かつて核ミサイルの地下式サイロで使われていたキーボードとトラックボールの一式が、どういうわけか民間人の手に渡り、現代のPCで使えるようアップデートされました。世の中にはさまざまなキーボードがありますが、こんなにも興味深いバックグラウンドを持つキーボードは非常に珍しいかもしれません。
このキーボード、その名も『Nuclear Keyboard』を改造したのはYouTubeチャンネルのPointless Tinkeringさん。元々、揃いのトラックボールと共にeBayで購入した冷戦時代の遺物なんだそう。キーボードには『音声へ』、『開始』といった不穏なラベルが付いた特殊なファンクションキーや、青くて大きい『中止』ボタンが備わっています。軍用に設計され使われていたキーボードだということは買った時から疑いの余地がありませんでしたが、Pointless Tinkeringはその出自をさらに深掘りして、ごく少数の人たちしか操作する機会に恵まれなかったハードウェアであったことを発見したのです。
1980年代後半、アメリカ空軍の戦略航空軍団(SAC)は6億3200万ドルかけてRapid Execution and Combat Targeting(迅速な実行および戦闘標的システム、略称REACT)という、核ミサイル地下式サイロで1960年代と70年代から使われてきたコントロールシステムをアップデートするプログラムに着手。このキーボードとトラックボールはその時のデバイスだったのです。REACTの主たる目的は、従来は何週間もかかっていたミサイルのターゲット変更のプロセス(個別と全基、どちらとも)を容易にすることで、90年代になると新しいハードウェアのおかげもあって1日以下に縮められたのでした。
しかしそれは30年前のことで、大陸間弾道ミサイル「Minuteman III(ミニットマン3)」のサイロで使われていたハードウェアはその後再びアップデートされています。そしてREACTのコンソールのいくつかは資本主義らしく、廃品置き場ではなくeBayに行き着いたのでした。
USBポートがコンピュータに搭載され始めたのは1998年頃で、当然ながらそれ以前に実装されたREACTコンソールには搭載されていません。キーボードとトラックボールには古いRS-422プロトコルが使われていました。そこでPointless TinkeringさんはUSBポートを介して現代のPCに接続できるようにするため、丸ごと分解し、リバースエンジニアリングとArduinoのPro Microを活用してアップデートしたのです。
トラックボールも、再びスムーズに動かせるようにするためメンテが施されましたが、年季が入っているので現代のものほどの安定性も精度もないようでした。そのうえ、これらを核ミサイルの打ち上げ用に設計されたコンピュータ以外で使うにはハード側だけでなくソフトウェアもカスタムする必要があったので、Pointless Tinkeringさんはソフトウェアを開発。サイロから回収されたキーボードをカスタムするなら、こちらからダウンロードできますよ 。
Source: Hackaday, YouTube, Nuclear Companion, tildegit,