時代を100年先取りした発明家・テスラの半生を描く。映画『テスラ エジソンが恐れた天才』レビュー

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  • author 山田ちとら
時代を100年先取りした発明家・テスラの半生を描く。映画『テスラ エジソンが恐れた天才』レビュー
Image: CineRack

「テスラ」といえば?

真っ先に思い浮かぶのはイーロン・マスク氏の電気自動車でしょうか。でもこの「Tesla Motors」という社名、じつは19世紀のちょっと変わった発明家、ニコラ・テスラ(Nikola Tesla)に由来しているんですね。天才イーロンが社名にしちゃうほど惚れこんだ天才テスラとは、一体どんな人物だったのでしょう?

その答えを、現在上映中の映画『テスラ エジソンが恐れた天才が余すところなく見せてくれています。

天才の頭の中を覗いてみたいと一度でも思ったことがあるなら、ぜひ観てほしい映画です。孤高の天才・テスラの半生を、史実と妄想を織り交ぜながら、夢のような(いえ、むしろ悪夢のような)タッチで描き出した怪作。基本的にはテスラの伝記に忠実なんですが、ところどころでマイケル・アルメレイダ監督のテスラ愛が炸裂し、声を出して笑いたくなるほどコミカルな演出に仕上がっているところも必見です。

で、テスラってだれなの?

イーサン・ホーク扮するニコラ・テスラ。眼孔には絶えず鋭い光が宿る

クロアチアに生まれ、後にアメリカに渡ったニコラ・テスラ(1856-1943)は、物理学者・電気技師・発明家。数々の偉業を成し遂げたにもかかわらず、その名は一般にはあまり知られていません。日本では特に知名度が低いため、トーマス・エジソンの最大のライバルだったと紹介されるのが常です。本作の邦題も然り。

しかし、名が知られていようがなかろうが、テスラの発明が現代社会を支えていると言っても過言ではありません。なぜなら、テスラは交流式電気システムの生みの親だからです。

ライバル・エジソンとの泥沼な関係

いまや電気がない生活なんて考えられません。でもほんの150年くらい前までは、「電気」という目に見えない力は危険な魔術と見なされていました。そんな時代に白熱電灯を発明し、人々の心に新たな希望を灯したのがエジソンでした。

カイル・マクラクラン演じるエジソン。いい男だけど、なかなかのクセ者という設定

エジソンは直流式の電気システムを推進していました。ところが、直流式には送電の際に大きなロスが生じるハンデがあります。そこでもっと効率よく発電・送電できる方法はないものかと世界中の科学者が模索していた最中に、若きテスラがブダペスト内の公園をお散歩中に発明したのが二相式交流モーターでした。

画期的な交流モーターをひっさげて、テスラは海を渡り憧れの大先輩であったエジソンを訪ねます。そしてエジソンの元で働きながら自身の交流モーターを認めてもらおうとするんですが、あいにくエジソンはこれを完全否定。この頃からテスラとエジソンの対立が鮮明になり、やがて直流派と交流派が優位を争う「電流戦争」が勃発します。

結果として、時代に選ばれたのはテスラの交流システムでした。二相式交流モーターに加えて誘導モーター、リラクタンスモーター、シンクロナスモーターなどを次々と発明したテスラは、電気エネルギー革命の寵児となり、大成功を納めました。

映画ではテスラとエジソンの戦いぶりがユーモアたっぷりに描き出され、最大の見どころとなっています。リアリストだったエジソンは、商才に長けたプレイボーイ。対するテスラは夢を追い続けるロマンチストで、金銭感覚ゼロ、恋愛偏差値も絶望的なシャイボーイでした。このような対照的なライバルがいたからこそ、お互い発明の能力をフルに開花できたのかもしれません。

天才であるがための苦悩

重度の細菌恐怖症を患っていたテスラは、食事をする際は必ず清潔なテーブルクロスとナプキン18枚を用意させ、そのナプキンで食器やカトラリーを丹念に磨きあげるほどのノイローゼぶりだったそうだ

