無慈悲すぎ? 残虐ゲームの金字塔を映画化 『モータルコンバット』レビュー【ネタバレ含】

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  • author 中川真知子
無慈悲すぎ? 残虐ゲームの金字塔を映画化 『モータルコンバット』レビュー【ネタバレ含】
Image: © 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All

FINISH HIM!

残虐すぎて現在日本未発売のゲーム」の映画化。これだけでつかみはオッケーでしょう。

日本人の倫理観にはそぐわないとされるグロさや残虐さが詰め込まれた作品の名前は、『モータルコンバット』。容赦ない人体破壊で対戦相手にトドメを刺す「フェイタリティ」が人気の、対戦型格闘ゲームです。これが巨大スクリーンで楽しめるなんて、期待しないはずがありませんよね。

「フェイタリティ」の中でも有名な技は、「脊髄頭部引っこ抜き」で、他にも「死者の尊厳? 何それ美味しいの? 」レベルのアクションが次々と炸裂します。スポーツマンシップや、死者への尊厳なんてものは、『モータルコンバット』における勝利の前には存在しないものなんですね。

こんな作品を映画化なんてできるのでしょうか?* するとしたら、女性を逆さ吊りにして縦半分に切断する正統派スラッシャーホラーの『テリファー』を超える映像になるに違いありません。トレイラーには、通常版と過激な描写を含む「レッドバンド版」が存在し、レーティングだってR15+。公開前からヤバい匂いがぷんぷんしていました。

*1995年に映画化されていますが、その時は「フェイタリティ」非採用でした。本作は旧劇場版のリブートにあたります。

では、実際にどんな映画だったのでしょう? ホラー映画が三度の飯より好きな筆者から、とても上から目線で言わせてもらうなら、「結構なお手前で」でした。

というわけで、ここから先は内容に触れていくことになります。未見の方はUターンでよろしく。

Video: ワーナー ブラザース / YouTube

未プレイ者にもコアなファンにも

『モータルコンバット』

日本における『モーコン』プレイヤーの数は決して多くありません。一部のコアなゲームファンや、「フェイタリティ」目当てのスラッシャー描写ファン(筆者のような)が盛り上がっていますが、海外における『モーコン』フィーバーと比較すれば、無名と言っても差し支えないレベルかも。

つまり何が言いたいのかというと、映画『モータルコンバット』は、ゲームを知らない人が大多数であることを前提として物語を展開させていて、未プレイの人が見てもしっかり楽しめて、内容を理解できるようになっているのです(だから安心して劇場へGO)。

ストーリーを引っ張っていくのは、映画オリジナルキャラコール・ヤング。彼は、格闘技で日銭を稼ぎながら家族を養っています。彼の胸には、生まれた時からドラゴンの形をしたアザがありますが、その由来は知りません。

そんなコールの前に、魔界からの刺客サブ・ゼロが現れます。氷を操り、圧倒的な強さを見せつけるサブ・ゼロを前に、コールは絶体絶命。しかし危機一髪、特殊部隊少佐ジャックスが助けに入ります。ドラゴンのアザの秘密を知るジャックスは、「ソニア・ブレイドに会いにいけ。」とコールに告げ、サブ・ゼロの餌食に…。かくして、ソニアと合流したコールは、運命に導かれるように戦いの世界に足を踏み入れていくことになります。

観客は、コール・ヤングというキャラクターを通して、人間界と魔界が世界を賭けた「禁断の死闘」を何世代にもわたって繰り広げていたことや、ゲームファンから絶大な支持を集めるキャラクターたちの設定などを学ぶわけです。『モーコン』初心者に優しい設定ですね。

もちろん、コアなファンへの忠誠心も忘れていません。

「ファンはこのゲームに多くの時間とお金を費やし、注目もしている。登場人物にも気持ちがこもっているんだ。大好きなゲームのことなら、隅々まで知り尽くしている。そして、スクリーンライターたちは、そのことを念頭に置いて尊重しつつ、新しい観客のことを考慮していった。」

マッコイド監督はこのようにインタビューで話しています。

それに、原案と脚本を担当したひとりであるグレッグ・ルッソは、『モータルコンバット』をもっともハマったゲームのひとつと言い、子どもの頃は『モータルコンバット』の絵や物語を構想していた筋金入りのファン。家庭用ゲームを全種類コンプリートし、ゲームセンターに何時間も入り浸っていたルッソが、同志である『モーコン』ファンを裏切るはずがありません。

つまり、筆者のような未プレイ者も、コアなファンも納得するような仕上がりになっているわけです。

「フェイタリティ」は思ったより血が足りない

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しかし、「フェイタリティ」を期待して劇場に足を運んだ人は、少しがっかりすることでしょう。

というのも、そんなにグロくないんです。いや、『モータルコンバット』を知らない人がみたら、「グロすぎる! 」となるかもしれません。現に、私の友人は「あんなに血だらけ肉だらけなんて知らなかった! 」と驚いていました。

しかし、ゲームに慣れ親しんでいる人にとっては、映画版の「フェイタリティ」は生ぬるく半分も描写されていないと感じるはず。脊髄は? 脳みそは? 飛び散る肉片は?

