土葬も火葬も嫌。どうせ死ぬなら木や花になりたい。
そんな人類の願いを叶えようと、米ワシントン州に続きコロラド州でもご遺体コンポスティングの合法化法案が議会で可決され、知事のサインを待つばかりとなりました。
ムーブメントの火付け役は、分解葬ビジネスをシアトルで展開するKatrina Spadeさん。医師一族の出で、食事中に遺体の話が出るような環境で育った人です。大学では文化人類学を学び、院では建築デザインを専攻、修士論文「都会の遺体が眠る場所」で数々の研究費がついて5年前にTEDでアイデアを発表して一躍脚光を浴びました。
2021年1月から遺体のコンポスティングサービス開始
そのときは法の整備はまだでしたが、地元ワシントン州が理解を示して2019年に合法化され、今年1月から自然有機分解(Natural Organic Reduction:NOR)の施設をオープン。土葬・火葬並みの費用でご遺体を30日で土にする急速コンポスティングのサービスを行なっています。
確かに人間だけtake, take and takeで自然に何もgive backしてませんものね…。私も最近コンポスティングにはまって遅ればせながら気づきました。この春はコロラド州も追随ということでNY Times、コルベアレポート(1:00~)、MSNBCでも大きく取り上げられ、認知が広まっているのを肌で感じます。
5年前のTEDのプレゼンをプレイバック
初耳のみなさまのために、5年前のTEDのプレゼンと翻訳を貼っておきますね。
[動画のおおまかな内容]
人はみないつか死にます。
それは怖くないけど、死んでから体がどうなるかを思うと暗くなります。
現在アメリカでは土葬を選択する人が50%近くいます。つまり葬儀スタッフが体液を抜いて、遺体の鮮度を長く保つ保全液と入れ替えるエンバーミングを施し、棺に入れ、コンクリートで囲まれた墓地の一角に埋めているのです。
全米の墓地で使用される金属を全部集めたらゴールデンゲートブリッジが建てられるほどの量なります。木材を集めたら一戸建ての家が1,800軒建つし、エンバーミングで使うホルムアルデヒド(ホルマリン)を集めたら五輪プール8個ぶんに相当します。
しかも今は世界的な墓地不足です。結局いいビジネスにならないんですよね、だれかに永久に土地売るんですから。どう考えたって(会場笑)。
お金をいくら積んでも分譲してもらえない地域もあって、最近は火葬の率が急上昇中です。1950年には、おばあちゃんを火葬にしようなんて言おうものなら親族からつまみ出されたものですが、今はアメリカでも半分近くの人が火葬を選んでいます。「シンプルで安価で環境にもいい」からです。
かくいう自分も火葬はサスティナブルな埋葬法だと思っていました。でもよくよく考えてみたら、燃やしてしまったら、せっかく死後地球に恩返しできるのにそのポテンシャルが無に帰してしまうじゃないですか。遺体を灰にするプロセスにはすごくエネルギーがかかります。空気も汚れます。全米の火葬で大気中に排出されるCO2は年間なんと6億ポンド(約2.7億トン)。人生の最後の最後に地球の毒になってあの世に行くんですね。

まるで人間と自然の間になるべく距離を置くことがよいことであるかのように、自然分解を拒絶するよう組まれたのが今の埋葬法です。つまり分解はできなくなっている。
ですが体はほっといても自然にまかせれば、微生物の力で土に還ります。養分たっぷりな土になって生のサイクルが終わって、死が生に変わるんです。
そんなことを考えながらデスケアを再デザインする計画を練ってみました。自然を畏怖する対象ではなくガイド役と考えて、地球のためになる埋葬システムをつくれないものか。ホワイトボードに板書してうんうん考えていたら電話が鳴って。友だちのKAYがこう言ったんです。「ねえ、酪農農家って牛まるまる1頭コンポストするんだって。知ってた?」。思わず「その手があったか」となりました(会場笑)。
調べてみたら、昔から酪農農家ではLivestock Mortality Composting(家畜の死骸のコンポスティング)なるものを実践しているんですね。動物は窒素を豊富に含むので、炭素を豊富に含むものを被せておけば、分解するんです。微生物は好気性なので酸素と水を適量与えれば。
たとえば牛。木切れを被せて野外に置いておけば、そよ風と雨が降り注いで9か月後、養分を豊富に含むコンポストになります。肉はもちろん、骨までも。
だから人間がすべきことといっても、自然まかせにする環境を整えてあげればいいだけなんです。いわば抗菌ソープの反対の作業と言いますか。菌を諸手を挙げて歓迎するわけです。
5年かけて土壌と分解、オルタナティブ・デスケア、法律、建築の専門家にもご協力いただきながらそのシステムを構築しました。試作のプロトタイプには世界中から利用を希望する声が寄せられています。フル装備の施設は2年以内にオープンを目指しています。場所はここシアトルです。
それは公園と葬儀場と墓地がひとつになった場所です。自然のサイクルに人間が再びつながる場所。慈しみとリスペクトをもって体を扱う場所です。
インフラはシンプルです。人体をウッドチップで覆い、急速コンポスティングで土に変えてゆきます。
具体的には、亡くなった方は施設に運び込まれて布にくるまれます。ご遺族みんなで上階に運び、お別れのセレモニーを行ない、所定のくぼみに安置して、弔いにウッドチップを被せます。すると微生物とバクテリアがたんぱく質を分解して滋養豊かな土に変えてくれるのです。
こうしてできた土は新たな生命に役立てられ、最終的にはレモンの木などになります。いま咄嗟にレモンメレンゲパイが頭に浮かんだりしてませんか?(会場笑)
シアトルの施設をモデルケースとして全世界に広めるのが目標。これまでのところ南ア、豪、UK、カナダなどから引き合いがきています。海外展開できるようデザインツールキットも作成中で、それを見れば技術的な仕様と最適な運用法がわかるようになっています。デスケアのすべてを見える化し、地域と人にやさしいものにするのです。
人にはエコロジカルなデスケアを受ける権利があると私たちは考えます。
…と話すと堅苦しいけど、要するに牛がいけるなら人間も充分いけるってことですね。
現在は大学との共同研究をしている最中

こちらは2014年からノースカロライナ州の丘で行なった試験運用の模様です。運用は、ウェスタンカロライナ大の鑑識解剖学部と文化人類学部の協力のもと行ないました。ドナーのご献体6体をウッドチップで覆い、酸素は風で供給。これで分解できることが実証できました。
今はほかの大学とも共同で研究を進めています。ワシントン州立大学で土壌を専門とする院生たちが調べているのは歯の詰め物の分解のことで、それが一段落ついたら次は、がんの化学療法がコンポストに与える影響を調べて、対処が必要かどうかも検証しなければなりません。
ちなみにコンポスティングってすごく熱が出るんですね。5体目のコンポスティングでは開始後1週間でこのこんもりした山の内部温度は華氏158度(70℃)に達しました。寒い季節でも自然の力でそれだけの熱エネルギーが出ると考えるだけでなんだか心がなぐさめられます。まるでマジック。科学はマジックと思わずにはいられません。
デスケア革命は今はじまったばかりです。目の黒いうちにこんなに面白い時代になってよかったなあと思います。
どうでしょ、人体コンポスティング。こないだ家族とやる? やらない? って夕ご飯食べながら話し合いになりました。自分はこっちがいいなあ。愛犬もどうせなら遺灰より土にしてくれたほうが、見晴らしのいい散歩コースに木の1本も植えられるのにって思いますねー。