もう一歩踏み込んで、海岸林の面積を内陸に広げていくために植林していくことも大切です。塩水に耐性を持っている植生を選んで植えていけば、より効果的でしょう。

ただし、「海岸林のほとんどは私有林にあたるため、政府はそれぞれの所有者と折り合いをつけていかなければならないでしょう」とSmartさんは指摘しています。そのとおり、アメリカ全土における私有林のうち77%は東部に集中しています。ということは、東海岸沿いの私有林を効果的に管理できれば、大きな成果を期待できそうです。

Smartさんはこのようにしめくくっています。

この研究を含む多くの調査を通じて明らかになったのは、ゴーストフォレストがもはや特定の地域に限定された現象ではなく、東海岸全域に広がってきていることです。進行の速さや影響の範囲は場所によっても異なるものの、海水面の上昇と、それに対応するために改正された土地利用計画法が、海岸林に大きな影響を及ぼしていることは確かです。

Reference: Rutgers University, North Carolina State University

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