アルプスの氷が溶けたら、100年前の兵士の隠れ家が出てきた

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アルプスの氷が溶けたら、100年前の兵士の隠れ家が出てきた
ステルヴィオ国立公園で見つかった第一次世界大戦の遺物。 Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US

極寒の地で過酷な暮らしをしてたんだね。

イタリアアルプスの公園で、氷と霜の層の下に埋もれていた第一次世界大戦の遺物が発掘されました。これは素晴らしい発見であると同時に、100年後の気象状況に関する不吉な予言でもあるのです。

氷が溶けたから発見できた「第一次世界大戦の遺物」

ある研究者チームが、イタリアのアダメッロにあるスコルッツォ山の頂上のすぐ下にある洞窟で、100年以上前の「遺跡」を発見しました。この洞窟は戦時中、オーストリア兵士たちが隠れ家(シェルター)として使っており、現在はステルヴィオ国立公園内に設置された「ホワイト・ウォー・ミュージアム」という屋外博物館の一角を成しています。

このシェルターの存在は以前から知られていましたが、周りを氷河に囲まれていたため、2017年までは中に入ることができませんでした。それから徐々に氷が溶け、さらに研究者らが60立方メートルもの氷を削り出した結果、先月ついに博物館のチームが洞窟内部に入ることに成功。コインやヘルメット、武器、そして遺体を含む300点もの遺物が100年ぶりに太陽の光を浴びることになったのです。

ステルヴィオ国立公園の歴史家兼遺産事業コーディネーターのステファノ・モロシーニ氏は、「とてもエキサイティングでした」とメールに記しています。「1918年11月3日以来、内部には誰も入れませんでしたから、タイムマシンのようなものです」。

今回の洞窟発掘を実現に導いたのは、皮肉にも危機的な気候変動でした。

危機的な気温上昇によって遺跡が日の目を見るという皮肉

気温の上昇にともない、ヨーロッパ中の雪や氷が危機にさらされています。大陸全体で氷河や氷地が溶けだし、その中に埋もれていた遺物や遺跡が露出し始めているのです。中には数千年前のものあり、今回の発見もまたその1つです。そして世界各地の、かつて凍っていた場所同じことが起きています。

「洞窟の入り口は氷に隠れ、閉ざされていました」とモロシーニ氏は言います。氷が溶け始めたことで、兵舎の上部を滑って中に入り込むことができたのだそう。

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Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US
第一次世界大戦で使われた消火器も発見された。

兵士たちの「過酷な生活」が明らかに

モロシーニ氏は、「今回発見された埋蔵物から、当時の兵士たちが過酷な生活を送っていたことがわかります」と明かしています。戦争中、兵士たちは氷点下の気温に耐えることを余儀なくされました。雪崩に遭ってアルプスの危険な氷や岩に落ちた者もいれば、低体温症で亡くなるものもいるなど、多くの命が失われました。

さらに物資も不足し、倹約生活を強いられていたことも今回明らかになりました。たとえば下の画像。モロシーニ氏の解説によると、左側にあるのは空き缶を再利用した手作りの「おたま」だそう。

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Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US
発掘された埋蔵物から、兵士たちの「貧しい暮らし」が明らかに。


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Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US
弾薬が収納されていた箱。


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Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US
研究者が発見した軍用アセチレンランプ。

アルプスの「雪の季節」が失われている

今もイタリアアルプスの気候は寒冷ですが、100年前はさらに過酷でした。気象変動により、ヨーロッパアルプスの気温は産業革命前と比べて2℃ほど上昇していますが、これは世界平均よりも高い水準です。雪が溶けるとその下から暗い色の岩が出現して太陽光と気温を吸収するため、山は気温上昇のペースが加速しやすいのです。

こうした温暖化により氷、そして永久凍土層が溶け、山を覆う降雪が減少します。1960年から2017年の57年間でアルプスの「雪の季節」は38日も短くなりました。さらにこの地域では2000年以降、氷河の少なくとも15%が後退しています。今世紀末にはアルプスの氷河が半分以上消滅する恐れがあると指摘する研究もあるんだとか。

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Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US
スコルルッツォ山から見たステルヴィオ峠の眺め。

ステルヴィオ国立公園の氷から溶け出した第一次世界大戦の名残は、この洞窟だけではありません。長年、この地域からは数十もの遺体見つかっています。中には、発掘調査以外の思いがけない機会に発見されたものもあり、昨夏はアダメッロ氷河にハイキングに訪れた人が兵士の遺骨を見つけたんだそう。さぞかし、背筋が寒くなったことでしょう。

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Photo: Stelvio National Park via Gizmodo US
研究者チームが発掘した洞窟。

遺跡は見つかった。しかし、気候変動は深刻

もしこの地域で気候変動がなければ、こうした「20世紀の忘れもの」が再び日の目を見ることはなかったでしょう。ホワイト・ウォー・ミュージアムは、「スコルルッツォ山の洞窟で見つかった遺物は、100年以上の歳月を経て、海抜3,000メートルでの生活の一端を私たちに伝えてくれています」と声明の中で語っています。

気候危機によって歴史的な真実が明らかになったなんて、なんだか信じられません。ただ、温暖化にはデメリットが多いことは言うまでもありません。健康問題の増加、海面上昇、そしてイタリアを含む世界での不平等拡大は、第一次世界大戦よりもゾッとしてしまいますから。

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