あれはなんだったのか…。謎の奇病6大パンデミック

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あれはなんだったのか…。謎の奇病6大パンデミック
Image:LACMA所蔵 |ミハエル・スウェールツ「古都の疫病」(1650-1652年頃)

疫病というだけで怖いのに、原因がわからないのはもっと怖い。

COVID-19は少なくとも初期段階で新型コロナウイルスが犯人とわかりましたが、歴史をひも解けば、原因もわからないまま大勢の人が犠牲になった例は少なくありません。異端裁判、拷問、魔女狩りが横行したペストについては、新千円札北里柴三郎がストッパーになりました(新千円札に決まった翌年にコロナが広まるなんて…)が、ここでは謎多きパンデミック6つ集めてみました。

1)古代ギリシャ文明に滅亡をもたらした「アテナイの疫病」

紀元前430年、ギリシャの首都を疫病が襲います。オリュンポスの神々にすがるも虚しく、4人に1人、のべ10万人が亡くなった病は「アテナイの疫病」と呼ばれ、有史以来初のパンデミックとなりました。上の絵はそれを描いたものと考えられています。

ずっとペスト菌のせいだと思われていたけど、今は違うという説が有力です。症状は、高熱、吐血、皮膚病。腸チフスからエボラまであらゆる可能性が論じられていますが、どれも決め手に欠くようです。

2)汗が噴き出して1日で死にいたる「粟粒熱(ぞくりゅうねつ)」

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夭逝したサフォーク第3公爵チャールズ・ブランドン(画・ハンス・ホルバイン・ザ・ヤンガー)。弟のヘンリーとともに14歳で死亡。死亡時刻は1時間と離れていなかった
Image: ロイヤル・コレクション

15世紀も終わりに近づいた頃、イギリスからヨーロッパ全土に広まった奇病がこちら。何の前触れもなく突如、悪寒、頭痛、四肢と肩の痛みに襲われ、数時間で全身から汗が吹き出したかと思うと、かかった人の50%が1日で死にいたるという、すさまじいスピード。英語で「sweating sickness」と呼び恐れられました。

16世紀になっても時折忘れたような頃にやってきて、流行るのは決まって晩春から夏。いったい何なんでしょうね? 記録に残っている最後のアウトブレイクは1578年で、それを境にぱったり消えました。なぜ広まったかも謎なら、なぜ消えたのかも謎。いちおう回帰熱、ダニ媒介性疾患、ねずみで広がるハンタウイルスの未知種(あっという間に死にいたるという共通点)などの説が有力となっています。

3)アステカの民を一度に数百万人単位で葬り去るCocoliztli

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メキシコ南部から出土した16世紀の集団墓地

16世紀、アステカ(今のメキシコ)を襲ったパンデミック。一度に死者数百万人が出る猛威を奮い、それが断続的に起こりました。当時流行った天然痘とは別種のようです。便宜上、「Cocoliztli(疫病)」と呼ばれていましたけど、原因はよくわかっていません。

特異なのは、感染すると頭痛、黄疸、発熱、胸部激痛にうなされて、目や耳から血が流れること。「エボラに似たウイルス性出血熱」と考えられていたんですが、出土した感染者11人の歯を2018年にDNA鑑定してみたら違って、検出されたのはサルモネラ菌の一種「Salmonella enterica」だったのです。これが原因菌かどうかは今も議論が分かれていますけどね。

4)北米先住民を殲滅したThe Great Dying(大絶滅)

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ロバート・ウォルター・ウィアー作「巡礼者の乗船(The Embarkation of the Pilgrims)」( 1857)
Image: ブルックリン美術館

原因不明の流行り病で北米先住民の9割が消えたのは1616年で、メイフラワー号が新大陸に渡るわずか4年前のことでした。あまりのタイミングにピルグリム・ファーザーズは小躍りし、「入植しやすいよう神が導きたもうた」と天を仰ぎましたが、現実には単にひと足先に難破して漂着したヨーロッパ人を先住民が助けてやったら病気をもらってしまっただけのこと。旧大陸の菌にまったく免疫のない先住民は、なす術もなく死んでいったのでした。トロイの木馬どころか、人間そのものがバイオハザード、細菌兵器だったのです。

北米大陸の命運を分けたパンデミックは、ベルム紀の大量絶滅と同様、「The Great Dying」という名前で語り継がれています。疫病の正体はおそらくは天然痘か黄熱病、疫病、あるいはまた、近年稀に見るレプトスピラ症(動物の尿や食料・水から広がる)の可能性が高そうです。

5)眠り病

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嗜眠性脳炎の猿の脳。発見したオーストリア人神経科医Constantin von Economo氏の著書より転載
Image: Constantin von Economo

第一次世界大戦下の1915~28年、世界各地で発生した神経疾患がこちら。学術名は「嗜眠性脳炎」ですが、一般には「眠り病」とも呼ばれます(ツェツェバエで広まる睡眠病とは別物です!)。発熱、乱視、頭痛、眠気などに襲われ、昏睡したきり意識が戻らなくなる人も。意識が戻っても長く神経系の後遺症に悩まされるという厄介な病です。

感染者は推定100万人を超え、死者およそ50万人。「毒素」、「ウイルス(インフルエンザ?)が脳を直撃した」、「感染後の免疫反応」など、原因をめぐっては諸説あります。

6)ニューブランズウィック集団記憶障害

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脳の模型(2017年3月27日・ロンドン/ウェスカム・トラスト所蔵)
Photo: Dan Kitwood / Getty Images

人類が恐れおののいた原因不明のパンデミック。最後にご紹介するのは現在進行中のものです。場所はカナダのニューブランズウィック州。ここでは今、特にこれといった共通点もない人たちが突然物忘れが激しくなるケースが頻発しており、今年3月はじめに州衛生局から域内の医師らにクラスタ注意の警告が発せられたばかりなんですね。

衛生局が把握しているだけでも2015年から43例発生していて、うち5人は死を迎えています。尋常じゃない致死率ですよね…。今年に入ってもう6人が発症しました。

症状は記憶喪失、幻覚、勝手に筋肉が動く、けいれんといったものです。高齢者だけということはなくて、あらゆる年齢で起こりうる病気とのこと。

悪性のプロテインが脳に宿って徐々に劣化を招くプリオン病(代表例はクロイツフェルト・ヤコブ病)が真っ先に疑われたのですが、これまでのところ、脳解剖などで得られたエビデンスはそれとは別の方角を指しています。残るは毒素や病原体の感染の可能性などでしょうか。年齢無差別というところが気味悪いですね…。

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