北アメリカに17年ゼミの季節がやってきました

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  • author Brian Kahn - Gizmodo US
  • [原文]
  • 山田ちとら
北アメリカに17年ゼミの季節がやってきました
Image: Shutterstock

夏の風物詩なんてなまやさしいもんじゃない。

今月下旬から6月にかけて、アメリカ東部に大量のセミが湧きます。どれぐらい大量かというと何億、何十億のレベル一説によれば、1メートル四方におよそ300匹のセミがひしめき合うほど密度が高くなるホットスポットもあるんだとか…!

彼らは「ブルードX」("ブルード"とは年次集団の意)と呼ばれていて、17年に一度しか姿を見せません。前回ブルードXが生まれたのは2004年。世界がアテネオリンピックに沸いた夏でした。iPod miniが発売され、ニンテンドーDSとプレイステーション・ポータブルがゲーム界を席巻しました。

それから17年経った今、世界はいい意味でも悪い意味でもずいぶんと変わりました。ブルードXの再来を機に、米GizmodoのBrian Kahn記者は自身の17年間の軌跡をセミたちの生涯に重ね合わせ、こんなことを書いています。


ブルードXが出没し始めています。

今年の春は例年より気温が低く、降雨量が多かったためにやや遅めの登場となりました。17年間も土中に潜伏していたセミたちが見る地上の世界は、きっとなつかしくもあり、驚くほどの変貌を遂げてもいるのでしょう。

2004年の夏に出現したブルードXたちの記憶はあまりありません。ちょうど大学を卒業したばかりだった僕は、新しく手に入れた自由を謳歌すると同時に恐れおののいてもいました。

今の僕はあの頃より歳を重ね、知恵を身につけました。今年こそはセミたちの短い生涯をしっかりと見届けるつもりです。それほどに圧倒されてしまうのです、セミたちの生命力には。何億、何十億というセミがタイミングよく一緒に土に潜り込み、一緒に地上に這い出してきて、ただ一心に生殖にはげむ。そうやって次の世代が17年後にまったく同じことができるよう、命をつないでいるんです。

タイミングがすべて

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Image: Shutterstock

アメリカ東部には17年ゼミ13年ゼミ(ふたつを合わせて「素数ゼミ」とも)が15のブルードを形成しています。ブルードXは17年ゼミ集団のうちのひとつ。なぜ17年間も土の中に潜伏しているのかはまだ科学的に解明されていません。(ちなみに日本のアブラゼミは7年目の夏に出てきます。

だいたいどうやって17年後きっかりに出てこられるんでしょうか? ある仮説によれば、セミたちは体内分子時計を持っていて、土の中でエサとして吸っている樹液から時間の経過を計れるのだとか。でも、実際いつ土から出てくるかを決めるのは地中の温度です。具体的には、積算温度です。地中の温度が18℃を超えるともに、セミたちは地面から這い出してきて愛を求め始めるのです

自らの殻を破る

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土から出てきたセミは、まだ幼虫。まずは脱皮して大人の姿にならなければいけません。

茶色い殻が背中から裂けると、その下から徐々に純白の成虫が姿を現します。羽が伸びきって固まるまでに数時間、飛べるまでにはさらに数時間。そうしてセミが力強く飛び立った後には、抜け殻だけが残されます。あの精巧に作られた、カサカサしたかっこいいやつ。子どもの頃熱心に集めた人は多いはずです。

多勢に無勢

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いくら成虫になって羽を手に入れても、たかが体長5センチ程度にしかならないセミにとってこの世は非情なサバイバルゲーム。セミを好んで食す鳥類、爬虫類、犬、時には人なんかからも逃げおおせなくてはなりません。

あまりに非力なので、とにかく数で勝負しているとする説もあるほど。去年のブルードIXの大量発生は今年よりも多かったそうで、少なくとも1メートル四方におよそ370匹のセミが湧いたとか。そんなにたくさんいてもどんどん敵に食べられちゃうのですが、食べ尽くせないほどたくさんいるので後世に子孫を残せるってわけです。種の存続のためには自己犠牲もいとわない。気高く、そして切ない生き方です。

セミの聲

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セミってなんだかおっかなそうですよね? でも人間にはまったく害がないのでご安心を。まあ、眠りの浅い人にとっては呪わしい存在でしょうけど。

メスにラブコールを送るために、オスのセミはけたたましく鳴きます。たくさんのセミが一斉に合唱を始めると、たとえイヤホンを耳に突っ込んでいてもその爆音からは逃げられません。

爆音を作り出しているのは意外にも振動です。小学館の昆虫図鑑によれば、オスの腹部の大きな背弁の内側にある「発音膜」と呼ばれる鼓膜を「発音筋」と呼ばれる強力な筋肉で振動させて音を出すのだそう。その音はほとんど空の腹部内で増幅され、大きな鳴き声になるんだそうです。

セミの種類によって鳴き声が違います。また、1匹のオスに呼応するかのようにほかのオスも鳴き始めるので、聞いているこちらの鼓膜がどうにかなりそうな大音量になることもあるのだとか。ちなみにメスは鳴きません。

そうして無事に交尾を済ませたら、メスは400個にのぼる卵を木に産みつけます。卵から孵化した米粒大の幼虫はすぐさま土に潜り、そこで17年間過ごします。成虫は夏を待たずに死んでしまいます。

セミにまつわるトリビアあれこれ

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サイエンスライターとしての僕の務めは、読者に面白いサイエンスネタを提供することです。

コロナ禍がそのうち落ち着いてきたら、徐々に立食パーティーとか社交イベントにも顔を出す機会が増えてくるわけですよね? そのような時に、もしもサイエンスネタがお役に立てたなら幸いです。それがセミのラブコールと同じような効果を発揮できるのであれば、なおさらのこと光栄です。

妙なサイエンスネタが秩序と無秩序の境目です。秩序ある社会的生活へ復帰するためには、以下のセミネタを覚えておいて、パーティーなどで披露してみてください。または、パーティーなんかに行かなくたっていいや、このまま家でネコと仲良くしてるんだって方も、どうぞネコちゃんに聞かせてあげてください。

・セミの鳴き声がうるさすぎてボルチモアでは罰金の対象になったそうな

セミの体を蝕むキノコ(幻覚症状を起こすやつ)があり、それにやられるとセミは腹部を失ってしまう。でもあいかわらず交尾はできるそうです

・ボブ・ディランはセミの歌を書いたことがあるんだそうな

・でも曲のタイトルは『Day of the Locusts(イナゴの日)』。セミはイナゴじゃない。ボブ・ディランはインチキだ

・今年の春はたまたま温度が低くてセミの出現が遅まったけど、気候変動が進めばセミの出現も早まることになりそう。そのせいかどうかはわからないが、ブルードXのうち少数は間違えて2017年に出てきちゃったやつもいたんだとか。このままいけば体内時計がさらに狂い、新しいブルードの創生にもつながるかもしれません。

Reference: Washington Post, University of Maryland

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