許されざる事件。COVID-19で亡くなった家族の体が営利目的の公開解剖ショーに出されていた。

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  • author 中川真知子
許されざる事件。COVID-19で亡くなった家族の体が営利目的の公開解剖ショーに出されていた。
Image: shutterstock

これ、現実なの?

自分が死んだら医療の発展と医療関係者の学びに役立ててほしいと考える人は少なくないでしょう。しかし、営利目的の公開解剖ショーに使われてしまったら…。こんな悪夢のような出来事がアメリカで起こってしまいました。

10月17日にポートランドのマリオットホテルのイベント会場で開催された「Oddities and Curiosities」というイベントで、98歳でこの世を去ったDavid Saundersさんの遺体が公開解剖されたとIFLScienceが伝えています。

解剖したのはミズーリ州のモンタナ大学で解剖学の教授だったDr. Colin Henderson。彼は、解剖されるのは86歳の男性で「医学のために体を寄付してくれた」と言うと、観客の前でメスで体に切り込みを入れ臓器を丁寧に取り出し、授業をするようにひとつひとつ解説したそうです。そして、参加者に手袋をつけて実際に触ってみるように促したとのこと。

Video: KING 5/YouTube

イベントの存在を知って潜入していたシアトルのニュース番組 KING5のChris Ingalls記者は、遺体の手首に「David Saunders」と書かれたタグを確認したそう。イベント終了後に死亡記録と死亡記事のサイトで検索したところ、イベントで説明されていた「86歳」のDavid Saundersという男性は見つからなかったといいます

死者の尊厳を無視したイベントにショックを受けたChris記者は、この遺体が本当にDavid Saundersさんのものなのか、また本人とご遺族はこのようなことに遺体が使われることを了承しているのか調査する必要があると強く感じたようです。

問題だらけの解剖ショー

KING5の調べによると、「Oddities and Curiosities」の仕掛け人は、DeathScience.orgの創設者であるJeremy Cilibertoという男性。

彼はラス・ベガスに拠点を置くMed Ed Labsという遺体の寄附を受け付ける営利目的の会社に、遺体の利用目的を「医学のため」と偽ってDavid Saundersさんの遺体を約1万ドル(約112万円)で購入。イベント会場には「科学と教育が目的」と申請しました。公開解剖ショーはTikTokで大々的に告知され、解剖台の目の前の席は500ドル(約5万6000円)で販売され、会場には70人の参加者が集まりました

イベント後にKING5が参加者にインタビューをすると、「教育的だった」「学びがあったが、自分の家族が公開解剖されるとなったら複雑な気持ちだ」とさまざまなコメントが。しかし、好意的な意見もある一方で「Oddities and Curiosities」は倫理的に問題があると議論の的に。このイベント後にシアトルで別の解剖ショーが予定されていましたが、KING5とオレゴン州マルトノマ郡の主任検視官のKimberly DiLeoさんの働きかけにより、イベントは予定日直前にキャンセルされることとなりました。

また、KING5はイベント仕掛け人のJeremy Cilibertoさんにインタビューを敢行。本イベントの目的と本人と遺族の承諾が得られているのか問いただしました。

するとJeremy Cilibertoさんは、このイベントが人々の好奇心や興味を満たすためのものではなく、教育を目的とした真面目なものであると断言した上で、遺体を販売したMed Ed Labsもイベントの趣旨は理解しており、本人も遺族も教育のために献体となることは承知していると話したのです。

ところが、それは真実ではありませんでした

Kimberly DiLeoさんがMed Ed Labsに問い合わせたところ、管理者は遺体がイベントに使われることは知らなかったことが明らかになりました。つまり遺族も把握していたなかったことになるのです。

遺族にとっては青天の霹靂

調査の結果、KING5は、David Saundersさんが98歳の退役軍人だったことを突き止めました。

ベトナム戦争と朝鮮戦争で戦った経験もあるDavidさんは、医療に携わる人たちの教育のために役立ちたいと、死後はルイジアナ州立大学での献体を望んでいたのです。ところが、COVID-19の合併症で亡くなったため、大学は受け入れを拒否。そこで、バトン・ルージュにある葬儀場から、遺体の寄附と引き換えに火葬を含む葬儀一切の費用を負担するというMed Ed Labsに送られることとなったそうです。

KING5はDavidさんの家族にコンタクトをとり、妻のElsieさん(92歳)に、Davidさんの遺体が公開解剖されたことを伝えました。Elsieさんはイベントでの使用について説明を受けていなかったと話し、「見せ物のクマのように扱われるなんて想像もしていなかった。献体を承諾したのは科学的目的のはず。控えめに言っても腹立たしい」と話しました。

DavidさんがCOVID-19に罹患していたことは伏せられていた

本イベントの問題は、本人と遺族の理解が得られていなかっただけに留まりません。参加者にはコロナ感染者の遺体を解剖する旨の説明がされていなかったのです。

2020年に発行されたWHOのガイダンスによれば、遺体の曝露から感染するという根拠はないとされており、感染リスクは低いと考えられています。しかし、感染管理の観点から、遺体は非透過性納体袋に収容することが推奨されていますし、重症化のリスクがある方は遺体への接触は控え、十分な注意が必要とされています。事前に知らされていればイベント会場となったホテル側や参加者の対応も変わってきたはず。

教育のためだと銘打ちながら、新型コロナの対策ひとつできず、参加者をリスクにさらす…。あまりにも杜撰なイベントではないでしょうか。

遺族の願いとは裏腹にイベントは今後も開催される予定らしい

Davidさんの遺体はルイジアナ州に戻り、バトン・ルージュの葬儀場で葬儀が行なわれたのちに家族の元に戻ることとなりました。遺族は「二度とこういったことが起こってほしくない」と切に願っており、遺体をMed Ed Labsに送ってしまった火葬場の関係者も、新たな被害を未然に防ぐためにMed Ed Labsとの取引は今後行なわないと話しています。

一方、悪夢のようなイベントの主催者 Jeremy Cilibertoさんはイベントは教育的価値が高いと信じており、2022年には規模を拡大して各地でイベントを開催するつもりだそうです。

Source: IFLScience, KING5

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