原因不明の急ブレーキ…噂はかなり前からありました。
暴走カーは後ろにピタッとつかれるのが恐怖だけど、テスラ車は前にいるのも恐怖。なんの前触れもなく勝手に自動で緊急ブレーキがかかっちゃうことがままあります。これがいわゆる「ファントムブレーキ」。
主にオートパイロット使用時に見られる誤認緊急停止ですが、ここ最近は特に多くて、米運輸省道路交通安全局(NHTSA) のサイトにも9か月でのべ354件もの苦情が殺到。とうとう同局は17日木曜、原因究明の調査に正式に乗り出すことを明らかにしました。
調査の対象となるのは、2021年と2022年に発売されたすべてのModels 3とModel Y、計41万6000台です。要するにレーダーがデリートされた後の全車両ですね。
ファントムブレーキという怪現象
ファントムブレーキの問題は、テスラオーナーの間では割とよく知られた現象で、日本でもオンラインのラフなアンケートで過半数が経験済みと回答していますし、「今日はファントムブレーキもなく快適なAP(オートパイロット)でした」な~んて報告が当たり前のように交わされています。
ただ、心の準備はあっても慣れるということはないようで、ITMediaの昨年11月のオーナーレポートにも次のような記述があり、皆さんwithファントムブレーキで頑張っていることがわかります。
とにかく優秀で、この調子でいけば自動運転の実現も間近かと思わせてくれます。
ただし、それが甘い考えであることを思い知らされる場面もあります。たとえば、運転中特に問題ないにもかかわらず、突然強めのブレーキがかかる場合があります。テスラコミュニティーでは、クルマが幽霊を認識したという意味で「ファントムブレーキ」として有名です。筆者は3回経験しました。危機感はありませんでしたがドキッとします。
”Tesla乗りだけが感じ取れる「ファントムブレーキ」の怪異を知ってるか? オートパイロットの快適さと限界” (ITMedia)
問題が表面化した経緯
この問題が外向けにクローズアップされたのは昨年10月のことでした。 自動運転ソフトウェア「Full Self-Driving(FSD)」 をバージョンアップ後、前方警告とファントムブレーキなどの問題が多々判明して、旧バージョンに急遽戻したのが最初。
Seeing some issues with 10.3, so rolling back to 10.2 temporarily.
— Elon Musk (@elonmusk) October 24, 2021
Please note, this is to be expected with beta software. It is impossible to test all hardware configs in all conditions with internal QA, hence public beta.
このようにイーロン・マスクCEOはTwitter上で手短に発表したのですが、「安全にかかわる差し戻しは発生から5日以内にちゃんとリコールの届け出しなきゃダメでしょ!」とNHTSAにお叱りを受けて、リコール申請しました。
10.3ベータ版は問題ありすぎて、ロールバック(旧版に戻すこと)を決断した直接の原因がなんだったかは不明ですが、このリコールを境に、急に苦情が増えたことは事実としてあります。NHTSAにオーナーから寄せられる苦情は、それまで22か月で34件というローペースだったのに、昨年11月には51件に突出。11~1月の3か月だけで107件にも達していますしね。苦情殺到については調査の発表に先立ち、Washinton Postが今月2日付けの記事で報じていました。騒ぎになった以上、安全を管理する当局としても放置しておけなくなったんでしょうか…。
レーダー削除の影響?
車種を見てピンとくる人はピンとくると思いますが、調査の対象となる去年と今年の北米市場版Model 3とModel Yは8つのカメラオンリーです。前方の障害物を認識するレーダー(競合EVの間では自動運転に不可欠というのが常識)は装備されていません。「カメラの方が部品コストが安いのはわかるけど、そんなんで暗がり走れるの?」、「前方車との距離を測る性能が下がって緊急ブレーキに影響出るよ?」と物議を醸した仕様変更でしたので、その辺のことも調べてみるんでしょう。
ずっとGoogle系列WaymoなどのLIDARをこき下ろしてきたイーロン。2019年春のイベントでは自動運転業界すべてを敵に回してこうも語っていました。
「LIDARなんて頼ってるやつは終わってる。あんなセンサ、高いばかりで要らないでしょ。今にわかるよ」(The Verge)
どっちの言うことが正しいのか。綱引きも佳境ですね。
Sources: ITMedia, Washinton Post, The Verge, NBC Nw