サイバーフィジカルな「Society 5.0」を目指す日本。AIなどの新しい技術が労働市場に与える影響とは?:研究結果

  • author 山田ちとら
サイバーフィジカルな「Society 5.0」を目指す日本。AIなどの新しい技術が労働市場に与える影響とは?:研究結果

新しいテクノロジーって雇用にどう影響してるんだろう?パート2。

ロボットや人工知能(AI)などの新技術は、私たちの暮らしに便利さを提供してくれる反面、人間の仕事を奪ってしまうリスクがあるとも考えられてきました。

たとえば野村総研が2015年に発表したニュースリリースでは、10〜20年後に「日本の労働人口の49%が人工知能やロボット等で代替」されるかも、と推計されていました。ほぼ半分ですよ?

その後の研究からは、置き換えはせいぜい10%程度に留まると言われてますが、それでも私たちの働き方がロボットやAIの導入により変わってきていることに変わりはありません。

すでに起きている「雇用の二極化」

そんな中、興味深い研究成果が続々と発表されています。

ついこないだ科学技術振興機構社会技術研究開発センター(JST-RISTEX)の「人と情報のエコシステム(HITE)」が開催したシンポジウムでは、5名の研究者がそれぞれの研究についてプレゼンし、その後のパネルディスカッションで新しいテクノロジーが労働市場に与えるプラスとマイナスの影響について議論を深めました。

冒頭での慶應義塾大学・山本勲教授のお話によれば、実はIT化などの技術革新による影響はすでに雇用の二極化として現れているのだそう。というのは、誰が作業を行っても成果品や結果が同じになることが要求される「ルーティーンタスク」は機械化が進みつつあり、雇用シェアも減ってきているそうなんですね。

一方で「ノンルーティーンタスク」はテクノロジーに置き換えられにくい、または置き換えがまだ不可能なため、雇用シェアは今後も上がっていくとのこと。そしてこのノンルーティーンタスクのうち、職種別賃金が低い肉体労働と、職種別賃金が高い知的労働とに二極化していく傾向にもあるそうです。

検証①:産業ロボットが増えた→日本の自動車産業の雇用も増えた

では、実際新しいテクノロジーを導入することで労働環境にどのような変化があったのでしょうか。

まずは産業ロボットの例から。東京大学・川口大司教授の研究によれば、日本の自動車産業においては、溶接ロボットの価格が大幅に下落したのを機に、ロボット普及率が上がりました。すると、ロボットが増えたことにより産業全体が活性化し、雇用も増えたそうです。

ただ、アメリカでは逆に産業ロボットを導入して自動化を進めた結果、仕事を失う人も、同じ仕事を続けていても賃金が低くなった人もいたそうです。なので、ロボットの導入が雇用に対して与える影響は、理論的に正にも負にもなりうるというのが結論でした。

検証②:AIを導入した→賃金・生産性・やりがいが高くなった

高崎経済大学・小林徹教授と慶應義塾大学・山本勲教授は、パネル調査という研究方法に基づいてAIが雇用に与える影響を調べたそうです。まずわかったのは、AIを導入済の職場は5.7%に留まり、日本ではまだ比較的少ないということ。

その上で、AIの導入が進むと、賃金と生産性とワークエンゲージメント(社員の仕事に対するやりがいや熱意など)が高くなり、反対に労働時間とはマイナスの相関関係があることもわかったそうです。これ、興味深いですよね!

AIを職場に導入するということは、当然AIに詳しかったり、ITスキルが高い人材が必要になります。そのようなスキルを持った人たちは頼られる存在になり、仕事へのやりがいを感じやすくなるでしょうし、結果的にお給料もアップする傾向に。先述の「賃金が高い知的なノンルーティーンタスク」の一例ですね。

ただ、まだAIの導入率が低いのと、もともと賃金が高い企業ほどAIの導入が進んでいるといった逆の因果性も否定できないそうなので、今後の研究も気になるところです。

検証③:AIを導入する際のハードルは「説明要求度」の高さ

実際に企業がAIを導入する際に、内部でどんなことが起こっていたのかをインタビュー調査した研究結果も。

ビジネスリサーチラボの伊達洋駆氏が13社を調査した中で浮かび上がってきたのは、導入を検討するとき、そして導入を決定するときの2度にわたって社内で説明が求められ、AIの導入を正当化する必要性があったことです。正当化がうまくいかなければ、AIは導入されません。

この際、説明要求度が比較的に低い場合(「ライバル会社がもう導入しているから、我々も導入しなければ」など)と、高い場合(従業員のキャリアや業務内容に影響するケース)があったそうです。後者の場合、人に直接影響が及ぶAIの活用においてはネガティブは感情が出やすいため、人とAIの役割の定義が重要となってくるそう。ですから、今後はAI技術・経営・現場に精通し、それらを説明によってつないでいける人材が求められていくとの指摘もありました。

サイバーフィジカルな未来:「Society 5.0」

内閣府が科学技術・イノベーション基本法に基づき2021年3月に発表した「第6期科学技術・イノベーション基本計画」では、日本の未来像として「Society 5.0」が掲げられています。

Society 5.0とは「サイバー空間とフィジカル空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立する人間中心の社会」。AIをはじめ、IoT、ロボティクス等の先端技術が高度化し、あらゆる産業や社会生活に取り入れられ、社会のあり方そのものが大きく変化する超スマート社会です。

このビジョンに沿って今後どんどんAI化・機械化が進んでいけば、AIなどに簡単なルーティーンタスクを任せる一方で、それ以外の難しい仕事は人間がこなしていかなければなりません。ということは、仕事といったら難解なタスクばかりで、逆にストレスが溜まってしまうのでは?という懸念もありますよね。

パネリストの文部科学省/内閣府・赤池伸一氏曰く、Society 5.0という未来を見据えて、そこから現在までバックキャストしてくると、今注力すべきはイノベーション力、研究力、そして教育・人材育成なのだそうです。

重要なのはウェルビーイング。たとえばAIに簡単な仕事を任せられる分労働時間が減るとしたら、その空いた時間をどのように楽しむかも重要となってきそうです。

Reference: JST-RISTEX「人と情報のエコシステム」(HITE), 内閣府

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