シュワちゃんがロシア国民におくる動画メッセージ全訳

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シュワちゃんがロシア国民におくる動画メッセージ全訳
世界を救うのはやっぱりシュワなのか… Image:Arnold Schwarzenegger / YouTube

ウクライナ侵攻から20日。亡くなったロシア兵は7千人。イラク&アフガン20年の戦いで亡くなった米兵の数を20日で抜いてしまう事態となっていますが、それすらロシアの人たちは正確に知らされていません。

そこで、ロシア全国民に向けてアーノルド・シュワルツェネッガーがプーチンの開戦理由の綻びを解いて「こんな戦争はもうやめよう」と直接訴える動画を公開しました。

シュワちゃんはロシアでとても人気が高く、プーチン大統領官邸クレムリンがフォローする22人のひとり(原稿執筆時に確認したら、まだアンフォローしていませんでした)。その影響力は絶大です。緊張緩和の突破口になってくれるといいのですが…。

一触即発の時局でも、必要なことはエスカレーションではなく、心に畳みかけて手を差し伸べることだという生きた見本を示された思いがします。全訳でどうぞ。

「ロシア人は好き。だから本当のことを言わずにはいられない。ぜひ見てシェアしてほしい」

(動画訳)

みなさんこんにちは。大切なロシアの仲間、ウクライナの前線で戦うロシア兵にも届くよう、この動画はいろんな媒体で流してます。今日お話しするのは、いまの世界情勢のことです。本当にとんでもないことになっているのにロシアでは知らされていないようなので、ぜひみなさんの耳にも入れておきたいと考えました。

厳しい現実の話に入る前に、私の憧れのヒーローだった、あるロシア人の話をしますね。

あれは1961年のことです。私は当時14歳。仲のいい友だちに誘われて、ウィーンで開かれたウェイトリフティング世界大会を見にいったら、ユーリ・ペトロヴィッチが人類未踏の200kgの重量挙げに成功して見事優勝。するとその場のなりゆきで友だちが控え室に連れてってくれたんです。

14歳の若造の眼の前に、いきなり世界最強の男が立ってる状況で呆然となっていたら、握手してくれました。こっちは子どもの手、向こうの手はとても武骨な大人の男性の手で、すっぽり包まれてしまうくらいの差なわけです。でもやさしくて、にっこり笑いかけてくれたんです。あの日のことは忘れません、一生。

さっそく家に帰ってベッドの上にペトロヴィッチの写真を貼り、重量挙げをはじめたばかりの私は、彼を目標にするようになりました。

父は「写真をはがせ!」とカンカンです。「ドイツかオーストリアにだって目標にしたい選手はいるだろ」って。いつもそれで言い合いになっていました。

父には第2次世界大戦で辛い経験があったので、ロシアが苦手だったんです。レニングラードで負傷した父は、ナチスの先兵でした。あのすばらしい街とそこに住む勇敢な人たちを散々な目に遭わせてしまった側の人間です。

でも私は、意地でもはがしませんでした。ユーリ・ペトロヴィッチの国旗がどこの国かなんて、自分にはどうでもいいことだったからです。

ロシアとの縁はそれで終わりではありませんでした。ボディビルディングや映画の撮影でロシアに行って現地のファンと会う機会が増え、むしろ縁は強くなっていきました。

忘れられない旅もあります。ユーリ・ペトロヴィッチと再会を果たした旅もそのひとつ。映画『Red Heat(邦題:レッドブル)』の撮影でモスクワを訪れたときのことです。あの作品は赤の広場で撮影が許された初めてのアメリカ映画。このときは丸一日ご一緒できました。

ペトロヴィッチ はやさしくて、思いやりがあって、すごく頭もよくてね。もちろん気前もいい。そのときもらったのが、この青いきれいなコーヒーカップです。あれ以来、毎朝これで飲んでます。

なんでこんな横道の話を延々するかと思われるかもしれませんが、こんな風におつきあいがあるので、14歳のころから私がロシアの人たちに抱いてきた感情はひとえに愛とリスペクトであって、どこをどう探してもその気持ちしかないんです。ロシア人の強さと心にひたすら憧れてきて、今の自分がある。その自分の口から伝えれば、ウクライナで起こっている戦争と今の状況について本当のことを話しても聞き遂げてもらえるのではないかと、一縷の望みをつないでいます。

自国政府の悪口なんてだれだって聞きたくないですよね、わかります。

しかし、長い付き合いのロシアの友としての私がこれから話すことをどうか聞いてもらえればと思います。といってもこれはロシアに限ったことではなくて、アメリカだって去年1月6日の議事堂乱入では、政府転覆を図る暴徒が首都になだれ込んで散々でした。あのときアメリカ国民に向けて語ったときとまったく同じ思いで、心の底から心配して言っていることです。

こんな風に、「それ、どう見たっておかしいぞ」ってことが現実に起こっているときには、黙っていないで声をあげなきゃいけない。それはロシアの政府に対しても同じことが言えるでしょう。

