プーチン批判で不審死を遂げる記者やロシア侵攻で罪もない人が殺されるのを見て「プーチンに死を」と叫ぶのはヘイトスピーチなのか。
Meta(メタ)はロシア軍事侵攻の影響を受けている一部の国ではヘイトとみなされないと判断し、傘下のFacebookとInstagram両サービスにおいてヘイトスピーチ検閲ポリシーを一時的に緩和することにしました。
侵略された人たちの憤りをヘイトと一緒にはできない
この意思決定を検閲担当に伝える社内メールをReutersが独占入手して伝えたもので、日本語の抄訳版はこちらで読めます。
対象国はアルメニア、アゼルバイジャン、エストニア、ジョージア、ハンガリー、ラトビア、リトアニア、ポーランド、ルーマニア、ロシア、スロバキア、ウクライナ。改定後これらの国々では「プーチンに死を」「(隣国ベラルーシの傀儡政権の大統領の)ルカシェンコに死を」といった投稿をしても検閲にかからなくなります。
ちょうど2月にはウクライナ出身のサッカーのスター選手、オレクサンドル・ジンチェンコが「プーチンにもっとも苦しい死を」とインスタに投稿して自動削除されたばかりなので、そういう祖国を思う発言までもヘイトとひと括りにするのか?という批判に対応したものと思われます。
ロシアの民間人は対象外
もちろん民間のロシア人への暴力先導はNGです。飽くまでも戦略を指示する為政者と、指示に従う軍部のみが対象とのこと。そのあたり、Reutersが最初に「ロシア人とロシア軍」と報じたのがそのまま間違って伝わってるかもしれないので、念のため。
ロシアにも反戦の人たちがおり、「ロシア」とひと括りにするのはよくありません。
さらなるポリシー変更

なお、Reuters日本語抄訳版では割愛されていますが、Metaが削除対象から外したのはこれだけではありませんでした。通常では「危険分子・組織」の枠で削除されていたウクライナのネオナチ右翼過激組織・アゾフ大隊の支持も、まとめてOKになってしまっているんです。
最初に気づいて報じたのは、The Intercept。
国を守るため戦っているから大目に見ようといった判断なのだと思われますが、アゾフ大隊といえば、もともとは差別主義者の集まりで、最初の総司令官Andriy Biletsky(アンドリー・ビレツキー、以下動画の4:10~)は「ユダヤ率いる下等民族から白人を守る最後の聖戦でウクライナは先導的役割を果たす」と公言して憚らない人物です。
クリミアでウクライナとロシアが一戦交えてからは一応ウクライナ軍に編入されていますが、今も世界中の白人至上主義者から仮想通貨で活動資金を集めて独自に軍事演習し、外国人戦闘員も多数抱えています。いわば、国家の中に大統領も手に負えない差別国家があるかのような二重構造(日本語解説)。
もっとも、ポリシー変更で容認され「ない」のは、次のような投稿だということで、一定の線引きは敷かれているようですが。
・「 Goebbels, the Fuhrer and Azov, all are great models for national sacrifices and heroism(ゲッベルスも総統もアゾフも、みな国のために犠牲を厭わないヒーローの鑑だね)」
・「 Well done Azov for protecting Ukraine and it’s white nationalist heritage(ウクライナ防衛のためアゾフよくやってくれてる。白人至上主義の伝統ここにあり)」
それでなくてもウクライナ&ポーランド国境に駆け付けた避難民は白人と非白人の列に分けられて、非白人は何日も野宿で待たされたといいますし(妹が野宿だったアフリカ系アメリカ人ジャーナリストが怒っていた)、避難民殺到の電車も白人しか乗せてくれないという声も漏れ聞こえている厳しい状況です。
こんな投稿が無検閲で出てきたら「ウクライナのナチ化を防ぐ」という一方的な開戦理由を掲げるプーチンの思うつぼになってしまいますから。
Sources: Reuters, The Intercept