アップルもグーグルも、ターゲティング広告の最期をすでに予感している

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  • author 福田ミホ
アップルもグーグルも、ターゲティング広告の最期をすでに予感している
Image: Tada Images / Shutterstock.com

ちょっと何か欲しいものを検索しようものなら、どこに行っても追いかけてくるターゲティング広告。でも、最近「プライバシーは基本的人権」と主張するApple(アップル)が先陣を切って、ターゲティング広告を排除する流れが強まってます。

そうはいってもそういう規制って抜け道があって、結局状況は変わらないのでは…?と思いきや、The Informationによれば、アップルだけじゃなくGoogle(グーグル)でも広告のあり方を大きく見直す動きが進んでます。そしてその影響はすでにあちこちに及んでるみたいです。

iOS 14.5による阿鼻叫喚

今ターゲティング広告に大打撃を与えているのが、2020年6月にアップルが打ち出した「App Tracking Transparency(略してATT、アプリのトラッキングの透明性)」という枠組みで、2021年4月公開のiOS 14.5から実際に使われ始めてます。これにより、アプリをまたいだユーザーのトラッキングを行うためには、ユーザーの許可が必要となりました。アプリを立ち上げたとき、「Appにトラッキングしないように要求」するか「許可」か聞いてくるあれです。

ATTのリリース以降、従来のようなターゲティング広告を可能にするには、あの画面でユーザーが「許可」してあげる必要があるんですが、Flurry Analyticsによれば「許可」してる人は今26%しかいないそうです。つまり、以前の約4分の1の人にしかターゲティング広告が出せなくなってるんです。

iOS 14.5より前は、IDFA(Identifier for Advertisers、広告主向け識別子)というアップルのツールがあり、広告を出す側はこれによってユーザーを認識し、どんな広告に反応するのか検証し、ユーザーに合ったものを見せることが可能でした。が、このIDFAは本来プライバシー保護手段として開発されたそうで、ユーザーはiOSの設定の中でIDFAの使用をブロックすることで、ターゲティングを回避可能だったんです。ただ、そのオン/オフは設定メニューの重箱の隅までいかなきゃ見つからず、The Informationによればその当時オフにしてた人は、1ケタ%しかいないというザルっぷりでした。

IDFAは単に広告の効果検証で使われるだけじゃなく、アップルの意図しない使い方がされるようになってました。たとえば「ユーザーの位置情報をブローカーに売りさばく天気アプリ」みたいなものが横行するようになっていたんです。ATTはいわば、アップル自身が生み出し、野放しにしてしまった問題児を封印する試みでもあるようです。

広告の効率が下がる必然

ターゲティング技術が使えなくなると、データ売りさばき目的のアプリが成り立たなくなるのは良いんですが、みんなが好きでたくさん使ってるアプリのデベロッパーにも不都合が出てきます。ユーザーがどんな人で何に興味があるかわからない状態で広告を流さなくちゃいけないので、広告への反応が鈍くなるんです。広告の効率が下がるので、広告を載せているSNSやアプリデベロッパーに入っていた広告収入は、より効率の良いところにシフトされていきます。その結果、実際に2021年下半期のSNS各社の広告売り上げは合計1兆円以上減ったと推定されてます。特にターゲティング広告への依存度が高いFacebook(Meta)は、2022年の売上はATTの影響で100億ドル(約1.2兆円)減るだろうと自ら予測しています。2021年第4四半期の決算を発表した2月初旬には株価が1日で26%急落、時価総額では2500億ドル(約30兆円)が消滅し、その後も回復してません。

SNSだけじゃなく広告を載せる全アプリが影響を被っていて、AppsFlyerによれば、ゲームアプリの中での課金も35%減ってるそうです。ただ、iOSでタゲれないならAndroidに行けばいいじゃないとばかりにAndroidへの広告出稿を増やす動きもあり、Androidでのアプリ内課金は2021年終盤にかけてむしろ10%増えたそうです。

グーグルも追随している

とはいえ、Androidなら今まで通りターゲティングOKというわけじゃありません。グーグルはグーグルで2021年、IDFAと同じように広告での個人識別に使われてきたサードパーティCookieをChromeで利用不可にする方針を発表し、廃止時期が2022年から2023年へと延期になってはいるものの、方向性は変えてません。Androidでもアプリ間トラッキングを制限する「Privacy Sandbox」という枠組みを発表、広告効率よりもプライバシー保護に重心をそっと移しつつあります。

ただグーグルは、iPhoneやMac、iCloudにApp Storeなどなどいろんな方法で稼げるアップルと違い、収入の8割を広告に頼っています。なのでグーグルとしては広告の価値を安易に下げられないということなんでしょうか、ユーザー個人を識別しなくても、広告に対するユーザーの反応を推定できる仕組みを開発中、とThe Informationは伝えています。一部のグーグルユーザーから許可をとってパネル化したうえでデータを集め、そのデータを広告主が持つ顧客データと一緒に分析することで、ユーザーの動きを推定するそうです。それで従来のユーザー個人ごとの識別にかなうくらいの精度が実現できるのか謎ですが、グーグルのデータ量と分析力があれば可能なんでしょうか…?

ネット広告が大きく変わっていくかも

そんなわけでiOSとAndroidの両方、つまりモバイルプラットフォームのほぼすべてがターゲティング技術の規制を始めてはいますが、ターゲティング広告がすぐに全滅するわけじゃありません。グーグルは前述のPrivacy Sandboxを開発してるし、アップルもSKAdNetwork(SKAN)という、IDFAより緩やかな形で広告の効果を検証できるツールを2018年から提供していて、当初はその名の通り割と総スカンだったみたいですが、ATTに合わせてアップデートしています。

また、ATTでトラッキングできなくなったのはあくまで「アプリをまたぐトラッキング」であって、ひとつのアプリの中ではユーザーを識別しても問題ないし、アプリの機能上識別が必須であることも多いです。でも、そういう意味ではアップルとかグーグルといったユーザーとの接点の多い企業は、ユーザーの情報をたくさん持ってるので、小規模なアプリデベロッパーよりも有利になります。

Facebookは正にこの点に関して、アップルの腹黒さを指摘しています。つまり、ATT導入の目的はユーザーのプライバシー保護だと言いつつ、実際はアップル自身の利益のためなんじゃないかというわけです。Facebookは、ATTが「世界中の中小ビジネスやパブリッシャーに打撃」を与えると言い、小規模ビジネスの広告の効率が下がったり、小規模なパブリッシャーの媒体が生み出す利益が減ったりすることを懸念してます。このロジックでいうと、たとえば今まで次々と新しいゲームタイトルを開発してきた小規模なゲームデベロッパーの売り上げが減って、新作や新機能リリースが停滞する…といった事案も出てくるかもしれません。

ともあれ長期的には、個人を特定するようなターゲティング広告を手放していく動きが続きそうです。米国ではターゲティング広告禁止を法制化しようとする人たちもいます。あと3年とか5年経ったら、ネットの広告の見え方、ひいてはネットを使ったビジネスのあり方が、今とはだいぶ変わっているのかもしれません。

Source: The Information(1, 2), Apple, Business Insider, AppsFlyer, Google, Facebook

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