クラウドストレージが枯渇ってありうる? 専門家に聞いてみた

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  • author Daniel Kolitz - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
クラウドストレージが枯渇ってありうる? 専門家に聞いてみた
Image: Benjamin Currie/Gizmodo US

そんなことあるの?と思いきや、議論百出。

15年くらい前、我々がクラウド上に持ってるデータってメールとその添付ファイルくらいで、ストレージサービスがあっても容量は100MBくらいしかありませんでした。でもその後ストレージがどんどん安くなって無料で使える容量も増え、巨大な写真とか動画みたいな重いデータも平気でクラウドに載せられるようになり、企業もいろんなデータをクラウドで管理するようになって、クラウド上のデータ量はものすごい勢いで膨張してきました。でもリアルな世界でゴミの埋立地が足りなくなっているみたいに、デジタルなストレージにも限界が来て、いつか我々の使えるスペースがなくなることがあるんでしょうか? 専門家に聞いてみました。

まず「我々」とは誰/何なのか

フランス国立科学研究センターの准研究教授でCentre for Internet and Societyの副ディレクター、Francesca Musiani氏は、統治ツールとしてのインターネットやインフラについて研究しています。そんな立場から、「我々のクラウドストレージが足りなくなるか?」という問いに答える前に、その問いを明確化することをMusiani氏は提案します。

「我々のクラウドスペースがなくなるか?」に答えるには、まず「我々」とは誰/何なのか、特定してみるといいかもしれません。

もし「我々」が地球上の人類ということなら、「我々」のスペースはなくならない可能性が高いです。これまで歴史は、保存すべきデータの量が増えるにつれて(実際とくに過去10年、膨大に増えました)、ストレージシステムの容量と効率を向上させ最適化してきました。エンジニアやテクニカルオペレーターの中での全体的コンセンサスでは、ほぼあらゆる現実的な目的で、技術的経済的要因により、予見できる将来においてストレージ空間が枯渇することはないと考えているようです(より予見しにくい将来に関しては、原子量子コンピューティングといった話をしています)。

でも「我々」が特定のIT企業やそのユーザーを指すとしたら、その答えはやや複雑です。ストレージスペースを見つけて配分することは非常に具体的かつ物理的なインフラの問題で、大手テック企業は他のプレイヤーよりもストレージの量・質を腕ずくで増強しやすい立場にあります。エンジニアのBen Podgursky氏が言ったように、「YouTubeはディスクスペースのコストに関してムーアの法則が有効である限り、猫動画をかき集められる」のです。これは引いてはデジタル生態系の不平等を加速させるかも、というか今すでにそうなのかもしれません。でもムーアの法則は、これからも有効なんでしょうか? だとしたらいつまで? 大手ネット企業もどこかの時点で選択を迫られる可能性があります。 分散型ストレージはどうなんでしょうか? ストレージ能力があり余るかに見えるこの時代でも、それが持続可能で穏当なやり方でしょうか?

ブロックチェーンは、中央集権型ストレージに比べると有利な点が多いのですが、それが穏当かというと疑問です。ブロックチェーンはすべてのノードがすべてのブロックを保存することで冗長化されていますが、それがブロックチェーン肥大化を招いているからです。より「古風」なピア・トゥ・ピアをベースとする(空いているストレージスペースとCPU能力を活用する)方法としては、残念ながら短命に終わったWualaというサービスがあり、これは興味深い試みでした。彼らは、力ずくで新たなデータセンターを作ることなく、未来のストレージを考える方法を示そうとしたのです。

最後に、CiscoのエンジニアのJ. Metz氏が指摘するように、「データを保存する場所を見つけること」より厄介な問題は、「データを見つけること」かもしれません。データ量が増え、ストレージも肥大化する中で、必要な情報を必要なときに入手し管理するための道具は、そのペースについていけるんでしょうか?

データの量より質が問題

カリフォルニア大学 電子・コンピューターエンジニアリング教授のJohn D. Villasenor氏は、ストレージ確保に関しては楽観的な見方をする一方、あふれるデータの使い方や質こそが問題だと言っています。

(ストレージが足りなくなるか、という問いに対し)短い答えは「ノー」です。もちろん、個々のディスクやデバイスやクラウドストレージアカウントがいっぱいにならないという意味ではありません。私が言っているのは、ほとんどのアプリケーションで、ストレージのコストはもはや障害ではなくなったのです。最近、「このデータは重要だけど、ストレージのコストが高すぎるから保存できない」という発言はほとんど聞かなくなりました。

