五輪で一番ハードな種目は何? 専門家に聞いてみたよ

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五輪で一番ハードな種目は何? 専門家に聞いてみたよ
Illustration: Elena Scotti - Gizmodo US (Getty Images)

ゴロゴロ寝っ転がって出場できるほどオリンピックは甘くない!

「〇〇は比較的ラクな種目」とか座職のライターに書かれたら、「おまえみたいな身体のできてないやつに言われたくないわ!」って自分だってムカつくと思います。でも、超人的な身体能力と精神力が要求される全五輪種目のなかでも負荷の大小はあるのでは? ということで、今週のGiz Asksでは全種目ハードだという前提で、一番身体に堪える種目を有識者の皆さまに選んでもらいました。


Matt Bowers

テキサス大学オースティン准教授、スポーツ&マネジメントの指導が専門

東京五輪開催直前(取材時点)なので、冬季五輪種目や東京大会に入っていない種目(アメリカンフットボール、ポロ、クリケット、スカッシュ)は割愛すると、残る候補は33種目。近年大会の常連種目(陸上、水泳、自転車、フェンシング、体操)もあれば、今大会初参加の種目(空手、スケートボード、スポーツクライミング、サーフィン)もある。

33種目に絞ると、いろいろ面白いことに気づく。

ベン図(Venn Diagram)でハードなスポーツに要求されるふたつの基本条件(体力とスキル/鋭敏な動き)を円で描いて重ねると、そのふたつを備えたハードなスポーツがわかる。33種目のうち片側の条件しか満たさない種目は果たしてあるのか? 五輪種目はそれぞれ高度なスキルが要求されるので、最初は体力の要求度を目安に絞り込んでいくのがいいだろう。となるとアーチェリーや乗馬は除外される。

次に考えなければならないのは、個人プレイの方がチームプレイより精神的にハードかもしれないという点だ。これは反対意見もあると思うが、仮にそうだとするとチームプレイは除外される。

もうひとつの論点は、自然との戦い(カヤック、セーリング)と野外コース(自転車、ゴルフ、スケートボード)と人間との戦いを比べた場合、どれが一番ハードかという点だが、仮に人間相手の戦いが一番しんどいとすると、体力勝負な人間相手の個人競技というカテゴリに絞られる。つまりボクシング、フェンシング、柔道、空手、卓球 シングルス、テコンドー、テニス シングルス、レスリング。

このうち卓球とテニスはボディコンタクトがないので除外する。すると太古から続く取っ組み合い競技が残る。防護具のあるフェンシングも除外すると残りはボクシング、武道のひとつ、あるいはレスリングだ。

最後に比べるのはそれぞれの試合時間だが、ざっと計算してみると、3分×最大3ラウンドのボクシングが最長だ。

つまりボクシングが一番ハードな種目なのか? 上記のアプローチではそうなるが、見落としたり見誤ったところもあるかもしれない。同等サイズの人間の拳で9分間殴られるのと、10km泳ぐのと(マラソンスイミング)、トライアスロンで死闘を繰り広げるのと、だれかに引きずり回されながら水に浮いてゴールを決めるのと(ウォーターポロ)どれが一番ハードなのか? こればかりは条件を統一したラボで比べようがない。不確定要素だらけ。だから面白いのだ。スポーツの祭典として楽しむしかないでしょ。USA!USA!


Timothy Baghurst

フロリダ州立大学教育学部教授兼コーチ、 FSU COACH(同大コーチ養成センター)所長

どのオリンピック種目が一番ハードか。これはそもそも要求されるものが違うので、正答のない命題だろうね。たとえばアーチェリーは、手と目の驚異的なコーディネーションが要求される。しかも風速、風向きなど外的要因にも素早く順応しなければならないし、アーチャーは己の心拍数までをもコントロールできてしまうのはよく知られた話だ。動きが静止する鼓動と鼓動の谷間に矢を放つのだ。これをフィギュアスケートと比べてみる。あれもパワー、バランス、限られた空間のなかで一分の狂いもなく意識的に体を動かすハードな競技だ。このように要求されるものが違うので、比べようがないというのが正直なところだ。

その前提で個人的意見を述べさせていただくと、一番厳しいオリンピック種目は多種目競技だと感じている。特に一番難しいのはデカスロン(十種競技・男子)とへプタスロン(七種競技・女子)だ。あれは普通に鍛えてもダメなのだ。たとえば100mやり投げでは高度な技術とともに圧倒的パワーが要求されるが、1,500m走では中距離のスタミナが要求されるという具合でまるでベクトルが違う。だからアスリートは瞬発的パワーと持久力を同時に鍛えなければならない。パワーには筋肉が要る。だが筋肉がつきすぎると持久力が落ちる。そういう難しさがある。

