絶対あるはずの暗黒物質がない新ジャンルの銀河

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  • author Isaac Schultz - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
絶対あるはずの暗黒物質がない新ジャンルの銀河
どんな銀河にもあるはず…の暗黒物質の気配がない銀河、AGC 114905
Image: Javier Román & Pavel Mancera Piña

人類が知らなかったタイプの銀河なのかも。

暗黒物質またはダークマターとは、目には見えないものの宇宙のダクトテープのように銀河をまとめる何らかの存在です。でも、ある研究チームが、そのどんな銀河にもあるはず…の暗黒物質の気配がない銀河、AGC 114905を発見したと発表しました。この発見は暗黒物質や銀河の形成に関する従来の理解を揺るがすかもしれません。

あるはずの「何か」がない

暗黒物質は直接観測できないものの、宇宙の26.8%を構成すると考えられていて、その重力の影響は検知できています。どんな銀河でも、その観測結果には余分な質量があるように見えます。つまり、銀河たちが地球から観測できるもの以上の「何か」を抱えているらしいというデータが出てくるのです。

でも、最近ある天体物理学者のチームが、遠くの小さな銀河の中で回転するガスに対する暗黒物質の影響を観測しようと試みたところ、そのガスの動きが通常の物質だけで説明できてしまったのです。ということは、観測できる限りでは、暗黒物質の入る余地がなかったのです。この研究はMonthly Notices of the Royal Astronomical Societyに掲載を認められています。

オランダのフローニンゲン大学の天体物理学者でこの論文の共著者Filippo Fraternali氏は、米Gizmodoの取材に応えてくれました。いわく、研究チームが観測した銀河は、目に見える質量だけに束ねられているのかもしれません。それが何でいけないの?と思うかもしれませんが、暗黒物質はすべての銀河において主要な材料だと考えられてきたのです。「問題はわれわれの銀河形成のシナリオでは、銀河が暗黒物質なしで形成するはずがなく、まして矮小銀河には大量の暗黒物質があるはずだということです」とFraternali氏は言います。「したがってわれわれの理解できない何かが、そこにあるのです」

その銀河はAGC 114905と名付けられ、地球から約2.5億光年離れた場所にあります。AGC 114905は「超淡銀河」、つまり非常に広大な空間に薄く広がっているのが特徴で、天の川銀河と同じくらいの大きさに対し星の数は1,000分の1ほどしかありません。研究チームは2020年7月から10月にかけて合計40時間、米国立電波天文台の超大型干渉電波望遠鏡群でAGC 114905内のガスの回転を観測しました。

過去にも似た事例が

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暗黒物質が引き起こす「重力レンズ効果」で、背景にある銀河クラスター(MACS 1206)が歪んで見えるの図Image : NASA, ESA, M. Postman - STScl, CLASH Team

2018年にも、別の矮小銀河・NGC1052-DF2に暗黒物質がないようだとして話題になりました。当時もこの主張に対しすぐに反論が噴出し、NGC1052-DF2はニュータイプの銀河の成長の証拠だとか、解釈が間違ってるからもっとデータが必要だといった指摘が相次ぎました。暗黒物質のない銀河という主張がいかにショッキングか、こうした反応が物語っています。

でも、最近NGC1052-DF2の観測結果が検証され、その距離に関する認識が再確認されたことで、そこに暗黒物質がないらしいことが認められました。マックス・プランク研究所の天文学者Nicolas Martin氏は米Gizmodoに対し、NGC1052-DF2は「想定外の形成と進化を遂げてきたのかもしれない」と言ってます。また今後の新たな技術を使った望遠鏡や調査により、この系が極めて特異なのか、それとも現在の銀河形成モデルで簡単に説明が付かない、より多くの集団のひとつなのかの理解が進むだろうとも語りました。今回AGC 114905が見つかったことで、従来のモデルでは説明できない銀河の存在はさらに市民権を得ていきそうです。

反論はあるものの

今回の研究では、AGC 114905の暗黒物質ハロー(銀河の中と周辺の暗黒物質の足跡)が、全部でないにしろ実質的に暗黒物質なしでできていなければ、観測データと一致しないことが発見されました。暗黒物質がない理由を説明するひとつの仮説は、近くの大きな銀河により暗黒物質がはぎ取られたのではという考え方ですが、実際AGC 114905の近くにはそれらしい銀河がありません

「理論上、AGC 114905には暗黒物質があるはずですが、我々の観測はそうではないことを示しています」とオランダのフローニンゲン大学の天体物理学者でこの論文主著者Pavel Mancera Piña氏は、王立天文学会のプレスリリースで言っています。「実際、理論と観測の違いは広がる一方です」

もうひとつの仮説は、銀河を観測した角度が推定と違うのではないかというものです。でも同じプレスリリースの中で、オランダ電波天文学研究所の天体物理学者で今回の論文共著者のTom Oosterloo氏は、AGC 114905に暗黒物質が存在するには研究チームの推定からかなりかけ離れた角度である必要があると言っています。

他にもありそうな予感

現在この研究チームは、別の超淡銀河にも暗黒物質が存在しないかどうかを調査中で、もしそうであれば「暗黒物質のない銀河」というジャンルの存在がさらに裏付けられます。すでに観測が進んでいて、Fraternali氏いわく、彼ら研究チームはAGC 114905と同様のデータが出ることを期待しています。暗黒物質のことは、知れば知るほどますます謎が深まっていくようです。

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