でも、それはトーナメントをしていないからかもしれません。

今回の物語は、トーナメント直前の、魔界側が地球側を出し抜こうとする部分に焦点をあてているんです。つまり、戦いの火蓋は切って落とされたばかり。本番はこれからなんです。

それを裏付けるように、サブ・ゼロ役のジョー・タスリムはこの先5本の契約をワーナーブラザーズと結んだとScreen Rantは報じています。本格的な「フェイタリティ」はこれから楽しめる可能性が高いと言えるんですね。

浮世離れした設定とリアルなロケーション

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表現を抑えた「フェイタリティ」に多少の消化不良を感じることは否めませんが、映画『モータルコンバット』は面白く、ダークファンタジーな内容にも関わらず、地に足ついた作品になっていると感じました。

まず、魔界という厨二病な設定でありながら、CG背景やグリーンスクリーンではなく南オーストラリアのアデレードでロケをされています。

具体的な場所はというと、アデレードから 112 キロ離れたブラック・ヒルという町にある黒花崗岩の採石場ブラック・ヒル・クウォリ。その場所を、マッコイド監督は次のように話しています。

「閉鎖された炭鉱の底で魔界を撮影した。そこは真っ黒で壮観だった。 炭鉱の底で撮影しようなんて誰も思わないけど、高性能のウルトラビスタレンズを携えて降りて行き、 衣装をまとったすばらしい俳優たちがこの現実離れしたロケ地に立った途端、そこは別世界になるんだ。」

映画を見ればわかるとおり、浮世離れした禍々しさを漂わせる風景は、VFXで作り込んだ別世界のようです。

「このロケ地を使うにあたり 苦労したことのひとつは、セットだと感じさせないようにすることだった。あまりにも絶妙な位置に完 璧につくられていたからね。場所自体が、格闘シーンの幻想的な背景をつくり出していたんだ」

というのは、ロケーション統括マネジャーのジェイコブ・マッキンタイア。

彼は、自然が作り出した完璧な「魔界」をできる限りセット見にえないように工夫する必要があったようです。

ソニア・ブレイドのトレーラーハウスも、ロケーション撮影。コールがソニアを求めてやってきたあの場所は、アデレードのポート・リバーに浮かぶガーデンアイランドにある世界最大級規模の船の墓場なんだとか。

本物の格闘家が見せるリアルなアクション

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地に足がついているのはロケーションに限らず、格闘シーンにも通じます。特に、冒頭のハサシ・ハンゾウ役の真田広之と、ビ・ハン役のジョー・タスリムの戦いは、共に格闘技を修めているだけあって迫力満点。

真田広之は、約2週間という短い準備期間で、スタントコーディネーターのカイル・ガーディナーが考えた「35手の打撃」を体に叩き込んだそう。

『モータルコンバット』の舞台裏映像によると、インドネシアの柔道チームで15年間特訓してきたジョー・タスリムの動きが速すぎるため、「もう少し遅くして欲しい。」とのリクエストがあったほどだとか。

タスリムは、格闘技シラットを世に知らしめたインドネシアの格闘映画『ザ・レイド』にも出演しています。あの作品の凄まじさを知っている人は、タスリムのスキルにピンとくるはず。

コール・ヤング役のルイス・タンは、著名なアクション監督/スタントコーディネーターであるフィリップ・タンの息子です。父親仕込みの格闘技で、アクションシーケンスは自分で演じることで知られています。

クン・ラオ役のマックス・ファンは、フィルムメーカーであり武術家。ジャッキー・チェン・スタントチームで、スタ ントパフォーマー/スタントコーディネーターとしてキャリアをスタートさせています。

リアルの追求によって選ばれたロケーションの数々と、確かな腕を持つキャスト。どのファイティングシーンをとっても、見応えが十分なのは容易に想像がつくと思います。

ただ、このリアルさが残念なことを引き起こしているのも事実。というのも、フルCGのゴローのビジュアル浮きまくっているんです。

VFX技術が成熟したとされる今、ハリウッドの大作で周囲に馴染んでいないクリーチャーはあまりお目にかかることがありません。しかし、本作では、巨体に4本手のクリーチャー、ゴローが悪目立ちしてしまっているんですね。コールの人生を左右する重要なシーンを背負ったキャラクターだけに、注目せざる追えなく、気になって仕方がありません。

作り込んでいるように見えて実はリアルという、計算と幸運の重なりを見続けてきただけに、ゴローだけが異様に浮いて見えるという皮肉が発生してしまったようでした。

とはいえ、この手の作品は、頭を空にして現実逃避できる2時間をプレゼントしてくれる、純粋な娯楽作品。ゴチャゴチャと説明しようとするのは無粋というもの(目が光る浅野忠信が見れるだけで価値がありますし)。

ゲームの映画化という点では、未プレイ者の筆者も置いてきぼりを喰らうこともなく、ファン歴の長い知人も満足できるだろう非常にバランスの良い作品だったと思います。個人的には、今後作られていくであろう続編の「フェイタリティ」を含めて、評価したいです。

そんなわけで、世界的話題作ですし、迷ったら劇場へGO! することをオススメしますよ。

モータルコンバット』は6 月 18日(金)全国公開。

© 2021 Warner Bros. Entertainment Inc. All 配給:ワーナー・ブラザース映画

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