新型コロナウイルス、米国の野生シカの間で流行中…

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新型コロナウイルス、米国の野生シカの間で流行中…
オジロジカ
Photo: Eva HAMBACH / AFP (Getty Images) via Gizmodo US

私たちにも関係なくないかも。

人間界に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)をもたらしたSARS-CoV-2ウイルスが、別の生物間でも猛威を振るっているようです。

先週発表されたばかりの予備調査によりますと、アメリカの野生のオジロジカの間で新型コロナウイルスが流行っていると確認されたそう。シカの感染が今後どのように私たちに影響してくるかは未知数ですが、ひょっとしたらウイルスが巡り巡って人間界に再出現するかもしれない、と研究者たちは警鐘を鳴らしています。

種を超えた感染力

新型に限らず、コロナウイルスは一般的に感染対象の広さで知られており、COVID-19到来以前にもパンデミックを引き起こしかねないと問題視されていたほどです。COVID-19そのものがどのように発生したかはいまだ議論されているものの、人間の間で瞬く間に広まり、さらにはほかの種へも飛び火するのにそう時間がかからなかったことだけは明らかです。ネコ、イヌ、イタチや、霊長類ではゴリラなども新型コロナウイルスを保菌していることが確認されていますし、シカも然り、です。

これらの感染元をたどると、ほとんどが人間から移されたものだったこともわかっています。そうして人間から動物へと渡った新型コロナウイルスはその後も動物から動物への広がりを見せ、特にイタチ間で顕著でした。とはいえ、感染の範囲は独立したまま留まっていたケースが多く、たとえば動物園内で飼育担当者から数匹の動物が感染しても、範囲はその園内のみに限られていました。

野生のオジロジカ間で大流行

ところが今回発表された新しい研究では、北アメリカに棲息している野生のオジロジカ間で、少なくともいくつかの個体群において感染が広まっていることがわかりました。

ペンシルバニア州立大学をはじめとするいくつかの研究機関は、まずアイオワ州内で野生化しているオジロジカと飼育環境下に置かれているオジロジカ、合わせて約300頭のリンパ節サンプルを入手。サンプルの多くは「慢性消耗病(chronic wasting disease)」という別の伝染病を調べるために確立された監視プログラムから得られたものでした。そしてそれらにSARS-CoV-2ウイルスが存在しているかどうか調べたところ、2020年9月から2021年1月にかけて調べたもののうちおよそ3分の1から陽性反応が出たそうです。

さらに、野生のオジロジカから得たサンプルの方が陽性反応が出やすいこともわかりました。陽性反応が出たサンプルの地域分布と遺伝子シグニチャーも調べた結果、複数回に渡って人間からオジロジカへと飛び火していたこともわかったそうです。

ウイルスの生き残り戦術?

この研究発表に先立ち、8月にはアメリカ農務省が、ミシガン、ニューヨーク、イリノイ、ペンシルバニアの4州に棲息しているオジロジカの40%が、SARS-CoV-2ウイルスの抗体を保有していると発表していました。ただ、今回の研究は実際にウイルスがシカの間で流行していることを確認できた初めての例だといいます。

オジロジカは北アメリカ大陸でもっとも繁栄している野生のシカ。ですから、このままウイルスの感染が拡大すれば、いずれは人間界にも影響を及ぼすことは容易に想像できます。

私たちの研究結果は、オジロジカがSARS-CoV-2ウイルスの保有宿主となる可能性が大いにあることを示唆しており、新型コロナウイルス感染症の今後の動向や、ウイルスゲノムの多様化にも影響すると考えています

と研究者たちは説明しています。

というのは、保有宿主が単一の種のみに限られている場合はウイルスの遺伝子がどのように変異したかをより簡単にたどれるのですが、ウイルスが複数の種の間を行き来した場合、ウイルスが異なる環境に順応する際に遺伝子の突然変異が起こりやすくなるため遺伝子の多様性につながり、その中から毒性の強い株が出現する確率も高くなってくるそうなのです。それに複数の種を渡り歩いたウイルスは、ほかのコロナウイルスと遭遇し、融合する確率も高くなります。

これと同じことはインフルエンザウイルスにも見られます。インフルエンザはウイルスの中でも突然変異が速く、さらに鶏や豚が保有しているインフルエンザウイルスと関わりを持つことにより、遺伝子情報の交換が活発に行われます。その結果、毎年冬に流行するインフルエンザとは別に、パンデミックを引き起こしかねない新たなインフルエンザ株が生み出されます。同様にコロナウイルスも突然変異を繰り返すことで、今後毒性を増す可能性があります。現時点ではコロナウイルスに感染したオジロジカの多くに症状は見られていないものの、今後ウイルスが変異すればより危険なものとなってしまうかもしれません。

いつ人間界に再出現するかわからない

さらに懸念されるのは、オジロジカを保有宿主とすることで、コロナウイルスに潜伏期間を与えてしまうこと。研究者曰く、「人間のワクチン接種・集団免疫がいくら広まっても、病原体保有動物の存在によってその外側に潜伏していたコロナウイルスがいつ再出現するかわかりません」。時を経て突然変異を繰り返し、より凶悪になったコロナウイルスがいつまた人間に感染するかわからない、というのです。

新型コロナウイルスはシカの間では人間ほど流行しないかもしれませんが、人間に近いところに棲息している野生動物がウイルスを保有しているという事実、そしてその事実がもたらすリスクは今後も念頭に置くべきだと研究者たちは警告しています。

オジロジカの持つ経済的・社会的価値を考慮すると、SARS-CoV-2ウイルスに感染したシカのほとんどが無症状だとする実験的証拠が得られているにもかかわらず、SARS-CoV-2ウイルスが野生のシカにどのような健康上の影響を与えているか臨床的な実験結果がまだ得られていないことからも、今後も継続して調査をしていく必要性は高い

と研究者たちは締めくくっています。

未だ世界は新型コロナウイルス感染症を克服していません。大多数の人はまだワクチン接種を受けられていませんし、新規感染者がまったく出なくなるまで今後数年はかかるかもしれません。

その上で、オジロジカの体内に潜伏していたウイルスがいつまた人間界に牙をむくかわからないとなれば、私たち一人ひとりが引き続き感染しないように注意することも重要ですし、むやみに野生動物を触ったりしないのも大事になってくるかもしれません。

Reference: Biorxiv, WHO

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