まるで人間。
中央アフリカの小国ガボンで野生のチンパンジーの保護活動を展開する団体「 Ozouga Chimpanzee Project」が、空中の蠅を捕まえて傷口に当てるチンパンジーの不可思議な行動に気づき、群れの観測記録と映像をCurrent Biologyに公開しました。
第1発見者はボランティアのAlessandra Mascarさんで、2019年に母チンパンジーのSuzeeが息子Siaの足の傷に蠅を当てるのを見たのが最初でした。Suzeeは蠅を捕まえると、逃げないように口に入れて、傷口に当てていたのだといいます。
どういう行動なんだろうと興味を持ったみんなでチンパンジーの群れを15か月間観測してみたところ、同様の動きは76回も記録されました。自分の手当てもあれば他者の手当てもあります。
山野の薬草を食する行動は熊、鹿、猿などにもみられますし、これも、「応急処置」の類いなのでしょうか? 仮にそうだとすれば、「傷口に虫を当てる行為はまだ報告例がない」(論文)ため、自然界で確認された初の虫セラピー実践例となります。
マゴットセラピー、リーチセラピーは人間にもある
虫セラピーは日本ではあまりなじみがなくて、聞くだにおぞましい気がしますけど、西洋ではウジ虫やリーチ(ヒル)を利用したセラピーは何千年も前からあって、映画やドラマでもおなじみ。抗菌作用、鎮痛効果があるとの報告もあります。
チンパンジーはだれに教わったわけでもないのに、本能的にこういった虫の効能を知っているのかもしれませんね。
観測された事例の大半は自分の傷の応急手当てでしたが、なかにはSuzee母子のように、他者の手当てをするケースもありました。これなんかは自分の損得勘定抜きに、だれかのために何かをしてあげる、社会性のある行動と言えそうです。
「自分的には、そこが一番の驚嘆ポイントですね。ほかの動物にはあまり社会性がないと考える人が多いので。でもこうやって他者を思いやる種の姿が突然目の前に現れたんですから」と、論文をまとめた独オスナブリュック大学のSimone Pika認知生物学教授も驚きを隠しません。 もちろん相手は野生動物のことですので、本当の動機はわかりません。チームでは観測をもとに、どんな虫をどんな目的で使うのか、今後さらにくわしく解明を進めたいとしています。