10年前、私はブルッキングス研究所から、ストレージコストが数十年にわたり指数関数的に減少しているトレンドの意味を検証する論文を発表しました。この論文の論点の多くは今でもあてはまり、むしろコストのさらなる減少で当時以上に的確かもしれません。ストレージが非常に安価になったという事実は多くのメリットをもたらし、たとえば膨大な写真の保存といったことが可能になりました。でもデメリットもあり、たとえばプライバシーとの兼ね合いや、専制政府が監視データを元に膨大なデータベースを構築できる可能性といった問題があります。

昨今のデータに関する最大の課題は、その保存手段ではなく、データの質そのものです。今あるデータには、バイアス、不完全さ、ノイズ、プライバシー侵害、その他もろもろの問題だらけです。今後はこうした問題への対処が焦点となっていくべきです。

新たなストレージ技術は次々と

カリフォルニア大学のコンピューターサイエンス特別教授のLeonard Kleinrock氏は、インターネット技術の基盤となるパケット網に関する数学的理論を確立した人物です。彼は今まで多くの技術的ブレークスルーを目にし、自らもそれを牽引してきた経験から、ストレージの問題も必ず解決されるだろうと太鼓判を押しています。

デジタルストレージスペースが足りなくなることがあるか? ほぼありえません!

データ・ストレージへの将来の需要はたしかに圧倒的です。我々は、現在の既存ストレージ技術で保存できるよりも速いペースでデータを作り出しています(2025年までには、観測可能な宇宙にある星の数より多くのバイト数を1年で作り出すようになると予測されています)。なのでデータの保存方法を劇的に変える必要があるのは明らかです。

でも我々は今まで、そうした課題が何度も解決されていくのを何十年と見てきたし、それを続けられるかどうか疑う理由もありません。我々はここ数十年、データ処理速度や通信帯域、そしてデジタルストレージに関し、基礎技術の成長の速さにつねに驚かされてきました。熱意と課題を持った科学者とエンジニアの創意工夫とイノベーション、そして創造力によって、この魔法のショーは続いていくことでしょう。なのでデータストレージへのニーズが膨大に増えていっても、それに対する解決策のポテンシャルを見くびることはありません

今すでに、将来のストレージ需要に応えられそうな技術がいくつもあり、それぞれが対応すべき課題を表しています。ほかにもまだ見ぬ技術や解決策が期待できるし、データ圧縮技術の進化による効率化もあることでしょう。

興味深い技術のひとつに、単分子磁石を使うものがあります。新素材(遷移金属など)でできた単分子磁石が、磁場を使って磁性を帯びるとき、磁場が除去されても磁性だけが残ります。遷移金属は、スピンクロスオーバー(電子のスピンを、上向きから下向きへ、またはその逆へと変化させること)のような切り替え可能な磁力を持ち、その変化をある程度の時間維持できます。つまり各分子が1ビットの情報を持つことができるので、膨大なストレージ密度になります。これを巨大なストレージ(1平方インチあたり数百テラバイト)として実現するには、超えるべきハードルが数多くあります。たとえば分子を製造するための超空冷技術や、メモリ保持時間が秒単位でしかないこと、隣接する磁石同士の干渉といった問題です。

別の技術では、フェムトセカンドレーザー(1000超分の1秒単位のレーザー)を使って数百テラバイトのデータをナノ構造のクォーツガラスディスクに刻み込みます。ディスクは数千年どころか数十億年持つかもしれません。この技術は今は読み書きに時間がかかりますが、超冷却は不要だし、ディスクは非常に高い温度にも耐えられます。

自然が作り出したDNAストレージも、未来のデータストレージ候補です。はるか昔、自然は膨大な情報を、生命体の構成要素・DNAという形で安全に保存する方法を編み出したのです。現在、一部の生物学者や化学者、情報技術者たちが、データ(言葉や画像、音楽など)を人工的に作り出したポリマーにコーディングできることを示しています。そのポリマーはDNAのベースとなる4つのペア、すなわちA、C、G、T(核酸のアデニン、シトシン、グアニン、チミン)を使っています。

DNAによって可能になるストレージ密度は、どんな電子機器よりもはるかに高くなります。1グラムのDNAには、ゼタバイト(10の21乗バイト)級のデータが詰まっています。この密度がどれだけすごいかというと、人間が記録できたデータすべてを、靴の箱数個分のDNAで収納できるんです。それにDNAデータセンターを動かすためのエネルギー要件は比較的小さくて済みます。DNAストレージは数千年維持でき、ハッキングからも強力に守れます。つまり人工ポリマーDNAの利点は、巨大な容量、非常に小さなサイズ、頑丈で長持ち、所要エネルギーの少なさ、超空冷が不要、高いセキュリティといったことです。これらの利点を打ち消しているのは、DNAに化学的に読み書きすることのコストが高すぎること、運用スピードが遅すぎることです。

