当事者になってみると、今までと視点が変わってくるよね。
世界最大級のコンピューターグラフィックスの祭典、SIGGRAPH。そのアジア版であるSIGGRAPH Asia 2021にて、認知症患者の視点をARで体験できる「Dementia Eyes」なるブースを体験してきました。Dementiaとは認知症のこと。
2007年に超高齢化社会(全人口の21%が65歳以上)を迎えた日本において、お年寄りファーストな社会は重要課題の一つ。認知症は高齢化社会において避けられぬ問題ですが、脳の病気って、知見はあっても実体験を想像するのは難しくないですか? 車椅子などと違って身体的なものじゃあないし、そもそも患者本人の視点にはなれない。

「Dementia Eyes」は、アルツハイマー型認知症の一般的な視覚症状を体験・シミュレートできるデバイス。実際に患者と接したことがある医療従事者の経験や病理学に基づいて開発されました。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科、EMBODIED MEDIA、MEDIVA、Cybernetic beingの共同開発です。

で、実際にARを体験してみると、すごく歩きにくい…! 視野が狭い、色やコントラストがハッキリ見えない、奥行きがわかりにくいなど、普段見えている世界とは全く見え方が違います。近くにあるテーブルに触るのも難しい…これは壁や手すりを支えにしたくなる…。

視野が狭いから、足元を見ながらでないと歩きにくい。でも足元を見ていると目の前や頭上の障害物がほとんど見えない。ここにあるライトも「え、こんなところにあったんですか!?」と、リチャード氏は気づかなかった模様。奥行きがわかりづらいのでこのライトを触るのも一苦労です。
あと、自然にこういう姿勢になりがちでした。頭をグイっと前に出す、いわゆるお年寄りの姿勢。この姿勢って足腰が悪いからこうなると思ってたけど、モノをハッキリ見たいがために顔を出す→頚椎や腰が反っていく→足腰に負担がかかる、みたいなパターンもありそう。

足元の黒いじゅうたんを踏んでますが、僕の目には真っ黒い穴に見えてます。じゅうたんのフサフサが認識できないんですよね。なので「なんだこの黒い穴、怖い!」という気持ちになる。コンクリートの道路とか怖い…。

こうした立体ピクトグラムも、真っ黒に見えてます。細い文字や図形がぼやけてしまうので、このあたりはユニバーサルデザインが解決すべき課題。
今回は事前にブース全体を見ていたので、どこに何があるかを知ってる状態でした。でも、もし初めての場所で認知症の目を体験していたら、すごく手探りな歩き方になったと思います。実際のさん患者でも「初めて行く病院は怖い」といった意見もあるそうで、今ならとても納得できます。
ブースの人曰く「こうしたデバイスが認知症フレンドリーな社会、すなわちDemetia Design=認知症デザインに繋がる。実際に患者の感覚を体験できれば知識を行動に移しやすいし、気づきがある。ドクターやナースなどからも好評で、病院やクリニックの場や行動の改善に繋がる」とのことでした。

「認知症の人にはこう見えているのか」と想像できれば、例えばぶつけやすそうな物は足元に置かない、手をつけるテーブルなどを各部屋に配置するなど、患者フレンドリーな視点が見えてくるかも。人の想像の手助けをするのも、テクノロジーの役割なり。
Images: ヤマダユウス型
Source: SIGGRAPH Asia 2021