殺虫剤も効かない米国の凶暴アリ、お腹の虫でイチコロに

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  • author George Dvorsky - Gizmodo US
  • [原文]
  • 福田ミホ
殺虫剤も効かない米国の凶暴アリ、お腹の虫でイチコロに
Photo: Alex Wild/University of Texas at Austin

真菌の力ってすごい。

数年前、日本では毒を持ったヒアリが出没して、ちょっとパニックでしたよね。米国南部でも、最近「黄褐色クレイジーアント(Tawny crazy ant)」っていう凶暴なアリの一種が大繁殖して問題になってるんですが、その天敵が見つかったようです。それも虫とか動物じゃなく、ある種の菌がアリをほとんど根こそぎ駆逐してしまうんだとか。どんな菌なんでしょうか?

殺虫剤の効かないアリ

米国科学アカデミー紀要に掲載された新たな論文によれば、「Myrmecomorba nylanderiae」という病原微胞子虫は、黄褐色クレイジーアントの駆除に利用できて、かつ周りの環境にとって安全でもあるようです。テキサス大学オースティン校のプレスリリースで、この論文主著者でBrackenridge Field Laboratoryのテキサス外来種研究プログラムに所属するEdward LeBrun氏は、Myrmecomorba nylanderiaeが「絶滅危惧種のいるセンシティブな生息地や、保全価値のある地域の保護に対し高いポテンシャルがある」と言ってます。

黄褐色クレイジーアント(学名:Nylanderia fulva)は南米由来で、過去20年近くにわたり、米国のテキサス州・ミシシッピ州・フロリダ州・ルイジアナ州といった南部の州へと広がってきました。昆虫やクモ類、ムカデ類だけでなく、甲殻類、ときには爬虫類や哺乳類にまで害を及ぼすことがあります。黄褐色クレイジーアントから出る酸が目に入って見えなくなったウサギや、体中をアリに覆われたカメが後を絶ちません。生態系に危害を与えるだけでなく、人間のインフラへの脅威でもあり、エアコンなどの電気機器に集まってきて壊してしまうことでもよく知られています。

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コオロギを捕食する黄褐色クレイジーアント。
Image: Lawrence E. Gilbert

さらに黄褐色クレイジーアントには、一般的な殺虫剤が効きません。上の論文には、このアリが「外来種の中でももっともダメージが大きく、生物学的制御が広く困難であることが証明された」とあります。

菌が脂肪細胞をハイジャック

でも8年ほど前、LeBrun氏は奇妙なことに気づきました。ものすごい数の黄褐色クレイジーアントの腹部が、脂肪でふくらんでいたのです。この現象をたどっていったところ、Myrmecomorba nylanderiaeという病原微胞子虫によってできる胞子が原因だと特定されました。いわばお腹の虫が黄褐色クレイジーアントの脂肪細胞をハイジャックし、胞子をガンガン作り出させていたのです。

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黄褐色クレイジーアントの組織サンプルに見られる、病原真菌の胞子(濃色の部分)。
Image: Edward G. LeBrun

この病原真菌の出どころはまだわかっていません。アリが南米から持ってきたのかもしれないし、他の虫から伝染したのかもしれません。ともあれ、微胞子虫に感染した黄褐色クレイジーアントがテキサス州の大部分で見られるようになったことで、複数年にわたる研究が始まりました。2012年から2018年にかけて、LeBrun氏らの研究チームはテキサスの15カ所で黄褐色クレイジーアントのサンプルを調査し続けました。それにより、Myrmecomorba nylanderiaeの破壊的な影響がわかってきました。調査したすべての場所で黄褐色クレイジーアントの数が劇的に減り、62%が消えていたんです。

病原菌がそこまで強烈に効くことは、通常ではありえません。普通、生物集団は「感染頻度が増加・減少を繰り返すにつれて、急増・急減のサイクルを経ていく」とLeBrun氏は言います。アリが減った原因について、LeBrun氏らは個体数の減少が「主に冬に起こった」ことに着目しています。「個体数が減少したのは、感染した働きアリの寿命が、冬の繁殖期のすき間を埋めるには足りなくなったためだろう」と論文にはあり、「研究室におけるコロニーの断片の減少がこの仮説を支持している」とします。

重要なのは、Myrmecomorba nylanderiaeへの感染が黄褐色クレイジーアントにだけ見られ、他のアリや節足動物には影響していないことです。腹部がふくらむ、と聞いて、もしかして自分のお腹もこの菌のせいってことにできるのでは…と一瞬よぎった人もいるかもしれませんが、良くも悪くも人間や他の動物には感染しないようです。なのでLeBrun氏らは、黄褐色クレイジーアントだけをピンポイントで制御する手段としてこの菌を利用できるのではと考えています。

実験でてきめんの効果を確認

研究チームは2016年、テキサス州ウェスラコにある黄褐色クレイジーアントがはびこっていたエステロ・ラノ・グランデ州立公園でこの菌の実験をしました。「そこではクレイジーアントが繁殖してこの世の終わりのようになっていて、まるで川が流れるように、木という木をアリが上り下りしていました」とLeBrun氏はプレスリリースで言います。「私はまだ実験プロセスを始める準備ができていませんでしたが、それを見て、オーケーやってみようと思ったのです」

実験では感染したクレイジーアントを集め、エステロ・ラノ・グランデ州立公園に運びました。感染したアリが時限爆弾のように巣に入れられ、ホットドッグを使って未感染のアリが寄せ集められ、感染アリと混在させられました。その効果は絶大で、公園中の黄褐色クレイジーアントに真菌が広がりました。その2年後には黄褐色クレイジーアントがほぼゼロになり、土着の種が戻りつつあります。一方、感染させなかった黄褐色クレイジーアント集団は、実験と同じ時期にも減る気配が全くありませんでした。

研究チームは同じ実験をテキサス州オースティンのコンビクト・ヒルでも行ない、同様の結果を得ました。どちらの実験場所でも、「感染した巣の疾病負荷は、病原体が伝播し、黄褐色クレイジーアントの個体数が減少する期間、指数関数的に増加した」、黄褐色クレイジーアントの「個体数は、病原体が広範囲に定着した後、局地的な絶滅状態といえるほどに減少した」と論文にはあります。

2022年中にはテキサス州の他の場所でもさらなる実験が予定されていて、今後の成果が期待されます。生態系を脅かすアリを減らす以外に害のないナチュラルな手法なんて、ちょっと話がうますぎて薄く不安になるくらいですね。でも今後の実験でもポジティブな結果が出てくれば、米国の他の地域にも成果を広げられるかもしれません。

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