というわけで、データストレージ需要を解決するであろう楽しみな候補はすでにあるんです。これから先新たな障害が出てきても、未知の解決策が提示されることでしょう。

需要は人類の創意とともに伸びる

ハーバードビジネススクール 経営学教授兼HBS Digital Initiative コチェアのShane Greenstein氏は、ストレージは足りているように見えても、その使い道も急速に広がっていると指摘します。そしてそのこと自体は、決して悪いことではないようです。

ストレージがなくなることなんてあるでしょうか? そんなこと、ありそうには見えません。超大規模データセンターがひとつあれば、そこに数十万台のサーバを収容しています。それだけで、人類が取りまとめた書物の中で3番めに大きな集合体であるWikipedia(ちなみに1番め、2番めは米国議会図書館と大英図書館)を収めるのに十分なスペースです。つまりストレージは尽きることがなく、足りなくなるような事態は地平線の彼方にあって、社会は決してそこにたどり着かないだろう…と示されています。

でもそんなことありません。新たな使い方が次々と現れ、需要が供給の消化を促します。最も興味深い質問はおそらく、需要の成長が止まるかということです。私は少なくともこの先20〜30年ほどは需要増が止まらないと思っていて、理由はふたつあります。ひとつはインターネットのエッジがそれを必要としていること、そして人間の創意工夫は新たな用途をまだまだ出し尽くしていないことです。

まずエッジについて考えましょう。ボトルネックの存在は無限のリソースを有限にしてしまいますが、どんなシステムにも必ずひとつはボトルネックがあります。そして、インターネットにはそれがたくさんあります。マンハッタンの5番街下の地下鉄に乗っているWebサーファーは、遅延なく記事を読みたいと思っています。そのためにはすべての関係する部分が最速で動く必要があります。速い回線、複数のアンテナ、コンテンツのキャッシュ、そしてシステムのエッジにはより多くのストレージ。動画がより良く大きくなるにつれて、コンテンツのデータ密度は上がり続け、そのため配信は遅くなり、パフォーマンスは劣化します。Wikipediaは、彼らの運営がボトルネックにならないように寄付を必要としています。より見えにくいところでは、データのキャリアは利用者を求めていて、それによる売上の一部はシステムのアップグレード、そしてエッジのストレージにあてられます。それはあなたのスマートフォンに、サーバーに、そしてコンテンツデリバリーネットワークに向けられます。言い換えれば、現代のインターネットには、より多くのストレージ利用を促進するような市場メカニズムが含まれているのです。

ストレージが安価になるにつれ、人間の創意はそれを活用するより賢い方法を見つけてきました。それにより、去年の最先端は今年のルーティーンになっていきます。赤ちゃんや猫の動画、ファッションやゴシップ情報をどんどん送ることが物珍しかった時代もありました。あと数年で、自動運転車は、システムができることすべてをこなすようになるでしょう。そういった創意がどこで止まるのか、誰も予測していません。ある研究チームがブラックホール周辺の岩屑の可視化表現を作り出したのですが、そのために収集したデータは大きすぎてネット経由で送れず、いくつものディスクを物理的に郵送せざるをえませんでした。それでもまだブラックホールの周りを見ただけで、その底には近づいてもいません。その前例でどこかの賢い発明家がインスパイアされて、可視化表現の限界を押し広げるような地球上の物体を見つけるかもしれませんね。そうすれば我々はみんなその絵を見て驚嘆することでしょう。

技術より倫理の問題

ウェストミンスター大学 メディアとコミュニケーション研究教授で『Social Media: A Critical Introduction』の著者、Christian Fuchs氏は、ストレージが枯渇しないとしても、そもそもそんな心配をするほど大量のデータが貯まっていく社会への疑問を投げかけます。

我々は単なるデータ/デジタル社会に生きているわけではありません。我々の社会はビッグデータ資本主義の中、デジタル資本主義の下にあります。この社会体制では、企業と政治の権力が人間についてなるべく多くのデータを保存しようとし、それによって人間の生活を収益化し利益をあげ、市民権を売り物にするのです。データとデジタルの資本主義が無制限に続いて、コンピューティングに必要な非再生資源を使い果たすとしたら、どこかの時点でコンピューティングやストレージ機器のための物理的資源が枯渇するかもしれません。でもムーアの法則でデータストレージは安くなっていくし、量子コンピューティングのような新たな形態の探索もあるしで、そういった制約を緩和するはずです。それによって新形態のデータ/デジタル資本主義がストレージの限界を克服することになるかもしれません。

ただ重要な問題は技術的なものではなく、倫理的・政治的なものです。つまり、我々は生活のほぼあらゆる面について、底なしのストレージを求めているのか?ということです。我々の思考や活動をどんどんマネタイズし売り物にするような社会の行き着く先とその影響はどんなものでしょうか?

