ロスレス、ハイレゾ、空間オーディオ。音楽を変えるかもしれない、Apple Musicアップデートを体験

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  • author 照沼健太
ロスレス、ハイレゾ、空間オーディオ。音楽を変えるかもしれない、Apple Musicアップデートを体験
Photo: 照沼健太

これによって音楽が変わるかも?

先日の「WWDC 2021」基調講演からまもなく、Apple Musicに新機能が導入されました。

それが「ロスレス」「ハイレゾロスレス」の高音質楽曲と、「ドルビーアトモスの空間オーディオ」楽曲の配信です。

実際にそれぞれを試聴した上で、各形式の違いやそこから得られる体験を紹介します。

「ロスレス」=CD音質

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Image: Shutterstock

「ロスレス」とは簡単に言えば、より少ない容量でCD音質(16bit 44.1kHz)を実現したデータのこと。

MP3やApple Musicで採用しているAACのような不可逆圧縮のデータ形式は、人間がほぼ聴くことのできない範囲の周波数を削ることでCDに限りなく近い音質を実現するのが特徴。しかし、それでもCDと同等の音質とは言えませんでした。

一般的には、MP3やAACとCDとでは、残響音による空間表現や、シンバルなどの高音域の再現性、ボーカルの息遣いにその差が出てくると言われています(ハイレゾも同様)。

そして、実際にAirPods Maxや外部スピーカーを使って従来のAACを聴き比べてみましたが、その差はハッキリとわかりました。やはり全体の空気感や、それぞれの楽器の輪郭が際立つ印象です。

ちなみにAirPods ProやMaxを含むAirPodsシリーズではBluetoothコーデックの都合で“完全なロスレス再生”はできないとされていますが「ロスレス」とそうでないデータを比べると、AirPods Maxで再生しても明らかに音質が違います。

→「ロスレス」では、CDで聴くのと同じ高音質な音楽体験が可能に

「ハイレゾロスレス」=ミュージシャンがスタジオで聴いているような高音質

そして「ハイレゾロスレス」とは、より少ない容量でCDを超える音質(24bit 48kHz、24bit 96kHz、24bit 192kHzなど)を実現したデータのこと。

一般に言われる「ハイレゾ」との違いは、「ロスレス」(可逆圧縮=元データを完全に再現できる圧縮形式)圧縮をすることで少ない容量に収めている点です。

多くの場合、実際に楽曲制作やレコーディングを行なっている際の音質と同等のクオリティーが再現されるため、ミュージシャンやエンジニアの意図に最も近い状態で音楽が楽しめると考えられます。

ただしそんな「ハイレゾロスレス」を楽しむためには注意点があります。基本的に「外部DAC」と呼ばれる機器をiPhoneやiPad、Macに接続しなければ聴くことができません。

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今回はMacにRMEの「FireFace Pro」というDACを接続し、外部モニタースピーカーのmusikelectronic geithain「RL906」で聴いてみました。

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AAC→ロスレスほどの劇的な違いはありませんが「ロスレス」と比較すると音が濃密で、(CD世代の自分からすると)「普通は聴けない高音質」という印象になります。

ただし個人的な好き嫌いとしては、ハイレゾは音の情報量が多すぎて(耳ではなく)脳が疲れる感じがするため「普段のリスニングにはロスレスくらいがちょうどいい」と思います。

おすすめは「ここぞというときに正座して聴く」スタイルですね。

→「ハイレゾロスレス」では、ミュージシャンやエンジニアとほぼ同じスタジオ品質での音楽体験が可能に

「空間オーディオ」=VR感覚のオーディオ体験

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Image: Dolby/YouTube

最後に「ドルビーアトモスの空間オーディオ」は、リスナーを中心とした仮想空間での擬似サラウンドを可能にするデータのこと。

これが実現するのは「ロスレス」や「ハイレゾロスレス」のような音質での差別化ではなく、体験の違いです。

例えばヘッドフォンで音楽を聴く場合、通常は頭の中や耳のすぐそばに音が位置するのに対し、「空間オーディオ」では自分の周りに音が配置されているかのような体感を得られます。

この「空間オーディオ」の再生には特別なハードウェアは必要とせず、iPhoneやiPad、Macといったアップル製デバイスの内蔵スピーカー、あるいはAirPods ProやAirPods Maxがあれば十分にその特性を楽しめます。

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今回、現時点で最も空間オーディオの恩恵を得られるであろうAirPods Maxを使って、いくつかの楽曲やアルバムを再生してみました。

結果、やはり体験としては「ロスレス」や「ハイレゾロスレス」よりも一目瞭然の新鮮さがあります。

正直なところ、前後の感覚や定位の高低差についてはそこまで感じられず、アップルが言うほどのサラウンド感はありませんが、これは既存楽曲を「空間オーディオ」対応させているからかも。今後「空間オーディオ」を前提としたミキシングや楽曲制作が行われれば、さらにこの機能は輝いてくるどころか、音楽の新たな可能性を広げるのではないかと思います。

ただ既存楽曲の「空間オーディオ」対応版の場合でも、各楽器の分離が良くなるため、これまでの音源では得られなかった発見がありそうです。

→「空間オーディオ」では、自分の周りでミュージシャンが演奏しているような、VR感覚の音楽体験が可能に

最も可能性を感じるのは「空間オーディオ」

以上「ロスレス」「ハイレゾロスレス」「空間オーディオ」を紹介しましたが、米ビルボードのインタビューでエディ・キューが発言しているように、本命は間違いなく「空間オーディオ」だと思います。

というのも「ロスレス」や「ハイレゾロスレス」の高音質は特別新しい体験を生むものではありませんし、iPhoneやMacBook Airの内蔵スピーカー、AirPodsといった、大半のユーザーの視聴環境では、その違いがほとんどわからないはずです。

それに対して「空間オーディオ」はアップル製デバイスを使ってさえいれば、明確に音楽体験を拡張してくれます。

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Image: Shutterstock

現状の「空間オーディオ」は、既存楽曲をサラウンド化しただけの“ギミック”っぽさは否めませんが、世界中のApple Musicユーザーがこのシステムで音楽を聴くことを考えると、ミュージシャンやエンジニアの意識を変える可能性は十分にあります。

2000年台のDVDブーム時代、ビョークがオリジナルアルバムを5.1chサラウンド対応させたり、テクノDJのリッチー・ホウティンも5.1chサラウンドでのDJミックスをリリースしたりしたことがありましたが、5.1chのサラウンドシステムを組めるリスナーは限られていたので、そうした作品が普及することはありませんでした。しかし、今回はユーザー数が文字通りケタ違いです。

実際にアップルは自社のDAW「Logic Pro」に空間オーディオ対応ツールを組み込むようですし、プロ、アマチュア両面から、音楽そのものが変わっていくかもしれません。

Photos: 照沼健太

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