テスラは交流モーターのほかにもテスラコイル、無線トランスミッターや、放電照明の原型などを次々と発明していきました。テスラ社の電気自動車も、電子レンジも、蛍光灯も、いまやっと現実になりつつあるワイヤレス給電システムも、すべて元をたどればテスラの発明に行き着きます。それほど現代社会は彼の頭脳の恩恵を受けているってことに、あらためて深い感銘を受けました。

ところが、そんな偉大な発明家も人生の後半でつまづきます。資金源を絶たれ、廃人同然となって落ちぶれていってしまいます。

その理由のひとつにテスラの革新性がありました。100年以上先の未来を見通していたテスラは、革新的過ぎて当時の世の中には理解されなかったのです。 なにせラジオが発明された時代にすでにWi-Fiのような無線通信システムを構想していたテスラですから、誰もついていけなかったのはしょうがない…。

もうひとつの理由は天才であるがための代償でした。 かつて学校では「神童」ともてはやされ、特に数学・文学・語学に秀でていたテスラは、じつは天才にみられがちな脳の病理にも悩まされていたそうなのです。

テスラは幼い頃から、一つの幻覚に悩まされていた。それは、何かの対象について考えたとたん、その物体が目の前に出現することだった

新戸雅章著『知られざる天才 ニコラ・テスラ』より

この幻覚症状に加え、テスラは異常なほどの完璧主義者で、潔癖症で、計算強迫障害(持ち物を数えないと落ち着かない気質)・独言癖・女性のアクセサリーに対する恐怖症・細菌恐怖症などにも悩まされていたそうです。

映画ではテスラの現実と幻覚が交錯し、時にテスラの頭の中に入ってしまったかのような感覚に囚われます。そしてこんな一癖も二癖もある難しい役どころを見事に演じきっているイーサン・ホークから、とにかく目が離せなくなります。

なぜ今、テスラなのか

コロラドスプリングスに設置された巨大な高周波高電圧発生装置(テスラコイルのようなもの)

時代の100年先を生きたテスラ。没後はその「マッドサイエンティスト」たるイメージが一人歩きしてしまい、オカルトっぽい界隈では有名になったりしたものの、長らく多くの人から忘れ去られた存在となっていました。それが今ここにきて映画化された意味は?

Poco'ceによれば、監督のマイケル・アルメレイダ氏は16歳の時に熱烈テスラファンだった友人の影響を受けて、初めてテスラについての映画を作りたいと考えたそうです。そして22歳の時に脚本を書き上げて映画化を試みるも、当時の出資会社がまさかの倒産。なんだか資金源のやりくりにおいてはテスラの亡霊に呪われているかのような展開ですが、その後じつに30年以上の歳月を経てやっと映画化されたのがこの『テスラ エジソンが恐れた天才』なのだそうです。

奇しくも、テスラがオフィスで心臓発作に襲われ、その後1943年に生涯を終えるまでの闘病生活が始まった1921年から、今年でちょうど100年目。その頃のテスラが病床で思い描いていた世界に、わたしたちが今暮らしているってことになります。時代がやっとテスラに追いついた、といってもいいのかもしれません。

テスラ自身の失敗や挫折はありましたが、その先を引き継いでくれた科学者がいたからこそ科学は脈々と受け継がれ、発展してきました。その恩恵にあやかれることを感謝しつつ、その科学の発展の中でひときわ重要な役割を果たしたテスラにも感謝の念を抱きました。

偉大な発明家であるテスラはもっと認識されるべき。そしてテスラのことを知るためには、この映画を観るべき!

『テスラ エジソンが恐れた天才』(原題:TESLA)

2020年製作/103分/G/アメリカ

Images: CineRack

Reference: CineRack, BE-SQUARE, 新戸雅章著『知られざる天才ニコラ・テスラ』(平凡社新書)

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