蚊が媒介する病気を防ぐために、10億匹の蚊を解き放つ作戦が始まった

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  • author Dharna Noor - Gizmodo US-
  • [原文]
  • R.Mitsubori
蚊が媒介する病気を防ぐために、10億匹の蚊を解き放つ作戦が始まった
Image: Gizmodo US

人間にたとえたら、身の毛のよだつ話。

今、マイアミ南西部のフロリダ諸島に何千何万ものオスの蚊が押し寄せています。ただし、普通の蚊ではありません。遺伝子組み換えされ、この地に故意に放たれた蚊なのです。これはアメリカの2つの州で展開される「蚊が媒介する病気を抑える」ための壮大な作戦なのですが、一部では「マジで大丈夫!?」という不安の声が上がっています。

疾患媒介蚊を撲滅する新たなツール「遺伝子組み換え蚊」

4月末、作業員たちがフロリダ諸島の3つの島に蚊の卵が詰まった箱を設置しました。カジョー・キーに2箱、ラムロッド・キーに1箱、そしてボカ・キーに3箱。順調にいけば、卵はおよそ1週間後に孵化します。今後数カ月にわたってこのプロセスを繰り返し週1万2,000個の卵を12週にわたって放出する予定。合計、14万4,000匹…。

アメリカで遺伝子組み換えされた蚊が放出されるのは、もちろん初めて。このプロジェクトはフロリダ諸島蚊駆除区(FKMCD)がイギリスの民間バイオテクノロジー企業Oxitecと共同でたちあげたもの。この地域でのデング熱、ジカ熱、黄熱病の蔓延を抑えるための試みです。

フロリダ諸島蚊駆除区のアンドレア・レアル事務局長は声明で、「従来の駆除方法に蚊が耐性を持ち始めたため、こうした蚊と戦うための新たなツールが必要だ」と述べています。

そうして、この地で昆虫媒介性疾患を蔓延させる「ネッタイシマカ」の個体数を減らすために生み出されたのが遺伝子組み換え蚊。フロリダ諸島にいる蚊の総個体数のうち、このネッタイシマカが占める割合はわずか4%。にもかかわらず昨年キー・ラーゴではデング熱の発症例が70件も報告され、他の病気も拡大のリスクを抱えているなど、大きな懸念事項になっています。

「卵を産む前に死ぬメス」を作り出す

ネッタイシマカのうち、人を刺すのは産卵前のメスだけ。卵を成熟させる栄養源として血液を求めるのです。そこで科学者チームが遺伝子操作して生成したのが、「成虫になる前に死ぬメス蚊」が生まれるようにプログラムされたオス蚊(OX5034)です。それがネッタイシマカのメスと交尾すると、次に生まれてくるメスは幼虫のうちに死んでしまうため、卵を育てることができません。結果的に人間を刺して病気を媒介する蚊を撲滅できる、という作戦なのです。

ちなみに今はまだプロジェクトの第一段階。Oxitecは環境保護庁から実験的使用許可を取得しており、今後2年間でフロリダ州とテキサス州の約27平方kmにわたって10億匹の遺伝子組み換え蚊を放出していく予定です。

安全性が主張されるも、住民からは不安の声

Oxitecはこの方法について「安全」で「環境に優しい」と主張しています(蚊の立場からすると、まったく優しくありませんが…)。すでにケイマン諸島やパナマ、マレーシア、ブラジルでのフィールドテストで実績を積んでいるんだそう。また、環境保護庁とフロリダ州の農業消費者サービス局から承認されているほか、米国疾病対策センターや独立系の顧問委員会からも支援も受けていると胸を張ります

ただ、フロリダ諸島の住民はこの作戦に不安を抱いている様子(そりゃそうか)。そこには理由もあります。カナダのデジタルメディアViceによると、現地住民は作戦決行の翌日まで、一体どこに遺伝子組み換え蚊が放たれるのか知らされていなかったそうです。これはちょっと配慮に欠けると言わざるを得ません。

新種のハイブリッド蚊が生まれる恐れがある

2019年の段階でイェール大学の研究者チームは「遺伝子組み換え蚊の放出が裏目に出る恐れがある」と警告していました。彼らは、遺伝子組み換え蚊と交尾したメスが生んだ子ども(メス)のほとんどは幼虫のまま死にますが、それでも3%から4%が成虫になるまで生き残ることを突き止めたのです。

成虫になったメスが不妊だとは限りませんから、卵を産むかもしれません。するとそこから生まれた蚊は、従来どおり病気を拡散しつつ、遺伝子操作された蚊のDNAを引き継いでいるため野生の蚊よりも殺虫剤に対して耐性を持つ、超ハイブリッドな新種になる可能性があるのです。

生態系への影響も懸念される

また、実験室生まれの蚊がフロリダ諸島の生態系とどのように相互作用するか、という懸念もあります。実際、ブラジルの蚊に関するフィールド調査では、遺伝子操作された蚊の遺伝子が野生の蚊の個体群に広がっていることがわかっています。フロリダ諸島は豊かで繊細な生態系を抱えており、今回のプロジェクトによってどのような影響が及ぶのかまだ明らかになっていないため、心配の声があがっています。

先月、独立系の専門家委員会がフロリダ諸島モスキート委員会で、これらの問題について提起しました。その支持者らも、「最終的に虫たちが野生に戻るのかもしれないが」としながらも、環境保護庁に対してプロジェクトの中止を求めています。

環境保護団体フレンズ・オブ・ザ・アースの食品技術プログラムマネージャーのダナ・パールズさんは「遺伝子操作された蚊を放出することで、パンデミックさなかにあるフロリダの人々や環境、絶滅危惧種が危険にさらされる」と声明を出しています。「このプロジェクトは蚊媒介疾患への対処が急務である、ということではなく、Oxitecの利益を最大化するものだ」。

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