火星のふたつの衛星、もとはひとつだったかもしれない説が浮上

  • 7,728

  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
火星のふたつの衛星、もとはひとつだったかもしれない説が浮上
Image: Mark Garlick via Gizmodo US

火星、フォボス、ダイモスの三体問題。

火星を回るふたつの衛星「フォボス」と「ダイモス」は謎だらけです。その最たるものが成り立ち。このふたつのいびつな天体がいつ、どのようにできたのか、また今後どのような運命をたどっていくのかについては複数の仮説がありますが、確証には至っていません。

最新の仮説は、もともと火星には衛星が1つしかなかったんだけど、なにか(小惑星など)と衝突したあげくに砕け散ってフォボスとダイモスが誕生したのではないか?というシナリオを提起しているのですが、学者の間の評判はイマイチのようです。

これまでの通説

パッと見、フォボスとダイモスはジャガイモみたいな形です。大きいほうのフォボスは最長でも23km、ダイモスは11km。いびつで小さいことに加え、表面が小惑星帯の外側にある小惑星と似た物質からできていることから、火星のそばを通りかかった小惑星が火星の重力に捕らえられて衛星になったのではないかと考えられてきました。

しかし、この通説と照合しないことがいくつかあります。小惑星であれば楕円形の軌道を描き、傾斜角もランダムであるはずなのに、フォボスとダイモスに至っては火星の赤道面にピッタリ沿いながらほぼ完璧な円軌道を描いているのです。

もうひとつの仮説

一方で、2020年5月に発表されたサイクリック・ムーン理論は、フォボスが数十億年おきに崩壊と再生のサイクルを繰り返しているのではないかと考えます。

フォボスは、実は火星の重力に引っぱられながら100年に2mずつ火星に近づいています。ですから、このままいけば7000万年後ぐらいには火星の重力に押しつぶされて粉々に砕け、その破片が火星の周りにリングを形成するのではないか。さらに、そのリング状に散らばった星屑が長い時間をかけて再結成し、やがてフォボスが甦るのではないかというのです。

この理論ならダイモスの軌道傾斜、またダイモスの方がフォボスよりもずっと古いことなどを説明できるので、有力視されています。

あたらしい仮説

さらに、ここにきて新しい仮説がまたひとつ登場しました。チューリッヒ工科大学で博士号を目指して勉強中のAmirhossein Bagheriさんは、2021年2月22日付で『Nature Astronomy』誌に掲載された論文のなかで、もとはひとつだった火星の月が、なにがしかの天体と衝突したインパクトによってフォボスとダイモスに分裂した可能性を指摘しています。

研究ではコンピューターモデルを使ってフォボスとダイモスの動きをシミュレーションしたそうなのですが、再生方向は逆。つまり、現在から過去にさかのぼってフォボスとダイモスの動きを追ったのです。そして過去のある時点で、フォボスとダイモスの軌道が交差していることを発見しました。

ということは、「かなり高い確率でふたつの衛星が同じ時に同じ場所にいたことがわかり、つまりはふたつの衛星の起源が同一であることが示唆されたのです」と論文共著者のAmir Khanさんは説明しています。同一の起源とは、母体となった天体、すなわち古代の火星の月のことです。Bagheriさんによれば、「フォボスとダイモスはこの古代の月の名残り」。そして古代の月は今と違って火星の同期軌道(公転周期=火星の回転速度)を回っていたと考えられるそうです。

鍵は「潮汐力」

実際シミュレーションを行うにあたっては、まず火星とフォボスとダイモスの潮汐力(ちょうせきりょく)などを調べないことにはこの三つの天体がどのようにお互いの動きに影響し合ってきたかを紐解くことはできませんでした。そこで、NASAの宇宙探査機「インサイト」から火星の地震活動データを入手することで、火星の内部でなにが起こっていたかを調べ、シミュレーションに役立てました。しかし、フォボスとダイモスに関して同じようなデータは存在していません。そこで、ふたつの衛星の地表面を写した画像や、リモートセンシングによって集めた測定値からシミュレーションに入力する変数を割り出していったそうです。

いざシミュレーションを走らせてみると、フォボスとダイモスが誕生したのは今から10億年から270億年前だという結果が出ました。かなりの誤差があるのは、フォボスとダイモスの内部がどうなっているのかが不明だから。このふたつの衛星の内部は穴ぼこだらけで、穴には氷水が蓄えられているとも考えられていますが、詳細はまだわからないことにはシミュレーションに役立てることができなかったんですね。

幸い、JAXAが2020年代前半の打ち上げを目指して開発中の火星衛星探査(MMX: Martian Moons Exploration)ではフォボスからのサンプルリターンが計画されています。フォボスから直接得たデータを加味すれば、シミュレーションの精度はさらに上がりそうです。

辛辣なご意見も

非常に興味深い研究なんですが、残念ながら科学者からは懐疑的な意見も。

先述のサイクリック・ムーン理論を提唱したSETI協会の科学研究員、Matija Ćukさんは、メールで「火星の潮汐力に関しては詳細なモデルを使用しているものの、火星衛星の潮汐力を裏付ける物理学的根拠が希薄すぎる」と批判しています。「もっと重要なことに、もし何十億年も前にフォボスとダイモスの軌道がシミュレーションが示したとおりの非常に速い相対速度で交差していたとしたら、ひとつの天体が破砕したことによって得られる速度をはるかに超えているのでこのシナリオ自体が意味を成していないのです」とも。

さらに、もともと火星にひとつしか衛星が存在していなかったとしても、20〜30億年ものあいだ火星の同期軌道を保つのは「現実的ではなく」、おそらくもっと早い段階で同期軌道から逸れていた可能性が高いそうです。「結局のところ、この論文はフォボスとダイモスの起源について人々が知りたいことに何ひとつ答えられていないんです」とĆukさん。「『Nature Astronomy』のように格式の高い学術誌によく掲載してもらえたものです」とトドメを刺しています。手厳しいですね…。


NASAの「パーサヴィアランス」が感動的なランディングを決め、火星探査の新時代が幕開けたのはつい先々週のこと。アラブ首長国連邦の火星探査機「HOPE」と、中国の火星探査機「天問1号」の活躍も相まって、今後火星から新たな発見が続々届きそうです。

JAXAの火星衛星探査にも期待が高まりますね! はやぶさ計画で培った日本の繊細かつ精密な宇宙探査技術をまた目の当たりにできると思うと、今から胸アツです。

Reference: ETH Zurich, JAXA

    あわせて読みたい