2021年2月4日の記事を編集して再掲載しています。
料理ってやっぱり、サイエンス。
世の中に「くっつかないフライパン」は数あれど、厄介な家事に関するアンケートをとったら「こびりついたフライパンを洗うこと」はかなり上位にランクインすることでしょう。高温になったフライパンの表面で油はどんなプロセスをたどるのか? と調査してみたところ、食品がフライパンに付着する原因が明らかになりました!
くっつかないフライパンがくっつく原因は「熱毛管対流」
それが2月2日に科学誌“Physics of Fluids”に掲載された最新の論文なのですが、冒頭には「本研究では、フライパンで調理する際に食品が付着する現象を実験的に説明します」と書かれています。なんかちょっと、カワイイ。
チェコ科学アカデミーに在籍する著者アレクサンダー・フェドルチェンコ氏とジャン・フルビー氏によると、ポイントは「熱毛管対流」。別名「温度差表面張力対流」ともいわれますが、論文内ではこの現象について詳細に解説されています。
「熱毛管対流」ってなんだろう?
熱毛管対流、ってなんか、ちょっといい響きですよね。今度またフライパンが焦げついちゃっても、「なんなのよ、熱毛管対流!」ってそれっぽい単語で愚痴ってみると、ちょっとカッコいいかも。あとは、その言葉の意味をもう少ししっかり理解しておくと、もっとスッキリするはず。
流体力学と熱物理学の専門家であるフェドルチェンコ氏とフルビー氏は、2種の「くっつかないフライパン」でテストを行ないました。ひとつはセラミック粒子でコーティングされたもので、もうひとつはテフロン加工されたもの。そしてフライパンの表面には薄くひまわり油を敷きます。あとは書画カメラ(資料など主に平面の被写体を撮影するためのカメラ)を使って、鍋が加熱された際の「ドライスポット(乾燥した斑点)」の形成および成長速度を測定しました。
科学者チームは、鍋が下から温められると、油のフィルム全体に温度勾配が現れることに気づきました。すると、表面張力の勾配が生じます。表面張力の高い液体は、低い液体に比べて周囲の液体を引き込む力があるため、油がフライパンの中心から外側へと流れます(動画はこちらの記事からご覧いただけます)。
これこそまさに、熱毛管対流の動きです。つまり熱毛管対流とは、表面張力勾配によって液体(この場合は油)が外側に移動する現象。これがフライパンの中で起きることにより、食品がその中心にくっつきやすくなるわけです。言い換えれば、「ひまわり油の薄いフィルムに、ドライスポットが形成された」結果ということです。

焦げ付かないための対策
フェドルチェンコ氏とフルビー氏は実際に、油がフライパンの外側に後退する速度「デウェッティング率」を計算する式を作成しました。ちなみに、「デウェッティング」というのは非常に粋な響きですが、この言葉は今の私たちの生活には必要ないので、覚えなくても大丈夫。さらに、科学者チームはドライスポットが形成される条件を特定し、以下のようなアドバイスで結論づけています。不要なドライスポットの形成を避けるためには、以下の対策が有効です。
・油を厚めに敷く
・加熱しすぎない
・フライパンの表面にまんべんなく油を敷く
・厚底の鍋を使用する
・調理中は定期的に食品をかきまぜる
わお。とりあえず、私にとってはかなりのお役立ちアドバイスです(ひとつ目と3つ目は同じこと言ってる気もしますけど)。底が厚い鍋がいい、というのは知っていたのですが、あとは初耳情報でした。まあ、それは私が鋳鉄製の鍋を愛用していたからかもしれませんがね。
さて、と。こんな話をしていたらおなかが空いてきちゃったので、この記事についてはここでおしまいにして、キッチンで「熱毛管対流」の実演でもしましょうかね!