そのうえ競技は2日間続く。1回まぐれで戦績を上げるだけでは勝てない。食事、休憩、メンタルを高めること、疲労回復など、すべてタイミングを考えて毎回ベストなコンディションで臨まなければならない。精神力と体力もハード極まりないし、個人的には一番マスターしにくい種目だと思う。


Lisa Delpy Neirotti

ジョージワシントン大学スポーツ経営学准教授、スポーツ経営修士課程学部長

体操。代表チームに選ばれるためには平均台、 段違い平行棒、床、跳馬の最低4種目をマスターしなければならず、それぞれ異なるスキルセットが要求される。床はアート/ダンス技能、平均台は極限の集中力。台上で一瞬でも集中が途切れると終わりで、あの平均台は幅10cmしかない。チーム競技に比べ、体操競技はミスが許される余地があまりにも少ない。また、4種目ごとに練習ルーティンも使う筋肉も違う。

シンクロナイズドスイミングもいい勝負。全部水中でやるのだから、息を止めて…。あれは傍から見るほどラクじゃないはず。


Megan Matthews Buning

フロリダ州立大学コーチ養成センター教育スペシャリスト

どのオリンピック種目も一番ハードだって議論は成り立つが、ここでは今の夏季大会参加種目に絞って、1)選手の年齢、2)体力&精神/心に及ぼすストレスを評価してみた。そうやって考えると、一番ハードなのは体操かと思う。

オリンピック選手のなかでも体操選手は年少だとよく言われる。幼いほど心も体も準備はハードだ。さらに体操は衝撃との戦いで、耐えず体に衝撃がかかる。どのスポーツも最後は何インチの差で勝敗が決まるが、体操はミリ単位の勝負だ。着地がずれたり、棒を少し掴み損ねるだけでも、選手生命を永久に葬り去るケガが口を開けて待っている。体操選手には柔軟で敏捷かつ強靭な体も要求される。体を意のままコントロールできなければならない。多大な修練なくしてその境地には辿り着けない。

精神面に関しても、失敗の恐怖が常につきまとい、体操選手を自滅に導く。失敗を恐れるとためらいが生じるものだが、一瞬のためらいが命取りになるのが体操選手の世界なのだ。

外部に振り回されないのは事実だし、その分ほかのチーム競技より「気楽」と言えなくもないが、裏を返せば、プレッシャーがすべて選手ひとりの肩にのしかかるということだ。ソフトボール球場のピッチャーならチームみんなで励ますこともできるので、そういう意味でもやっぱり体操かな。


Jim Johnson

スミス大学スポーツ学部名誉教授、人体パフォーマンス研究所元所長

咄嗟に浮かんだのは2種目。ボート2,000mレースとデカスロン1,500m走だ。

本気でキツいスポーツというからには、無酸素性代謝(筋肉のエネルギー消費に酸素が追いつかなくなり、血中の乳酸が急増すること)が体にモロに出ないといけない。その点、このふたつはどちらも乳酸生成量が半端ない。レース後は血中の乳酸が高くて、気持ち悪くなるほどだ。

あとデカスロン1,500m走に関しては、誰もあまりトレーニング積んでこないのもハードな理由だ。残り9種目は100m走、棒高跳び、砲丸投げ、円盤投げ、槍投げなど、せいぜい数秒もあれば終わる。だからデカスリートは、中距離のトレーニングはあまりやらない。両方欲張ってもトレーニング不足になってしまうからね。みんなゴールでばたばた倒れるのは、まあ、そういうこと。


Amy B. Bass

マンハッタンビレッジ大学スポーツ学教授、社会学&コミュニケーション学部長

何をもってハードと見なすかには個人差があるので一概には答えられない。訓練がハードな種目を指すなら、デカスロン、ヘプタスロン、体操だろうし、超絶精度が要求される種目を指すならアーチェリーかな。あんな遠い的によく当たるもんだと見るたびに目が点になる。真ん中に当たるなんて想像もできない。裸眼で全然見えない距離で金銀争いするんだからなあ。

見るたびに愕然とするのは棒高跳びとハードルも同じで、400mハードルは過酷なんてもんじゃないだろう(ゴールで吐く選手もいる。短距離のピッチで中距離走るんだからクレイジーだ。ペース配分も何もない)。

ただまあ、いろんな人の意見を総合すると一番ハードな種目は水球に落ち着きそうだ。アトランタ五輪で見るまで水球は一度も見たことなかったけど、ひと目で虜になった。どのチームもホッケー、ラクロス、サッカー的なプレイをこなしながら、水面下ではフットボール級の激闘があって(水中カメラで見てごらん)、それやりながら1試合に何マイルも立ち泳ぎするんだから、初めて見たときにはスポーツってレベルじゃねえわと思った。あれも競技種目なんだよね。最高。

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