アンチGAFA法案と言ってもいいかも。
2年の調査、議場でのディベート30時間を経て、先日、下院法務委員会は6つの法案を可決しました。この6つの法案は反トラスト法(日本における独占禁止法のような法)に関連するもので、このまま法案が法律化されると、GAFA始め巨大テック企業にはキツイ向かい風となります。
民主党・共和党の2党間でIT企業に対する規制を強化すべきという意見が高まり、法案が可決される一方で、ディベートではそれに反対する声もあがりました。反対派として注目を集めるジム・ジョーダン議員が法案可決はあまりに急進的だと意見したり、一部の民主党議員は法案のデータプライバシについて不安要素があると指摘したりと、2党内部でそれぞれ意見は割れています。反対・懸念派は、法案の内容があまりに幅広く、中小テック企業に意図せぬ影響を与えかねないと心配しているようです。
もちろん、影響が大きいGAFAは、みんなそろって法案には反対しており、今後企業のロビー活動が盛んになることは間違いないかと。
賛成・反対意見はあるものの、今回、下院法務委員会が可決した6つの法案の内容を見ていきましょう。
オンラインでの選択肢&イノベーション法案
(American Choice and Innovation Online Act)
反トラスト小委員会トップのDavid Cicilline氏と共和党議員Lance Gooden氏による共同提案。
簡単に言うと、自社のプラットフォーム上で、自社製品をライバル他社の製品よりもひいきさせないようにする法案。これで大きな影響を受けるのは…もちろんAmazonですね。過去に、商品検索結果で自社ブランドを明らかにえこひいきした案件は何度もありますから。
Googleのデジタル広告にも影響あり。すでに調査中案件なのですが、Google検索結果において自社サービスをトップに持ってくるのがひっかかります。例えば、ユーザーが旅行するとして、検索結果に当然のようにGoogle FlightsやGoogle Hotelsをトップにもってくるのは(法案が通れば)NG。Expediaなどの旅行サイトや、航空会社をGoogle旅行サービスと同並びで扱わねばならなくなります。
加えて、これらのプラットフォームが自社利益のために非公開データから情報をとるのも禁止。(Amazonがサードパーティ出店者のデータを応用して、自社ブランドでライバルとなる製品を作ったことが以前問題になりました)これに違反すると、米国内での収益の15%から30%を罰金として支払う必要があります。
プラットフォームの競争&機会法案
(Platform Competition and Opportunity Act)
民主党のHakeem Jeffries氏と共和党Ken Buck氏による共同提案。
米国での月間アクティブユーザー数が5000万を超えるプラットフォームが、ライバル企業の株を1/4以上保有するのを禁止する法案。AU数5000万超は、もちろんGAFAの4つは当てはまっています。ライバル企業を買収するのを抑止するのが狙い。
打撃を喰らうわかりやすい例がFacebook。今まで多くのライバル(類似)サービス・アプリを模倣・買収で潰してきました。昨年12月には、すでに連邦取引委員会が、Instagram(2012年買収)&WhatsApp(2014年買収)に関して反トラスト法違反であるとしてFacebookを提訴しています。
プラットフォーム独占を終わらせるための法案
(Ending Platform Monopolies Act)
Pramila Jayapal議員とLance Gooden議員の裁定による提案。
21対20で法案可決となった、今回可決された6つの中ではもっとも意見が分かれプラットフォームの独占を違法とする法案。法律化されれば、例えばAmazonは、Amazonプラットフォーム上で自社ブランド製品を販売できなくなります。Appleは、Pages・Keynote・NumbersなどiPhoneにプリインストールされているアプリを、本体(Apple本社)から切り離さねばならなくなる可能性も。AppleについてはApp Store事業そのものをApple本体から切り離すべきだという意見もあります。
なぜこの法案で意見が大きく割れたかというと、一部の法律家たちが、巨大テック企業同志の競争も禁止しかねないと意見したからです。AppleはGoogleと競争するための検索エンジンの開発ができなくなるし、GoogleはYouTubeをスピンオフ化させることでNetflixと競えなくなってしまうという懸念があるわけです。つまり、見ようによっては一部のIT企業を抑止する一方で、他の(ライバルの)IT企業を不本意に援助することになってしまうのではということ。
法案の内容がそもそもざっくり広すぎるという指摘もあるので、どの企業がどの分野をどう切り離すべきなのかの細かい判断は、連邦取引委員会に委ねられることになるのかと。
サービス変更による互換性と競争の拡大に関する法案
(Augmenting Compatibility and Competition by Enabling Service Switching Act 略して ACCESS Act)
Mary Scanlon議員とBurgess Owens議員による共同提案。
FacebookやYouTubeなどのプラットフォームの利用者にたいして、個人データの取り扱いに対してより透明性と管理権を与えることが目的。一定規模以上のプラットフォームに対して、ユーザーが退会するさいには一部・またはすべてのデータを持ち出せるようにすること、ユーザーが希望すれば別のプラットフォーム(乗り換え先の別サービス)へのデータ移行への依頼を可能にすることが法案に盛り込まれています。
また、サービス上でのコミュニケーション(チャットやメッセ)は退会後も継続できるようにするというのも含まれています。つまり、Facebook退会しても、Facebok上で友達だった人とは(アカウント復活せずとも)引き続き連絡はとれるということなのですが、これをどうやるのか、どうデータを扱うのかなど詳しいところまでは現段階ではあいまいなまま。
電子フロンティア財団は、この法案を、巨大テック企業が個人のデータを保持するのを防ぐための大きな一歩として高く評価しています。一方で、2サービス間でデータを移動させることによるリスクも懸念しており、何らかの対策も必要になるのかと。
反トラスト法執行における州変更に関する法案
(State Antitrust Enforcement Venue Act)
Ken Buck議員による指揮取りで提案。
反トラスト法関連の裁判執行を、自分(企業)の都合のいい州に移動させることを禁じる法案。
これは、Googleが使おうとしては失敗しているやり口なのですが、テキサス州司法長官管轄の大規模案件を、自身のお膝元であるカリフォルニア州へ移送させることで、有利な判断をしてもらう、または裁判の進行を遅らせようとする小技です。法案が可決されれば、そもそもこの小技が使えなくなります。
買収申請手数料の改定法案
(Merger Filing Fee Modernization Act)
Joe Neguse議員とVictoria Spartz議員による共同提案。
その名の通り、企業買収・合併時の申請手数料を改定(値上げ)する法案。現在、2社のマージ(買収・合併)が約9億2000万ドル以上の場合、連邦取引委員会に申請手数料として28万ドルを支払うのが決まりですが、これを法案によって引き上げたい考え。
法案が可決されると、手数料は、10億から20億ドルクラスが40万ドル、20億超えから50億ドルが80万ドル、50億ドル超えの場合は225万ドルとなります。