もっともみなさんは政府から「ウクライナのナチス化を防ぐための戦争」だと言われていると思います。でも「ナチス化」というような事実はどこにもありません。ウクライナはユダヤ系の大統領の国であり、しかも大統領の父親は、兄弟3人をナチスに皆殺しにされた人なのです。

この戦争はウクライナがはじめたものではないし、国粋主義者がはじめたのでもナチスがはじめたのでもない。開戦したのはクレムリンの為政者です。ロシアの一般の人たちの戦争ですらないのです。それは断じて違うと思うんですが、国連決議ではロシア側が侵略者だという国が141か国もあって、軍の即時撤退を求める決議案が14か国の賛成多数で可決され、ロシアに味方したのは全世界でたったの4か国でした。それが世界の現実です。

全世界がロシアに背を向けたのはほかでもない、ウクライナでの振る舞いが原因です。砲撃と爆撃で市街がまるまる瓦礫の山になっていますし、そのなかには小児科や産婦人科の病院もあります。家を追われたウクライナ難民は300万人。主に女性と子ども、高齢者ばかりです。今もさらに多くの人たちが国から逃げ出そうとしていて、まさに人道上の危機が進行中。あまりにもひどいということで、ロシアは国際社会で孤立してしまったのです。

ロシア自体が受けた戦争被害についても、みなさんは本当のことを聞かされていないと思います。こんなことを私の口からお伝えするのは気が重いのですが、ロシア兵も何千人も殺されました。祖国防衛のため死力を尽くすウクライナ人と、征服を図るロシア政府上層部の板挟みになって。破壊・放置されたロシア側の軍備は相当な数にのぼります。

そんななかではありますが、ロシア軍の爆弾は罪のない一般市民の頭上にも降り注ぎ、これを見て世界中が震撼し、史上最大の経済制裁がみなさんの国に科される事態を招いています。

どちら側の国の人たちも、こんなむごい目に遭うようなことはしていないのに、苦しみを背負うことになったのです。

ロシア政府は、国民のみならず軍にも嘘をついています。「敵はナチスだ」と言われてきたという兵士もいれば、「ウクライナ人は英雄と歓迎するだろう」と言われてきたという兵士もいるし、「ただの軍事演習だ」と言い含められてきた兵士もいる状況で、戦争に行くということさえ知らされていないんです。なかには「ウクライナのロシア系を守る」任務で戦地に向かわされた兵士もいます。でも、どれも事実とは違いました。

ウクライナの人たちは、家族と自国を守るために激しく抵抗しています。

瓦礫の山から赤ちゃんが助けだされるのを見ていると、第2次世界大戦のドキュメンタリーを見ているかのようで、とても現在進行形のニュースとは思えません。

その昔、父がレニングラードに進軍したときもちょうど同じような状況でした。政府に嘘八百吹き込まれ、戦意満々で戦地入り。しかしレニングラードを去るころには心も体も壊れてすっかり別人になっていました。そのときの痛みは一生癒えることがありませんでした。

榴散弾で負傷した背中の痛み。その傷痕が痛むたび、あの暗黒の時代の記憶がぶり返します。罪の意識からくる痛みも。

この放送を聞いているロシア兵のみなさんは、私がいまこうして話していることが本当なことに、もうなんとなく気づいているのではないでしょうか。自分の目で見て。みなさんには、自分の父のような辛い思いはしてほしくないです。

これはロシアを守る戦いなんかじゃない。おじいちゃんやその前のおじいちゃんが戦ってきた戦いとは本質的に違う。違法な戦争なんです。

みなさんの命。みなさんの手足。みなさんの未来。それが全世界の非難の的になっている義のない戦いの犠牲として投げ出されているのです。

クレムリンの上層部に問いたい。なぜ自らの野望のために若者を犠牲にするのかと。

これを聞いてる兵士のみなさんに言いたい。ウクライナに親族のいるロシア人が1100万人もいるということを忘れちゃいけないよと。だから弾を撃てば、そのたびに兄弟姉妹に当たる。爆弾や砲弾を投下すれば、その落下点にいるのは敵ではない。学校や病院、家に落ちてしまったりもするんです。

そんなことになっているとは、ロシアの人たちには知る由もないことだということは重々わかっています。だからロシア国民と在ウクライナのロシア兵には分かってもらいたいんです。いま吹き込まれていることがプロパガンダや偽の情報だということを。どうか本当のことを広める力になってほしい。ウクライナで起こっている悲劇を、仲間のロシアの人たちにも教えてあげましょう。

プーチン大統領にはこう言いたいです。この戦争をはじめたのは大統領です。指揮を執っているのも大統領。ならば、やめることもできるのではないかと。

最後にひとこと、路上でウクライナ侵攻に抗議して反戦運動するすべてのロシアの人たちにメッセージです。みなさんの勇気ある行動を、世界は固唾をのんで見守っています。勇気を振り絞った結果、ひどい仕打ちに遭っていることも知っています。逮捕されて、刑務所に入れられて、ボコボコにされて。

それでも戦うみなさんは私の新たなヒーローです。ユーリ・ペトロヴィッチにも負けない力を見るとともに、嘘偽りのないロシアの真心を見る思いがします。

親愛なるロシアのみなさますべてに神のご加護がありますように。