非常に危険なのは、デジタル資本主義はデジタル独裁制、デジタルファシズムにつながることです。それを解決するには、保存されるデータ量を、コンピューターと社会の運営に必要な最低限に抑えるべきです。デジタルファシズムの台頭を回避するためには、デジタル資本主義でなく、デジタル民主主義が必要なのです。

パンドラの箱は開いてしまった

ジョージ・メイソン大学 コンピューターサイエンス准教授のEric Osterweil氏は、人間が意味を取り出せるデータの保存が大事だとしつつ、誰もが必ずしも無制限の保存を望んではいないことを指摘します。

私は、捕捉、保存、または保管ができないほどのペースでデータを作り出すことは可能だと思います。たとえば、CERNのLHC(大型ハドロン衝突型加速器)が実験で作り出すデータを見てください。我々が大事にしたいのは、我々(の生活や調査、ビジネス上の利益)に関係する意味を読み取るために使えるデータを保存することですよね。

私がこうして分けて考えるのは、私たちが真にやっているのは、意味を取り出せるデータを保存することだと思っているからです。我々はよく、加工したデータ(要約された、またはよりコンパクトな、またはより多くの意味を持つ、集計結果や表現)を保存しています。これはたいてい、我々がどんなデータ表現が必要か、または望ましいかを推測しているということです。

私たちはストレージ容量を増やそうとし、より細かいデータを記録しようとする一方で、デジタルな足跡が負担になりうることを今も学びつつあります。私は(データを分析する)サイバーセキュリティ研究者として、人間は自分がオンラインで残す足跡は時間が経っても消え去らないことをつねに学びつつあると思います。さらに我々のコミュニティのデータ分析手法(ビッグデータ、機械学習・人工知能、など)はより深い知見をもたらし、データはよりリッチにつながりはじめました。この質問を逆にしてみたいと思います。つまり、我々は自分たちの足跡を薄れさせるために、ストレージに枯渇してほしいと思うときが来るでしょうか? そのとき問題は、我々はすでに何十年もオンラインで情報を共有しているので、もはやパンドラの箱は開いてしまったのではないか、ということです。

潤沢なストレージはお金持ちのもの?

アルスター大学のサイバーセキュリティ教授で同大学Legal Innovation Centreのコエグゼクティブディレクターを務めるKevin Curran氏は、最近のチップ不足も念頭に、「お金持ちだけがデータを保存できる」社会がありうると警告しています。

デジタルデータはすべてハードドライブに保存されます。ハードドライブの容量は他の技術同様に信じられないほど進歩しました。大きな変化は、回転するドライブから、動く部品のないソリッドステートドライブになったことと、ディスク容量が大きく向上したことです。興味深いことに、新型コロナの影響もあって、我々は今初めて「チップ不足でプロダクト生産が遅れる」という経験をしています。チップもハードドライブの部品であり、これからもしハードドライブのコア部品不足が起これば、デジタルストレージスペースが枯渇することもありえます。それでも、既存のハードドライブをリサイクルして、古いファイルを上書きすることは可能です。そうすれば問題の一部を軽減できるかもしれませんが、もちろん大手ネット企業は十分なストレージスペースの確保に苦労するかもしれません。経済原則が物を言い、デジタルストレージ価格が劇的に上昇して、お金持ちだけがデータを保存できるようになる可能性もあります。


そんなわけで、クラウドストレージが枯渇することはありうるか?と一口に言っても、いろんな考え方があり、技術だけの問題じゃなさそうです。最近iCloudの容量が足りなくなって、データを減らせないか検討したり、外付けSSDを買ったりした訳者としては、「お金がなければデータを保存できない」状況は近未来のディストピアというよりリアルな現状だと感じます。かといってデジタル資本主義に異を唱えてクラウド使わないってわけにもいかないですしね…。いちユーザーとしては、いつか量子コンピューターやDNAストレージの新技術でストレージ価格がますます下がって、一生分の写真・動画程度なら最安プランでも余裕、みたいな未来を妄想するばかりです。

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